5月18日④:私はーーーーーーーーーーーーー
買い物を終えて、家への帰路へついた俺たちは、道中にある公園のベンチで一休みをしていた
自販機で買った水を二人で分け合って飲みつつ、水分を摂る
「羽依里、きつくないか?」
「平気だよ。何度も休憩しながら帰ってきたし・・・水分も補給したから」
休む度、何度も確認したけれど、確認しておかないと心配だから
「そろそろもう一回歩くか?」
「そうだね。後はもう五十里家まで」
「ああ」
手をつないで夜の道を歩いていく
時刻は夜七時。長い間連れ回していたような気がするが、高校生の外出時間としては可愛い部類だ
「たくさん買ったよな・・・」
「藤乃ちゃんも廉君もたくさん選んでくるから大変だったよ」
「それに加えて、絵莉も参戦してきたからなぁ・・・」
「量が多すぎて、まさかの宅配にしたのは驚きだったや」
「ああ。明日の昼には届くから、届いたら一緒に整理しような」
「うん。流石にあの量は一人で整理できないから、お願いできれば」
「ああ」
明日の予定がもう決まってしまった
羽依里の服を整理して、カメラの整備をする
緩やかだけど、まだ少しだけ忙しい休日になりそうだ
「でもさ、悠真はずっと見てばっかりだったよね」
「何をだ?」
「服を選ぶ時。何も言わずについてきてただけ」
「だって俺じゃわかんないし」
「わかんなくてもいいの。似合うか、似合わないか・・・それだけでも言ってくれると嬉しいんだよ?」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんです。できれば。次は悠真に選んでほしいけど」
「・・・俺が選んだら奇抜な服になるぞ」
「いいんだよ。悠真が選んでくれた服なら・・・私は何だって着こなして見せるから」
そういうものなのだろうか。さっぱりわからない
しかし、羽依里がやってほしいというのなら・・・まあ、おしゃれに無頓着な俺でもやってみる価値はあったりするのだろう
今度、頑張ってみよう
手始めに、女性向けファッション雑誌を読み漁るところから始めたほうがいいのだろうか
・・・そういえば、ファッション系統は全然読んだことなかったな。勉強も兼ねて見てみようか
「・・・!」
「・・・」
「あれ?」
五十里家に近づいてきた頃
なんだか少し騒がしい。もしかして・・・
母さん、帰ってきているのかな
でも、なんだろう。嫌な予感がする
「五十里家、少し騒がしいね・・・悠真?」
「羽依里、玄関先で少し待っていてくれ。様子、見に行くから」
「一人で?ちょっと、悠真」
「・・・羽依里ちゃん、少し待って」
「藤乃ちゃん・・・?」
「・・・今はダメ。悠真も引き止めてこないと。私が行くから、ここで待ってて」
「う、うん」
少し速歩きで、家の方へ向かう
この声は、父さんと母さん
でも二人共、何かを言い争っているような叫び声だ。何があったのだろうか
様子を見るためにベランダの方へ向かう
うちにはどうやら、千重里おばさんも、千夜莉お姉さんもいるらしい
「・・・全部、全部あの家が悪いのよ」
「智春、落ち着きなさい。それにさっきの・・・絶対に悠真の前で言うんじゃないわよ」
「事実でしょう?姉さんだって、同じ立場になれば同じことやらされてたんだよ?」
「それは・・・」
「もう一度言ってやる。私は・・・悠真を産みたくて産んだんじゃない。それは姉さんたちも、真弘もわかってるよね?」
その言葉に、頭が真っ白になった
今、なんて?
母さんは今・・・なんて言ったんだよ
産みたくて、産んだんじゃないって・・・
「・・・遅かったか」
「・・・嘘」
休み休み帰っていた俺達と違い、門限を守るために早めに帰宅していた藤乃は騒ぎを聞いていたのだろう
近くで俺たちが戻るのを見るために待機して・・・すべて聞いてしまった
羽依里は、藤乃が引き止めていたのかな
でも、来ちゃったんだ
聞いちゃったんだ
「・・・悠真」
「千重里おばさん。羽依里に今日の分の薬渡して。藤乃、羽依里を頼む」
「・・・」
「・・・悠真」
「羽依里ちゃん、今は行こう。うちで待ってるから」
薬を手渡された羽依里を連れた藤乃がうちに戻る姿を見守った後、俺は父さんと、うろたえる母さんの前に立つ
「・・・はっきり言えよ。「お前はあのジジイに命令されて、私たちが跡継ぎとして産まされた子供」だって」
「なんで、わかるの・・・」
「わかるだろ。あのジジイならやりかねないんだから」
「・・・」
図星なんて言わないでくれよ。少しは違うって言ってくれよ
なんで、嘘であってほしかった事があってるんだよ・・・
十八歳、高校卒業後に俺を産んだと知ってから、なんとなく予想は出来ていた
考えないようにしていたけど、頭の中ではもう・・・予想はまとまってしまっていたのだ
あのジジイが、自分が生きている間に自分の手駒にできる健康な男児の跡継ぎを欲しがっていることも知っていたから、出た答え
・・・あのジジイが俺に求めていることだから、もしかしてなんて思ったけど
まさか「前例」があったとはな
それが自分の両親で、結果が俺だなんて思いたくはなかったけど
「・・・まあ事情はわかったから。とりあえず後は「家族」でよろしくやってください」
今まで父さんと思っていた人も、母さんだと思っていた人も、伯母だと思っていた人たちも、全部真っ黒に見える
強がりながら、ベランダから外に出て・・・
そのまま、今まで羽依里と歩いてきた道を駆けていく
「あのバカ悠真・・・!こっちに避難して来いって」
「ごめん藤乃ちゃん。私、追いかけないと」
「羽依里ちゃん!?」
薬を片手に、羽依里もまた俺を追いかけていった
・・
一方、都市空港
ある人物は、あの電話以降必死に仕事に取り組み、日本に滞在できる日を二日だけ確保した
十九日と二十日。日曜日と月曜日だ
月曜の夜には戻らないといけないけれど・・・それだけあればあの電話の続きが聞けると、その時の彼女は考えていた
「やっと日本。土岐山まで遠いわね・・・」
「・・・悠真君に早く話を聞きたくて休みを無理やりこじ開けたけど、二人共部活とかで忙しかったりするのかしら。写真部、やっているのよね。それも含めて話を聞かないと」
白咲円佳は、もうすぐ会える娘とその彼氏に思いを馳せながら、土岐山への道を進んでいく
その先で、何が起こっているのか知るのは・・・もう少し




