5月18日②:悠真を可愛さで萌え殺す服をいっぱい選ぶからね!
「手始めにここだ」
「ここは?」
到着した店に掲げられた看板は「ひすい制服店」
ここが、最初の目的地だ
「うちの学校の制服を卸してるところだよ」
「まずは羽依里の夏服を発注しに来たんだ」
店の扉を開ける
どうか店主さんであってほしいなぁ、と思いつつ・・・その先にいたのは
「五十里君だ。へぇ、イメチェンしたって本当なんだね」
「川蝉。いたのか」
残念。今日は彼女が店番の日だったらしい
高総体の前だし、てっきり部活かと思ったのだが・・・今日は店番優先か
店番を担当している彼女は川蝉優
お隣の特進クラスに在籍している土岐山高校の三年女子生徒だ
テストの事もあって、何度か英城寺と揉める一方で、彼女とは割と友好的な関係を築けていると思っている
「そうだよ」
「部活は?弓道部だろ、確か」
「今日は休んだ。お母さんが風邪引いちゃってさ。お父さんも所用で家を出ないといけなくて、店番する人が確保できなかったんだよ。大変だよね、こういう時」
「それは大変だな。大丈夫か?買ってくるものあれば、代わりに買ってきてやるけど」
「流石にそこまでお世話されるほどじゃないよ。でも気持ちは助かる。ありがとうね」
「いえいえ。ま、家が店やってるし、気持ちはわかるからさ。何かあれば相談してくれ」
「助かるよ」
川蝉の家は、今はこうして緩やかに過ごしているけれど、土岐山高校と中学の制服を卸している場所だ
衣替えの季節。この時期は若干忙しくなるらしい
もちろん、新入生の制服発注がメインだけど・・・ここで受け持つのは、それ以外
去年まで着られていた服が着られなくなっていたりする生徒は少なからずいる
体格が大きく変わるものだっているだろう
そういう時に、新しい制服を見繕うのがここだ
「今日は高校女子制服の発注を頼みたくてな。どれぐらいでできる?」
「え、君が着るの・・・?」
「違う。こっちの彼女だ」
俺の影に隠れていた羽依里は、川蝉に軽く会釈をしてくれる
それでやっと川蝉の誤解?も解けて、話が進んでくれる
「ああ。君が噂の」
「噂?」
「うん。他クラスでは二組にあの五十里を制御できる女の子が現れたって噂になっていて」
「間違ってはいないな」
「会えて光栄だよ。私は一組の川蝉優。クラスは違えども、同級生なわけだし、仲良くしてくれると嬉しいな。君の名前は?」
「に、二組の白咲羽依里です。こちらこそよろしくお願いしますね」
「よろしく。あと敬語はいらないよ」
「そ、そっか。じゃあお言葉に甘えるね」
新しい縁だ。川蝉に会えるとは思っていなかったけど、特進との繋がりもきっと羽依里にいい影響を与えてくれるだろう
「それでいい。それで、五十里君。白咲ちゃんは君にとってどういう関係なのかな?」
「彼女。元々家が隣同士の幼馴染なんだよ」
「へぇ。彼女の家も、吹田ちゃんや穂月ちゃんのようにお店なのかな?」
「違う。普通のご家庭だよ」
「なるほど」
川蝉は羽依里をジロジロと見つつ、首をかしげる
そして俺をじっと見つめるのだ
言いたいことはわかる。だからはっきり言ってくれ
「いや、まさか君がイメチェンした理由が、スタンダードに「彼女が出来たから」とは思っていなかったよ」
「驚いた。「羽依里にはもっといい男がいる」と、いわれるかと」
「流石にそんなことは言わないよ。けど、英城寺なら言いかねないから気をつけなよ」
「わかってる。あいつは言いかねないからな」
棚から制服の発注書を出しつつ、忠告を軽くしてくれる
その忠告を心に刻みつつ、羽依里に必要事項を書いてもらう
「もうすぐ中間考査だけど、自信のほどは?」
「今回は俺より頭がいい羽依里が本格参戦する混戦だ。絵莉も尚介も国立狙いで本気出してくるぞ。英城寺も川蝉もやばいかもな。俺はもうすでに一位は諦めかけてる」
「二年生の時も五十里から首位奪えって言われてたのに、五十里超えの追加はしんどいって・・・白咲さん、加減して?」
「ごめんね。私も国立狙ってるから。手を抜けないの」
「これは頑張らないと。五十里はどうする?手を抜くの?」
「抜かないよ。俺の全力で頑張るまでさ。一応、一年から首位のプライドはあるし」
「そっか。じゃあ」
羽依里が書いた発注書を受け取った川蝉は、俺達に拳を突きつけてくる
俺と羽依里は互いに顔を見合わせて、その拳に自分たちの拳を触れさせた
「お互い頑張ろう」
「ああ」
「うん」
互いに背負っているものが、やりたいことがある
そのための通過点。三年中間と期末は、その道に大きく作用する存在だ
ここで全力を出さないと、その道は閉ざされる場合もある
少なくとも、進路が明確になっている羽依里と絵莉と尚介は、ここで結果を出しておかないと後先がきつくなるだろう
今回は、全員が各自本気でかかってくる
不安だけど、俺だってプライドがある。譲り渡すわけにはいかない
それは英城寺にも、絵莉にも、尚介にも、川蝉にも・・・もちろん、羽依里にも渡すことが出来ない
「そういえば、吹田ちゃんいたよね」
「ああ。店内にいるんじゃないか?」
「宣戦布告してくる。目指すは一位だけど・・・彼女から奪われた三位だけは奪い返すつもりだから!」
「尚介は?」
「学校であったら宣戦布告する!この前は四位まで奪われたからね・・・!」
川蝉は店内にいた絵莉を見つけて、どうやら追い回しているらしい
その様子を静かに見守る
正確には、見守ることしかできないけど・・・
「川蝉さんって・・・もしかしなくても」
「好戦的」
「やっぱり・・・」
絵莉の叫び声が聞こえる。川蝉に捕獲されたのだろう
絵莉曰く「その追いかける姿は化け物のそれ」だったそうだ
しかし近くにいた藤乃も廉も、その姿を目撃してない
川蝉が絵莉を追い回していた姿がどうだったのか・・・その真相は不明のまま、俺達はひすい制服店を後にした
・・
ひすい制服店を出た俺達は次の目的地である商業施設までやってきていた
「やっぱり買い物といえばここだよね〜」
「好みの物があればいいけど・・・」
廉と藤乃が先行して、不慣れな俺たちを道案内してくれる
この二人はここに来る頻度が高いそうだ
それに、二人揃ってセンスがいい。そのため、今回の助っ人としては最適なのだ
「ねえ悠真。ここでは何を買うの?」
「羽依里の夏服。私服的な意味でな。そろそろ揃えておこうかって思って。全然だろう?」
「ああ・・・確かに」
「廉と藤乃はそのために呼んだ。俺じゃおしゃれとか全然わかんないし。あの二人だったら羽依里の好みに合わせて店も服も選んでくれると思ったから」
「羽依里ちゃん着せかえ人形計画にノリました!」
「超楽しみ。悠真を可愛さで萌え殺す服をいっぱい選ぶからね!」
「二人共、やりすぎないでくれ。特に藤乃」
「廉はいいんだ」
「・・・羽依里らしさを損なわずに俺を殺す服。どういうものか非常に興味がある」
「何着ても可愛さで殺せるような気がするのは僕の気のせいだといいな」
お二人の心意気はこんな感じだ
後、俺は命の危機にさらされているらしい。なんか不安だ
「それと、中間服で着るカーディガンとかもここで見ようかなって。もうすぐ衣替えだから」
「そうだったね。上に羽織るものがあったほうがいいよね」
「うちの学校、エアコンの温度きっついんだよ。超寒い。絶対長袖あったほうがいい」
「直撃組はだいたいジャージ羽織ってるよな」
「そこまで・・・」
「「直撃なのに上着を羽織らないのは尚介ぐらいだよなぁ」」
「・・・丈夫だね、尚介君」
いないのに話題になる男。笹宮尚介
今頃家族団らんを過ごしている頃だろう。元々家族思いな尚介だ。喧嘩して仲直りしてから初めての休日で、尚子さんの記憶を取り戻した尚介に取って初めての墓参りなわけだし、今日ぐらいはしっかり家族で過ごさせてあげたい
「さて、先にカーディガンから見ようか。廉と藤乃も見たいって言ってたよな」
「うん!新しい藤色カーディガンが欲しくてね!」
「僕も、ニットベストが欲しくてね!ここのがいい感じだからぜひとも今日の機会に!」
「絵莉は?」
「私はパーカーで押し通すから」
「不良かよ」
「言ってろ」
「羽依里はどうする?カーディガンでいいか?」
「ええっと、私は・・・考えていることがあって。その」
「ん?」
「と、とりあえずお店に行ってみないとわからないから、先にお店行こっか!」
「ああ。わかったよ」
羽依里には何か考えがあるようだ
どんな考えか気になるが、とりあえず先にお店に向かおう
羽依里の話を聞くのは、その後だ




