表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
皐月の章:若く芽吹いた心に、変化のきっかけを
90/128

5月16日②:私も混ざってそわりたいしさ

三時間目の休憩時間

俺たちはずっと、朝の様子が気になって・・・授業に集中できていなかった


「そわそわ・・・」

「そわわ・・・」

「・・・絵莉、藤乃。悠真と羽依里は何やってんだ?」


休み時間もずっと朝の様子が気になってそわそわしている俺達を不思議そうに思った尚介と廉が、事情を知っていそうな絵莉と藤乃に声をかけた


もちろん、朝学校に来た時に絵莉と藤乃には事情を話している

羽依里もこの調子だ。心労が祟らないよう俺なりに気を遣ってはいるが、何があるかわからないので、二人にも気を配ってもらいたかったからだ


もちろん、尚介と廉も巻き込む気でいたのだが・・・二人は今日、珍しく登校時間を過ぎての登校だった

俗に言う遅刻というやつである。尚介は二時間目から、廉は先程来たばかりだ

だからまだ、事情は話せていない

廉はともかく尚介が珍しいなぁ、と思っていたら・・・どうやら二人が登校に使っている電車で事故があったらしい

それからずっと立ち往生だったと、二人と同じ方面から来ている生徒はうんざりしながら授業に合流していった


「尚介。これは仕方ないそわそわなんだよ・・・私も混ざってそわりたいしさ」

「尚介と廉は、朝ちゃんわかるよね?」

「ああ。悠真の妹だろ」

「会ったことないけど、名前だけは」


話にならない俺たちを放って、絵莉と藤乃が尚介と廉に事情を話してくれる

ちょっとだけボリュームを抑え、俺達に聞こえなくなる程度の声で


「昨日怪我しちゃったんだってさ。朝から病院に行くらしいんだけど・・・二人共、朝ちゃんが頭から血を流してるところ見てるから、無事かどうか気になっているみたい。今は連絡待ち」

「頭かぁ・・・」

「病院行くレベルなんだろ?縫う羽目とかにならないといいんだが・・・」

「悠真が見た限り、縫うことにはなりそうだって言ってたよ。後、朝から酷い頭痛があったんだってさ」

「まずいな・・・」

「何がまずいの、尚介?」


藤乃と絵莉と尚介は、朝が何をしているか知っている

事情を知らない廉だけは、なぜ俺たちが不安げになっているのかわからないでいた


「朝ちゃん・・・ソフトやってるんだよ」

「ソフトボール?この時期に怪我って、まずくない?」

「そういうこと。流石に縫合してる状態で運動は出来ないからね」

「それに、悠真の手前・・・藤乃さんはあえて言わなかったんだけど、流石に流血だけで、頭にガンガンくる感じの頭痛があるっておかしくない?なんか、凄く嫌な予感するんだけど・・・」

「藤乃ちゃんさぁ・・・フラグ建てるのやめよっか」


廉が呆れながら藤乃を突く

いいぞもっとやれ。そんな物騒なことをいう藤乃を懲らしめてくれ

ついでにフラグとやらもへし折ってくれ


「中総体、もうすぐだよね?」

「まだ先。八月だぞ。俺、中学の時に夏休み返上した記憶あるし」

「それ全国だよ、尚介。ええっと・・・ソフトの地方大会と県大会は六月上旬って検索したら出たよ」

「ただ縫うだけなら、ギリギリ六月の試合に間に合うだろうけど・・・」


それで済まない時は・・・仲間に賭けるしかない

正直、もしも縫合だけで済むならば、絵莉の言う通り六月の試合にはギリギリ出られるだろう

しかし、怪我でブランク明け・・・正直、参加は厳しいと思っている


それに引っかかるのはやはり朝から感じていたひどい頭痛

頭を流血するような怪我だけで、起き上がれないほどの頭痛がするなんておかしい


「・・・まさかな」


両手を握りしめて、祈りを込める

どうか、朝の怪我が早く治るものでありますように

そう、願いながら・・・俺たちは今日の学校生活を終えた


・・


俺たち側は何もなく、家に帰る


「朝、もう帰ってきてるよな」

「うん。早く大丈夫だったか聞こうね」


千夜莉お姉さんは意地悪なことに、俺達に朝の症状を連絡するとか登校前に言っていたのに、連絡一つよこしてくれなかった

お陰で今日が終わるまでずっとそわそわする羽目になったじゃないか


「ただいま・・・あれ」

「おかえり、悠真」

「・・・千重里おばさん。もうついてたんだ」

「正確には、あんた達を迎えに来たの。荷物置いて付いて来て」

「・・・俺、今から朝の様子見に行くんだけど」

「その朝の様子を見に行くのよ」

「・・・どこに?家じゃないのかよ」


千重里おばさんは、俺と羽依里を静かに抱きしめてくれる

心臓の音が煩かった

けど、千重里おばさんが抱きしめてくれたお陰で、その音は収まり・・・静かになった

静かな玄関先に、俺と羽依里の少しだけ浅い呼吸の音だけが、響き渡る


「落ち着いて。動揺したって、困惑したって、流れに任せて怒ったって・・・状況は変わらないわ」

「・・・」

「うん」


千重里おばさんの身体が離される

落ち着きを取り戻したと思ったおばさんは、静かに続きを話してくれた

けれど、この先は約束された最悪の未来なんだろう

朝にとっての、最悪が待っている

不安そうに手を握りしめていた羽依里の手を取り、そのまま彼女を支えるようにして立つ

何があっても、大丈夫なように


「一番辛いのは朝よ。あんたたちに連絡しなかったのは・・・あんたたちがこうなることがわかっていたから」

「・・・だろうな」

「だと、思いました」


連絡しなった理由は腑に落ちる

けど、朝はどこにいる?一体何があったんだ?


「それで、朝は今どこに?」

「・・・土岐山病院。経過観察の為に、一週間ほど入院よ」

「・・・なんで」

「頭蓋骨にヒビ、入ってたみたいなの。千夜莉の話だと、あんたが登校した後、布団に嘔吐して・・・痙攣も起こし始めたから救急車呼んだんだと」

「・・・」


辛い朝を無理やり起こして、耐えきれない頭痛以外は大丈夫なように見せて・・・

妹に、無理させて・・・こんなの、お兄ちゃん失格じゃないか


「とりあえず、土岐山病院に行くわよ。それから、一応先に言うけど・・・」

「何をだ」

「朝、経過観察が終わったら退院していいけど、部活は禁止。数ヶ月は頭に気を遣いながら生活しないといけないって」

「・・・つまり、そういうこと、だよな」

「そういうことよ。はっきり言っておくわ。あの子の中学三年間の部活は、ここでおしまい。相当ショック受けてるわ。なんか、それ以上に「取り返しがつかないことになる」なんて言っていたけど・・・心当たりある?」


・・・朝。自分のケガのことよりチームの心配かよ

らしいと言えばらしい・・・こういうときぐらい自分の心配をしてくれよ

けれど、昨日の事態を間近に見た人間としては・・・俺も気にかかることがある

あの状況で朝の怪我がぶつかるとなれば、後輩二人の亀裂はさらに凄まじいものになるだろう

百合ちゃんにも影響はかなりあるだろう

・・・これ以上、事態が悪化することは避けられない

けれどまずは、朝のことだ


「心当たりがある」

「そう。それなら話聞いてあげて。私達じゃ、事情も何も教えてくれないからどうしたらいいかわからなくて。頼りきって申し訳ないけれど・・・」

「いい。気にしないでくれ。それよりも千重里おばさん。早く朝のところに行こう。今一人だろうし、面会時間のこともある」

「わかったわ。車、持ってくるから少し待っていなさい」


千重里おばさんは事態を伝えてくれると、俺と羽依里を玄関に置いて、自分の車の元へ向かう


「・・・悠真、大丈夫?」

「それは俺の台詞だよ、羽依里。息は辛くないか?心臓痛くないか?」

「ちょっと痛い・・・」

「土岐山総合病院行くし、ついでに見てもらうか?」

「ううん。いい。これは持病じゃない痛みだから。多分今、悠真も同じ痛さをここに持っているはず」


羽依里が指先で俺の心臓をなぞる

不安できゅっと締め付けられる感覚

痛いと言えば痛い。けど、顔には見せない

わかっているとは言え、明確に痛いと言ってしまったら、羽依里をさらに心配させるから


「この痛みは・・・朝ちゃんに会えれば落ち着いてくれると思うから」

「そうか。ありがとうな、心配してくれて」

「妹みたいな存在ですので。悠真自身、私になにかあるか不安に思うかもしれないけれど、最後まで連れて行ってほしい。お願い」

「・・・わかった。けど、別の痛みが来たらすぐに言ってくれ」

「わかってる」


手を繋いだまま、俺達は家の外に出る

戸締まりをして、千重里おばさんと合流して・・・俺たちは朝がいる土岐山病院へと向かっていった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ