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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
雪笹の章:今までを取り戻す感謝の花束を
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5月11日①:それぞれの早朝

「朝から騒がしいんですけどー」


部屋の窓を開けて、声がする方を見る

そこには、寝間着代わりにしていたであろう学校ジャージ姿で窓を開ける尚介

その奥にはまだ寝ぼけている悠真と羽依里ちゃんだ

・・・なんで同じ部屋にいるの、あの三人


まあ、ぱっと想像しちゃうようなやましいことなんてあのメンツじゃ起こらないだろうけど・・・ちょっと気になるな

何がどうして、三人一緒に過ごすことになるのか

藤乃さん、気になっちゃうなぁ・・・


「おはよす尚介〜」

「ん?ああ、お向かいだったもんな。おはよ、藤乃。今日もいい天気だな」

「そうだねぇ。あ、流石にこう会話するのご近所さんにご迷惑だから後でそっち行くね。三人一緒なのは後で事情聞かせて。それから廉と絵莉ちゃんも様子見に来るってさ」

「心配してくれるのはありがたいが、いいって全員集合しなくたって・・・ん?」


「どしたん尚介」

「絵莉、来るって?」

「うん。写真館の方に午前中使う花を配達するらしいんだよね。それ以降はフリーだからついでに様子見に来るってさ」

「丁度いい。少し協力しろ、藤乃。後のやり取りはこっち」


スマホを前に出した彼の言いたいことは、後に送られてきたメッセージで把握する

なるほどね、なるなる。藤乃さんわかっちゃったよ

これは廉にも共有しておこう

今日は面白いことになりそう。楽しみだ


・・


朝、お父さんのお手伝いをしていると尚介からメッセージが飛んでくる

確かに今日はピッタリで、うちで手配はできるけど・・・

急に言っても、用意できるかな


「どうした、絵莉」

「あー・・・お父さん。今日はあれ、絶対あるよね。束にして配達の時に持っていっていい?」

「あれ。ああ、あれか。今日売り時のあれな。いいけど・・・なんで」

「友達からの依頼。お金は後払いで・・・できれば割引してあげたいんだけど」

「・・・経費で落とすから、三十本までなら持っていっていいぞ。綺麗なの持っていってやれ」

「ありがとう」

「いいって。お前がそう言うの珍しいし」


確かに「友達が」とかいうの久しぶりかも

・・・お父さん、心配してたのかな

あの日のことも知ってるし・・・人付き合いが極端に減ったのも、何もかも


「苦労かけてるしでなるべくしてやれることはちゃんとしてやりたいし」

「苦労なんて・・・」

「片親だからって理由で、しかも父親だし・・・小さい頃の絵莉にはかなり苦労かけたろ」

「そんなことないよ。普通だよ、お父さん」


「だったらさ、なんで未だに悠真と羽依里ちゃんと仲直りしてないんだよ」

「それは、気まずくて・・・」

「気まずくても、絵莉自身が悪くなくても、少なくとも羽依里ちゃんの髪を切っちゃったことは絵莉がしたことなんだから」

「そう、だね・・・」

「まあ絵莉自身、二人と昔みたいに関わりたくないっていうのなら俺はもう何も言わないけどな」

「そんなことない!」


自分でもかなり強気で出た気がする

その声にお父さんは一瞬ビックリしてたけど、いつもどおりの無表情に戻って私の頭を小さくぽんぽんと叩く


「その意気があればちゃんとできる。絵莉はちゃんとできる子なんだから」

「・・・ありがと」

「あ、そうそう。今日母の日だから、家出る前に花瓶へカーネーションを一輪差しておいてくれ」

「わかった」


我が家は毎年母の日になるとカーネーションを仏壇前に置いてある花瓶にカーネーションを活ける

普通はありえない光景に私は一度お母さんに「いいの?」と聞いたことがある

お父さんの返答は「今日は形式とか、作法とか、一般常識とかいいんだよ。絵莉が送ってくれたって事実が、花恵も喜ぶだろうから」と


元々、家の花屋はお母さんがやりたくて起業したらしい

花が大好きな人で、今は世話が出来なくて撤去しちゃったけど、家の庭もお母さんが育てた色々な花が咲き誇っていた

そんなお母さんが特に好きなのは・・・


『お母さんはカーネーションが大好きなんですよ』

『ほんと?』

『はい。だから、絵莉ちゃんから毎年貰いたいなぁ、なんて思っちゃってるわけです』

『感謝とか、込めて?』

『お、絵莉ちゃん幼稚園で教えてもらったのですか?そうですね、母の日のカーネーションはお母さんにありがとうを伝えるために贈るものなのですが・・・』


けれど、とお母さんは続けてくれたのを今でも覚えている

忘れたくないことだから、大事な、お母さんとの記憶だから


『けれど、お母さんはありがとうって言われる事と同じぐらい、絵莉ちゃんからお花をもらう事が嬉しかったりするんですよ』

『そうなの?』

『はい。絵莉ちゃんがお母さんを思って一生懸命選んでくれたお花をお母さんにくれることが嬉しいのです!』


そういったお母さんのために、毎日お花をあげたっけ

家のお手伝いをして、お花を買ってお母さんに贈る

入院して、亡くなる日まで

亡くなった後は・・・こうして仏壇の花瓶に活けるようになったけど

それでも習慣は変わらない


「お母さん、今日は母の日だね」


誰もいないリビングに響く私だけの声

返事はもちろんないけれど、一方的に話していく


「・・・今日はさ、尚介がご両親というか、なんていうか家族と話し合いするんだって。今までお母さんをしてくれていた人も来るそうだから、無事に仲直りできればいいんだけど・・・大丈夫だと思う?」

「それとね、私・・・今日は悠真君と羽依里ちゃんと昔のこと、話してこようと思うんだ。頑張るから、見守っていてほしい」


仏壇の前で、宣言をしておく

お母さんの前では嘘を吐きたくないから


『頑張ってくださいねー!絵莉ちゃん!ふぁいと!ふぁいと!』

「!?」


一瞬、お母さんの弾むような声が聞こえたような気がする

今日だけは本当だと思って私は進む

向かうべき場所は、五十里家だ


・・


昨日はまあ、色々あったし・・・今日はのんびり寝ていたいなぁ、とか思ったり

でも着信音が休息を取らせてくれない

・・・うざいなぁ。寝かせてよ


「廉、電話鳴ってるけどいいの?」

「いいって。着信音も重要なものじゃないし、休日だしで大した用事じゃないでしょ。放置で。疲れてるから寝かせてよ・・・」


御爺様が入院している病院からの着信音は違うものに設定している

この着信音は、どうでもいいものの着信音

悠真と仕事関係はまた別に着信音を変更しているけれど、後はどうでもいいとしてデフォルト着信音にしているから


「でも、藤乃って表示出てるよ?」

「藤乃?珍しいね・・・」

「何?廉君は他の子も誑かしてるの?どんな子?」

「美人だよ。でも、食べたことはないね。食欲も湧かないや」

「珍しいね、そんな女の子。その気にもさせてくれない感じ?」

「同級生だよ?その気になってもやる気は起きないし、それに藤乃自身させてくれるような軽い女じゃないんだ」

「それを言ったら私、廉的には軽い女なわけ?」

「そうだねぇ。僕以外にもこんなことしてるのならそんな表現をしないとね。でも、君は僕だけでしょう?僕を愛してくれる優しい女の子に決まっているじゃない」


名前すらわからない女の子は頬を赤らめて、その甘言に酔いしれる

・・・ああ、つまんないなぁ

こんな嘘で塗り固めた言葉で満足できる女の子なんて・・・面白みも何もない


『悠真』


想像するのは、友人を慕う金髪の少女

三年生になって突如現れ、悠真を一途に思う少女

正直、羨ましい

あそこまでに誰かを想えることが、誰かに愛されることが

でもあそこまで一途な彼女の感情を奪うことなんて出来ないと思うし、奪ったら奪ったで一人の人生を狂わせてしまいそう


「シャワー浴びておいで。その間に連絡返すから」

「聞かれたくないの?」

「聞かれたくない。プライベートだから。そういう約束でしょう?破ったら、もう会えなくなるんだから」

「うん。じゃあ、先行ってるね」


彼女が別室に移動した後、服を軽く着てからベランダへ

藤乃からの電話は不在着信になっていて、折返しという形で彼女に連絡を返す


「藤乃、どうしたの?」

『休みの日に折り返し。トドメにその元気さ・・・今日も女遊びかなぁ?流石だね、廉。女の子誑かすのはお得意技なんだねぇ』

「その気になれば男だって誑かせるけど」

『え、両方イケるの?』

「両方イケるけど?」

『ひえぇ・・・やばいね。その渇望、どうにかならないの?』

「ならないよ。満たしてくれる相手がいないんだから」

『可哀想』

「・・・なにか言った?」

『なんでもないよ。そうそう。今日の約束忘れてないよね?』

「覚えてるよ。悠真の家でしょ?」

『うん。覚えているのならいいんだ。ちゃんと遅刻しないでくるんだよ〜?』


どの口が言うんだか・・・「大嘘つき」め

この女が一番深いところまで見えないんだよな。できれば関わり合いになりたくないレベル

僕の秘密まで「観察」で暴いてきたような女だ。行動と対応には気をつけておきたい

高校卒業まではきちんとご機嫌をとりつつ「友達」を続けないと

今の俺が今を続けるために

荒々しい手付きで電話を切り、出かける準備を整えていく


「ごめん、早く合流しないといけなくなったから先出とくね」

「え〜」

「今度、埋め合わせするからさ」

「それならいいけど」

「約束ね」


学校に行くときと同じように、部屋を出て、目的地へ向かう

これからは普通の男子高校生としてひとときを楽しもう

つまらない、高校生らしい日常を楽しみに

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