5月10日④:持ちつ持たれつってやつだよ、悠真君?
「・・・」
「尚介君、大丈夫?顔色悪いよ?」
呼び出しを終えた後、俺達は帰路をのんびり歩いていく
本来なら逆方向に帰宅する尚介が一緒の道を歩いているのは少し新鮮だ
「いや・・・大丈夫だ。しかし本当にいいのか、悠真」
「母さんからの許可は出たし問題はないよ。問題は尚介」
「な、なんだ・・・」
「凄く、大事なことなんだが」
「あ、ああ・・」
「客間、使えないから俺と一緒の部屋で寝てもらわないといけないんだが・・・問題ないか?」
これは、羽依里と尚介にとってもどうでも良すぎる問題だったらしい
二人して力が抜けた感じがした
・・・よかった。二人して表情が硬かったから
いつもどおりになった二人に「冗談」ということを悟られないように、半分ふざけながら話を続けていく
「別にいいよ。同じお客様だからって理由で羽依里と客間で寝ろって言われるよりマシだ。あの部屋は狭いけど・・・まあ、どうにかなるさ」
男二人で俺の部屋となると、狭すぎてほぼ密着状態だろう
誘ってなんだが、申し訳ない
だからといって客間を使ってもらうわけにはいかない・・・どうしたものか・・・
「そうか、俺と羽依里が俺の部屋で寝て、尚介が客間に行けばいいのか」
「いい考えみたいに閃いているが、全然良くないからな。学生たるもの健全であれ」
尚介から軽めのチョップを頭に与えられる
痛くも痒くもないけれど、少しだけ思ったことを言わせてほしい
「・・・尚介、こういう話題の時、めちゃくちゃ厳しめだよな」
「・・・なんだよ、こういう話題って」
「色恋沙汰?」
「言い方古くね・・・?そりゃあ、まあ・・・興味がないわけじゃないけど、俺としてはもう少し人生経験を詰んでからでもいいと考えていて、でも周囲にそう、ほら、付き合ってる人とかいればさ、自然とどうなってるのかな、どこまで進んだのかなとか・・・気になるわけでして。悠真と羽依里がどこまで行こうが俺には関係ないし、とやかく言う義理はないけれど、学生なんだから節度を弁えてだな・・・?」
「・・・尚介、こういう話題になると凄く早口になるな」
「そうか?」
「無自覚なんだね・・・」
うちの運搬担当の春はいつ来るかわからないけれど、なんというか、相手の人は苦労しそうだ
その手の話題に好奇心はあるけれど、付き合いは健全でなければいけない
そんな少々面倒臭さの漂う彼と同じ価値観はともかく、理解をした上で一緒に歩いてくれる人がいるのだろうか
「悠真」
「どうした、羽依里」
「前に朝ちゃんがいるから。なんでかなって。今日は部活ないんだっけ?」
羽依里が示した先には、確かに朝が立っている。隣には百合ちゃんもいるようだ
確かに、この時間に朝と百合ちゃんを見るのは珍しい
部活は・・・ああ、そうか。そろそろあの時期か
部活なんてしている場合じゃないな
「中学もそろそろ中間の時期だから部活休止だと思うぞ」
「へえ、こっちは中間テストあるのか」
「中間テストってあったりなかったりするの?」
「俺の出身「暁第二中」は一学期に関しては期末一つだったけど・・・」
「土岐山中は俺が通っていた時期も中間はあったな」
「へぇ・・・」
尚介の出身はお隣の暁市と聞いている
廉も暁市の出身だが、出身はそれぞれ「暁第二」と「暁第一」と異なっているそうだ
なので二人は同じ市に住んでいるけれど、面識は高校に入るまで一切なかったと聞く
ただ、存在は互いに認知していたらしい
廉曰く、尚介は中学時代、柔道で好成績を収めているから地域新聞や学校通信とかで実家の名前や尚介の名前をよく見かけていたそうだ
廉は中学時代、とある雑誌のモデルをしていたそうだ
「暁第一中学校に在籍している学生モデル」でよく校内の中で話題になっており、女子顔負けの可愛さを誇るということもあって、よく男子の間でも見に行かないかと話がよく出てきていたらしい
しかし当時の尚介は柔道一筋。中学時代の廉を見に行くことはなかったそうだ
ちなみにそのモデル活動は休日だけだが、今も続けている・・・と、千夜莉おばさんが言っていた
・・・廉が中学の時にやっていたのはまさかの「女装モデル」
それがどういう意味なのか、羽依里と尚介、藤乃や吹田には黙っておくし、なんなら廉にも知っていることは話さないが
かなり、衝撃的だったということだけは言っておこう
まあ、とにかく今は朝だ
せっかくだし、声をかけようか。帰り道も一緒なわけだし
「朝」
「あ、おにい・・・それに羽依里ちゃんとええっと・・・笹宮さん。帰り?」
「ああ。朝と百合ちゃんも帰りか?」
「そうだよ悠真君。中間近いからね・・・部活無しで勉強しないといけなんだ。赤点取ったら部活動停止だからね。中総体にも出られなくなっちゃうから」
なるほど。そういうシステムがあったのか
中学時代は部活動に入ってなかったから知らなかった
「今から朝と一緒に勉強するから、五十里家にお邪魔する予定」
「そっか。邪魔しないようにしないとな。それと、朝」
「何?」
「土日、尚介がうちに泊まるから」
「了解・・・ってやけに唐突だね?」
「まあ、色々合ってな。お邪魔させてもらうよ」
「いえ。お気になさらず。自分の家のようにって言うのは難しいかもしれませんが、ゆっくりされてくださいね」
「ありがとうございます」
丁寧な対応な朝に、丁寧に返す尚介
しかし、朝の口角は若干引きつっている
別に朝が尚介を苦手としているわけではない。ただ、慣れないだけなのだ
「人見知り、出てるね」
「あれでもマシな方だよ。一人で会話ができてるんだから」
朝にはかなり人見知りの気がある
しっかりしているのだが、そのせいで小さい頃は俺にべったり。お兄ちゃんに甘えん坊だねと言われることは多々あった
・・・お陰で俺も「いいお兄ちゃん」とよく言われていたが
「でも、まだぎこちないね・・・」
「そうだな」
「これからは、朝と進路が違うから心配でさ。人見知り、どうにかならないかなって思ってる」
「そっか。心配してくれてありがとう」
「ううん、こんなのは当然だよ。だって、大事な幼馴染で親友だもん。心配するに決まってるじゃん」
百合ちゃんは朝を見守るような視線から、年相応の笑顔を浮かばせて俺にそう言ってくれる
朝と百合ちゃんの関係は、俺と羽依里の関係とよく似ている
朝の志望校は俺達と一緒・・・土岐山高校だ
けれど百合ちゃんは、別の道を進んでいく
進む先は二人共違うのだ
「百合ちゃんには色々と世話になってるな」
「私もお世話されてるよ。持ちつ持たれつってやつだよ、悠真君?」
「学校が別になっても、朝のことをよろしく頼みたい」
「うん。もちろんだよ。もちろん、朝にも、私のことよろしくするからね!」
「ああ。ところで、百合ちゃんは志望校どこなんだ?」
「聞いて驚け。聖ルメールよ」
「あの難関お嬢様校か。頑張ってな」
「うん!」
羽依里が円佳おばさんの出身校だからという理由で志望校そこにしようとしたことがあるから嫌な思い出しかないが、学校自体はかなり格式高い感じと聞く
上級生をお姉様と呼ぶ風潮があるらしいし、なんか特待生と一般生の壁が厚いとか聞くけど・・・百合ちゃんは上手く馴染めるのだろうか。そこが心配だ
まあ、それを知った上で彼女は志望しているかもしれないし、俺がとやかく言う話ではないだろう
だから今かける言葉は、たった一言「頑張れ」だけでいいのだ
「おにい、立ち話もなんだしさ・・・もう帰ろうよ。家でも話できるしさ」
「ああ。そうだな。それじゃあ、行こうか」
朝と百合ちゃんも混ざり、五人で五十里家へと向かう
空気は少しだけ、軽くなった気がした
「・・・これ」
「どうしたの、悠真」
「なんでもないぞ、羽依里」
空気は流れ、語る
歩鳥理論を少しだけ理解できたような気がするが・・・まだ、確証を得ていない
木のせいかもしれないような感覚は、俺の中から風のように消え去っていく
まだまだ、全てを理解する日は遠いらしい




