5月7日②:私はあえてポジティブに考えるよ?
「部活記録会に関しての話か?」
「そうそう。うちも少し事情があってね、共同戦線を張りたいというか・・・」
「新聞部って、うちの文化部の中でもかなりの大所帯だろ?実績もあるし、人数不足の廃部の危機ってことはないだろうし・・・何か厄介事でもあったのか?」
「恥ずかしい話だけどね。今の部長がね、不祥事起こしちゃって。詳しくは言えないんだけど、新聞部の存続に関わるレベルの問題」
「あー・・・生徒会に目をつけられたか」
「そういうこと」
「二人共ごめんね。話をきって申し訳ないんだけど・・・生徒会に目をつけられるってどういうこと?わからないことが多すぎて・・・」
「私も、部長とか副部長の立ち位置じゃないから全然・・・どういうことかな?」
羽依里と弓削がそれぞれ申し訳無さそうに俺達の話に入ってくる
確かに、羽依里はもちろんだが弓削も調理部に所属しているとはいえ部長副部長ではなかったからうちの部活動のシステムに関しては把握しきっていないとみた
「土岐山高校の部活は、一般的な部活と同好会の創部に関しては教員側が権限を持つんだ」
「でも、廃部に関しては生徒会が権限を持ってるの。新聞部はこっち側」
「俺達写真部に関しては校長先生が絡んでいることもあるし、創部も廃部も教員側が権限を持っている・・・いわば「生徒会が関与できない」特殊な部活なんだ」
その代わり、入部している面々は特殊な条件を満たしていないといけない
俺は「一時的な怪我や病気療養を除き、カメラマンとしての活動が校内外問わず可能な状態であること」
他の五人は「俺の推薦が存在していること」と「教職員全員の許可が出たこと」
藤乃と吹田、尚介と廉、そして羽依里はこの条件を満たして写真部に所属している
「先生たちの監視は重いが・・・まあ、生徒会が関与できないのはかなり大きい」
「五十里君達かなり目をつけられているもんね・・・特に五十里君。英城寺君に好かれてるみたいだしさ」
「まあな。英城寺に一年の時から熱い視線を貰ってる」
主に、嫌悪と殺意と嫉妬と憎悪の負の感情てんこ盛りセットの視線をな
「まあ、うちは特殊環境だから生き残れているが・・・大体は消されただろ?」
「そうだね・・・」
英城寺統。隣の特進科にいる我が校の生徒会長様
何かと俺に喧嘩をふっかけてくるので嫌でも覚えてしまう偉そうな男
とにかく自分が気に入らないものは容赦なく排除しようとするので・・・奴が生徒会長に就任してからかなりの部活と同好会が消されている
「で、現在進行系で新聞部も英城寺に目をつけられて消されそうになっていると」
「そのとおり。廃部検討書が届いちゃって・・・今月中に実績上げないと行けないんだ」
「なるほどな」
「私達的には部長のやらかし一つで続けてきた部活、入ったばかりの部活を潰されるのは解せなくて、どうにか実績を上げて廃部を回避したいわけなんだよ」
新聞部副部長として、部長がいない新聞部の代表として中川さんは俺に言葉を紡ぐ
彼女たちは彼女たちなりに、部活に対して真剣に向き合っている
だからこそ、新聞部がなくならない方法を模索し・・・弓削を通じて俺の元へたどり着いた
「それで、この時期に部活記録会をしている俺達に目をつけたわけだな」
「そういうこと。例年、この記録会の後に入部、転部を考える子もいるわけ。部活に絶対所属しないといけないうちの高校では「第二の部活勧誘会」って言われるレベルで重要視され始めたこのイベント・・・通常の五十里君たちなら撮影技量も編集も写真部で完結するよね。でも、今年は事情が違う」
中川さんの視線は俺の左腕に向けられる
そう。今年は俺の・・・一番動かないといけない人間の事情が例年とは異なる
「・・・怪我、だよな」
「そう。今年の五十里君は怪我をしている。推定ではギプスが外れる頃に記録会が始まるけど・・・」
「流石にブランク明けだ。撮影も時間がかかるだろうな」
「そ・・・」
何か言いかけた羽依里の口をあえて塞ぐ
羽依里が言いかけたとおり、そんな訳はない
怪我が治り次第、すぐに通常通り動けるように調整をかける・・・本来ならば、だが
けれど今回は・・・
「新聞部副部長。写真部部長として依頼させてくれ。例年うちが受け持っている部活記録、半分頼めるだろうか?「俺の事情」で巻き込むことになって申し訳ないが、引き受けてもらえると助かる」
「・・・助かるよ。その方が名目的にもいい。「うちが協力を申し出た」より「写真部に協力を依頼された」方がポイントは高くなれる」
「だろう?そろそろ昼休みも終わるし、詳しい話は後日しよう。新聞部側の実働組に集合をかけておいてくれ。全体的に話し合いを行いたい」
「了解。時間は調整してから連絡していい?」
「ああ。決まり次第ミーティングの時期を決めよう」
「わかった。ありがとうね、五十里君」
「気にするな。こういうのは助け合いだ。俺は腕の負担が少なくて済む。中川さんたちは実績をあげられる。それでも生徒会がダメだっていうのなら俺達側から最終手段も提供できる準備も進めておく」
「何から何までありがとうね」
「お礼は全部終わってからにしてくれ。じゃあ、また今度」
「うん。またね、五十里君」
中川さんたちと別れて、羽依里と共に写真部の面々のもとに戻る
そこには吹田も交えてこちらの様子を伺っていた四人が俺達の帰りを出迎えてくれる
「吹田もいるなら丁度いい。全員、話は聞いてたな」
「まあね。聞こえてたし」
「まあ、ああいうわけだからよろしく頼む」
「「「「・・・」」」」
「・・・どうした?」
「いや、その前に言うことあるんじゃないのー?」
最初に口を開いたのは藤乃
彼女は妙にニヤつきつつ、こちらに視線を向けていた
その言葉に、他の三人は謎にうんうんを頷いているのだが・・・何か他に言うことなんてあっただろうか
「万智ちゃんと玲香ちゃんには言えて、僕らに言えないのかなぁ?」
「いや、なんとなく察してはいたぞ?な、なんとなくだけどな?でもよ、やっぱり俺的には最初は部活メンバーでも良かったんじゃねえのとは思うわけでしてな?むしろ隠されていたことに若干のショックを覚えているというか、こういうのはきちんとお祝いしたいから報告してくれたほうが嬉しいなと思うわけでな?」
「しゃ、しゃしゃみや・・・あんた、どどどど動揺しすぎでしょ・・・」
「絵莉に言われたくないわい!友達が彼女持ちになるの初めてだし、そのな?反応に困るだけじゃい!」
「・・・」
そういえば、そうだったな
部活の話が聞こえていたのなら、その前段階の会話も聞こえているわけで・・・
「・・・そういうことだ」
「一言で逃げるな!羽依里ちゃんは逃しても君は逃さないよ悠真!」
「報告の義務があるでしょ!?穂月藤乃は五十里悠真に白咲羽依里との関係の情報開示を要求する!悠真に拒否権はない!いいからさっさと答えろ!俺の彼女って言ってみろ!ほらよ!」
「そんなクラス中に響き渡るレベルの大声で言わなくてもいいだろ!?勘弁してくれ!」
廉と藤乃が大声ではしゃぐものだから、クラスメイトの話題も俺の話題になっていく
なんで、どうしてこうなった!?
別に隠していたつもりではない
きちんと落ち着いた時に話そうと思っていただけなのに・・・どうして、こう・・・雑な公表の仕方に
「・・・悠真」
「は、羽依里・・・すまない。こんなことになるなんて、予想外で」
「いいんだよ。いつかは、分かることなんだから」
「でも・・・」
「私はあえてポジティブに考えるよ?」
「ポジティブにって、この状況を?」
「うん。だって・・・」
羽依里はそっと耳打ちをして、俺だけに聞こえるようにあることを告げる
「・・・だって、彼女がいるってわかっていたら悠真にアプローチをかける子はいなくなるでしょう?」
「それは、羽依里にも言えないか?」
「そうだね。だから、これでいいと思うの」
それから、今まで羽依里と話したいけれど話すタイミングを見計らっていたクラスの女子達が一気に流れ込んでくる
俺もその中に巻き込まれつつ、質問攻めにされる羽依里を支え、抜け出すタイミングを伺うために周囲を見る
主に「なんでこれと付き合おうと思ったの!?」が質問のほとんどを占めていた。クラスの女子というか同級生女子からどう思われていたかやっと理解した
・・・これって言われるレベルに評価低かったんだな、俺。二年間の積み重ねによる自業自得とは言えちょっとショック
藤乃は申し訳無さそうに遠くから「ごめん!」とジェスチャー
尚介は巻き込まれた俺達を面白そうに見ていた
それから・・・そうだな。男子は結構落ち込んでいるな
羽依里は可愛いからな。狙っていたのかもしれない
残念ながら羽依里はもう俺の羽依里だ・・・土下座で頼まれても渡すつもりはない
「・・・やっぱりだよなぁ」
「どうしたの、絵莉ちゃん」
「なんでもない」
廉と吹田はなにか話しているようだったが、周囲の声にかき消され、何を話していたか俺達にはわからないままとなってしまった