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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
雪笹の章:今までを取り戻す感謝の花束を
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5月7日①:今の五十里君にとって悪い話でもないと思うし

ゴールデンウィークも明けて、再び学校が始まりだす

休み明けの重い体を引き締めつつ、午前中の授業を乗り切った俺達は昼休みを迎えることが出来た


「んー・・・やっと終わった」

「おつかれ、羽依里。具合は平気か?」

「悠真もお疲れ。私は平気だよ」

「俺も。休み明けでなんかしんどくて」

「なんかわかる。確かにきついよね」

「でも、ここまでじゃないな・・・」


そして俺達はそれぞれ手前と隣に目を向ける


「ぐえー・・・休み明けって本当にしんどいよねー・・・もう帰りたぁい!」

「むぅー・・・藤乃ちゃんの言うとおりだよ。特に勉強した翌日とかその次の日とかね。本当に最悪」

「藤乃ちゃん、廉君も大丈夫?」

「大丈夫だ羽依里。二人はいつものことだ。長期休み明けは毎年こんな感じでな」

「夏休みと冬休みは大丈夫なの?」

「・・・全然大丈夫じゃないな」


例年の夏休みを振り返る度に頭が痛くなる

俺はおじさん達の仕事を見学させてもらう都合もあるし、できるだけ早く終わらせるのだが・・・やはりここで再び問題がある


「藤乃も廉も一週間前に「全部終わってない」って連絡してくれるだけありがたいよな」

「ああ」

「そういう問題なの?悠真、尚介君」


藤乃は小学生時代から俺に宿題ヘルプを求めてくるし、慣れていたがそれに廉が追加されると本当に大変だった

廉に至っては関わるようになったのが高一の二学期からという事もあるので・・・まだ関わっていなかった頃、一年の夏休みの課題をどう乗り切ったのかは俺と尚介の素朴な疑問だ

むしろ今までもどうしていたのか気になるぐらいだ


「五十里、ちょっといい?」

「どうした、弓削。それに・・・ええっと」

中川万智なかがわまち。初絡みかな」

「中川さん。すまない、まだ名前と顔全員覚えきれていなくて」

「ま、初めてクラス一緒になったししょうがないよ。ほら、うち特進含めて八クラスあるし、未だに顔と名前把握してない人も多いしさ」


弓削と一緒にやってきた中川さんはなんというか、全体的におっとりとしたイメージの人

ぽわぽわした雰囲気をまとう彼女は俺と羽依里を見つつ、話を進めてくれた


「部活の話、今ぐらいしか出来ないから。お昼摂りながら相談させてほしいなって」

「相談?」

「うん。今の五十里君にとって悪い話でもないと思うし、聞いて損はないと思うな。写真部の面々で食べる予定だったら混ぜてもらえると助かるかも」


今の俺に、か

三角巾の中に収まる左腕を一瞥してから、一緒に食べる予定だった尚介の方に目を向ける


「悠真、行ってきたらどうだ?藤乃と廉はまだ回復しきらないし、部活の相談なら悪い話じゃないだろ。俺達側の打ち合わせは新聞部の話を聞いてからでもいいんじゃないのか?」

「そうだな。じゃあ・・・羽依里。行こうか」

「私?」

「ああ。弓削も来るんだろ?」

「まあ、仲介したの私だしね。羽依里も、よければ一緒にどうかな。一緒に御飯食べようよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「うん。じゃあ行こっか」


中川の案内で俺達は少し離れた席に移動し、それぞれの昼食を準備する

中川さんは購買組、俺達と弓削は弁当持参組だ


「悠真。包みは私が取るから。片手で取ろうとしない。滑らすよ」

「あ、ああ・・・頼む」


いつもどおり、羽依里が俺の弁当の準備を手伝ってくれる

普段どおりの面々なら照れることもないのだが・・・今回は弓削と中川さんの前だ

少しだけ、恥ずかしいな・・・


「はい。お箸ケースからも出しておいたから。お弁当の蓋も水筒もばっちりだからね」

「何もかも助かる・・・」

「気にしないで。こんなの当たり前だから」


それから羽依里も自分のお弁当を展開していく

俺のより一回り小さい弁当箱に詰められている食品は量こそ違えど、俺と同じ配置とラインナップ

それに、目の前の二人が気付かないわけがない


「あれ、羽依里と五十里のお弁当・・・」

「・・・羽依里はこの前一時退院していてな。今は両親が海外にいるから家で一緒に過ごしている」

「これも、悠真のお母さんが作ってくれていて・・・」

「へえ、そうなんだ」


「前々から思ってたけど、五十里と羽依里って凄く仲いいよね。幼馴染、だっけ?」

「ああ」

「もしかして、付き合ってるとか〜」

「・・・」

「・・・」

「え、もしかして図星・・・?」

「あ、ああ・・・この前から、だが」

「・・・」


誰かにこうして話すのは初めてなので、とりあえず軽く

まさか、親でも部活のメンバーでもなく弓削と中川さんとあまり関わることのない二人が初めての報告になるとは思っていなかったが

羽依里は隣で耳元まで真っ赤にさせながらコクコクと頭を縦に動かしていた


「なるほど。いやぁ初々しいですな。耳まで真っ赤とは、なんか悪いことしちゃった気分」

「万智はどんな目線で話してるのよ・・・」

「あー・・・新聞部だもんな。あのシーズンのインタビューはえぐいってよく聞くから大変だろう?」

「どういうこと?」

「白咲さんは知らないよね。説明しておくと、新聞部ってね、文化祭終わったらよくカップルインタビューに繰り出すんですよ。でもさぁこういう初々しさってものがなくて、インタビュー中もすごいイチャイチャを見せつけられる時が多くて・・・だから目に優しい感じのいいものを見させてもらって助かるというか、ありがたいというか」


嬉しそうに語る中川さんの前で、羽依里はまだ疑問を解決できていないようで首をかしげる

そうだよな。なぜ、インタビューに繰り出すか・・・その根本的な理由がわかっていないのだから


「羽依里、実はね土岐山高校の文化祭にはジンクスがあるんだよ」

「ジンクス・・・」

「そう。それは五十里の口から言うべきじゃないかなー?」


弓削が面白そうに笑いつつ、その後の説明を俺に振る

・・・あまり詳しくないし、今、この状況で非常に言いにくいのだが


「ジンクスってなあに?」

「・・・」


羽依里から向けられる期待だらけの視線を裏切る真似は流石に俺も出来なかった

・・・確か、文化祭のジンクスは


「・・・文化祭の後夜祭。夜八時丁度にキスしたらってやつか?どうなるかまでは知らないが」

「願いが一つ叶う!」

「そういうの、よくあるジンクスだろ?」

「それがね、その願いって大きさは様々だけど、実際に叶っているみたいなんだよね」

「・・・マジで?」

「うん。新聞部調査でね。新聞部の主な活動は校内新聞の作成だけど、もう一つ・・・文化祭のジンクス通りにキスしたカップル探し出して、二人の願いが叶うまでを調査してるんだ。そのジンクスの信憑性を調べるためにね」

「だからそのジンクス、やる奴が多いのか・・・相手がいるのなら願いが叶う大義名分もあるし、意地でもやろうと思えるな」


「去年も八時になると至るところでキス現場が発生したからね・・・目のやり場に困ったよ」

「私としてはいい取材相手なんだけど、関係ない相手からしたら困るよね〜」

「そうだね。何も知らずに見てたらびっくりしてたかも」

「白咲さんをびっくりさせないように事前情報を提供してみたり。なんてね?」

「ありがとう、中川さん」

「どういたしまして。あ、でも」


中川さんは小さな声でも聞こえるように席を立ち、俺と羽依里へそっと耳打ちする


「するなら、教えてね?」

「それは・・・」

「情報を提供してくれたし・・・考えておく。まあ、俺の願いなんてたった一つだけどな。叶うのなら、キスだろうがなんだろうがしてみせる」

「・・・」

「やっぱり、お願いするなら羽依里の病気関連のこと?」

「それしかないだろう?」

「だよね。五十里らしいや」


話している間に、弁当箱の中身は空になり・・・少ししてから三人のお弁当も空になる

食事中は雑談になっていたが、そろそろ本題を話しておきたい


「・・・悠真、お弁当は私が片付けておくから本題の話、したほうがいいんじゃない?」

「ああ。そうだな。それで、中川さん。そろそろ部活関係の話を頼めるか」

「そうだね。じゃあ始めようか」


真面目な様子で中川さんは話を進めていく

机の上に広げられた資料は、土岐山高校の全部活一覧

運動部も文化部。それどころか同好会とボランティアも全てが揃っていた資料を用意した彼女が何を話したいのか、俺はなんとなく察しがついた

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