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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
雪笹の章:今までを取り戻す感謝の花束を
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5月6日:できることを、できる範囲で、毎日コツコツやっていたら・・・

ゴールデンウィーク最終日

朝は今日も部活。父さんは昨日から引き続き仕事だ


課題を終わらせた俺は、今日は普通に暇な一日

午前中は母さんと買い出しにでかけて、午後は羽依里の部屋でのんびり過ごしていた


「なあ羽依里」

「なあに、悠真」

「薬、飲んだか?」

「飲んだよ。大丈夫」

「そっか」


昼下がり。昼食を終えた彼女はベッドの上に腰掛けて、ひたすらに針を動かし・・・

あの憎たらしいシロクマの目を作っていた

俺はさり気なく後ろに腰掛けて、羽依里の背もたれをやっている

よくあるあれだ。後ろから抱きしめられるあれ

そのかわり何も出来ないけれど、羽依里の様子は肩越しに覗けるし・・・楽しいと言えば楽しいな


眠たそうに半開きになった瞳は、元々鮮やかなオレンジ色の刺繍糸をメインに作られている

長年一緒のそれは、手作りということもあるのかわからないが・・・定期的にほつれが出てきているらしい

それの補修は定期的に行われている


「んー・・・」

「どうしたんだ、羽依里」

「んぅー・・・」


彼女の顔が近づいてくる

この距離は当たり前。けれど、あまりジロジロ見られるのには慣れていない


「羽依里。俺の顔になにかついているのか?」

「ううん。なんでもないの」

「なんでもない距離感じゃなかっただろ」

「なんでもないものは、なんでもないよ」


そう言って羽依里は再びシロマを抱いて、補修作業に戻っていく


「やっぱり、暗い色を追加しておこう。深みが増しておきたい」

「なんの深み?」

「瞳」

「・・・暗すぎるんじゃないか?」

「いいもん。これぐらいだから」


なにがこれぐらいなのかさっぱりだ

今回は少しだけ暗みのかかった橙色の刺繍糸が追加される

ささっと行われた追加作業

小さな手は器用に、そして正確に糸を紡いでいく


「ほんと、手芸得意なんだな。羽依里」

「長年やってるからね」

「ペンちゃん以外は、基本的に手作りだもんな。大きいのも全部」

「あはは・・・やる時間だけは膨大だったから」

「きつい時もあっただろ」

「まあね。でも、できることを、できる範囲で、毎日コツコツやっていたら・・・」


彼女が目を向けた先には、彼女が長年作り続けた「友達」の数々

一部だけと思ったら、全員ここについてきてくれたようだ


「あっという間に沢山」

「そうだなぁ」

「でも、悩みが少しだけあってね」

「スペースが取られる、とか?」

「名前付け。結構大変なんだよ」

「ソウダナ・・・」

「なんでそこで遠い目をするの、悠真?」


名付けが凄く特徴的な分、大変なんだろうなと感じるだけだろうか

もっと普通の名前にしたら、あまり苦労しないと思うんだが・・・

羽依里なりに、何か名前の意味があったりするのだろうか


「そういえば、名前の意味ってあるのか?」

「名前?」

「ああ。凄く特徴的な名前だから・・・」

「ううん。特にないよ」

「そうなのか?」

「うん。なんとなく、音が気に入ったのを名前にしているの」


だからインスピレーションがビビッと降りてこないと難しい

彼女は小さく笑いながら、理由を述べてくれたのだが・・・

俺からしたらますます訳がわからなくなった

音?音だったのか!?

ペンタゴロッテオ、羽依里的にはいい響きなのか?


「じゃあ、シロマは?」

「シロマは、別の意味があるよ」

「どんな意味?」


一瞬、羽依里の手が止まる

複雑そうに頬を少しだけ膨らませた彼女は、隣にいる俺を見上げつつ、小さな声で呟いてくれた


「・・・内緒」

「内緒?普通すぎるの、逆に意味がありそうなのに」

「・・・大好きを混ぜた名前だから。悠真にはまだ内緒」

「えぇ・・・」


つまり、シロマは羽依里の大好きを詰め込んでいるということだ

確かに昔から普通のクマよりシロクマが好きだったけど・・・

てか、海洋生物全般が好きなはずだ


「大好き、か」

「うん。大好きなんだよ」

「海洋生物?」

「も、だけど・・・」

「だけど?」

「・・・自分で気がついて」

「そんな無茶な」

「大丈夫、悠真ならすぐに分かるよ。シロマの名前の由来ぐらい、簡単に」

「羽依里がそういうなら、そうなんだろうけどさ・・・」


しかし本当にこいつの名前の由来は何なんだ

いつもいつも、勝ち誇ったようにこっちを見てきて

深い色のオレンジが追加されたことで、今度は心の汚い部分まで覗かれている気分だ


「むむむ・・・」

「そこまで悩むことはないと思うんだけどな」


余った糸を糸切りバサミで切り取った

どうやら、補修作業は完了らしい

裁縫箱に道具をしまった彼女は、直したてほやほやのシロマをじっと眺める

それから俺の顔をチラチラ見ながら・・・


「ぴったり」

「・・・?」


なんて、訳のわからないことを言い出すのだ

何がそっくりなんだろうか

共通点が全然わからない。わからないぞ羽依里・・・


「んー・・・?」

「悩んでる?」

「悩む部分だよ。めちゃくちゃ悩む。全然わかんないし」

「・・・そうなんだ」


シロマをぎゅっと抱きしめて、羽依里は少し不満そうに俺へ体重をかけてくる

そんな彼女の背もたれを堪能しつつ、俺は・・・


・・


夕方

晩御飯を作る前に、少しだけ気になる疑問を解消しに、一階の客間へ向かう


「悠真と羽依里ちゃん、何をしているのかしら」


慎司の声が大きすぎて知ってしまった二人の関係

親である私達が一番に知りたかった、知らされていない関係

まだ知らないフリをしておかないといけない。言えない理由とか、あるのかもしれないし


「でもね、お母さん。決定的な瞬間を目撃したいわけですよ」


添い寝は物足りない。言い訳されるかも

だから、押し倒したとかそういう感じの・・・逃げられない状況の中で


「悠真、羽依里ちゃん。そろそろ晩御飯・・・の」

「・・・すう」

「・・・ん」


デリカシーがないとか言われそうだけれども、そうでもしないと警戒されるから、思いっきり扉を開けてみる

けれど、標的の二人はそろって寝息を立てていた

やれやれ、座りながら寝ると首を痛めてしまうのに


「あら、羽依里ちゃん・・・悠真の腕を掴んでる」


寄り添うように、悠真の腕を掴んで寝息をたてる羽依里ちゃん

幸せそうなその表情に笑いを誘われつつ、私は悠真と羽依里ちゃんに毛布をかけてあげる


五月上旬とはいえ、夜は冷える

いつまで寝ているかわからないから、念の為

今起こしてもいいけれど、もう少し寝かせてあげたい気持ちもあるから・・・


「んぅ・・・あれ」

「あら、そっくり」

「・・・?」


少しの違和感に、悠真が目を覚ます

そのぼんやりと開かれた目は、羽依里ちゃんが抱きかかえているシロクマのぬいぐるみと同じ表情で、大笑いをしてしまいそうになる

自分がモデルだということには気がついているのだろうか

いや、羽依里ちゃんは隠すだろうし・・・悠真は意外と気が付きそうなのに、こういうことは全く気が付かないだろうから


「かあさん・・・?」

「おはよう、悠真。ぐっすり寝てたわね。あ、動かないでね。羽依里ちゃん、起こしちゃうから」

「んー・・・」


まだ寝ぼけてる。寝起きの悠真はいつも以上にぼぉっとしているし・・・仕方ないかも


「・・・ん」

「どうしたの?」

「はいり・・・?」

「探してるの?腕の中にいるのに」

「あ、本当だ・・・」

「起きたみたいね、悠真」

「うん。母さん、どうしたんだ?」

「そろそろ晩御飯を作ろうと思うんだけど、何を作るか決まってないの。何がいい?」

「急に!?」

「はい、さん、にー・・・いちっ!」

「はるまき!」

「了解。はるまきだけだと味気ないから、天ぷら系にするわね。唐揚げもあーげよ」

「そ、それでいいのか?」

「うん。それじゃあ、羽依里ちゃんが起きるまではゆっくりしていていいから」

「手伝いは」

「その腕でさせられないわよ。明日から学校も始まるんだし、ゆっくりしておきなさい」


ふらふら〜と立ち去りつつ、部屋を出る

急にリクエストを聞いても、しっかり答えてくれるのはありがたい

そう思いながら、私は晩御飯の準備に取り掛かっていった

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