5月5日③:そうして楽になるのなら、それが一番さ
悠真と藤乃ちゃんが後ろで食材を探している間
私達三人は先程悠真と藤乃ちゃんの会話の中に出てきた「約束」に関する話をしていた
「・・・二人共、どういう約束をしてるんだろうね。羽依里ちゃん、心当たりある?」
「私、藤乃ちゃんが越して来てから入院したから全然で・・・」
「だよなぁ・・・でも、羽依里相手に悠真が話さないってめちゃくちゃ意外な案件になりそうな気がするんだが、そこのところどうなんだ?」
「そう、だね・・・何かあればいつも絶対に教えてくれていたから。伏せているってことは」
「知られたくないこと。それこそ伸びない髪に関わること、とかじゃないの?」
「・・・かも、しれないね」
全然伸びない髪に触れながらふと考える
私が知らない約束事。それはこれに非常に関係ある話、なのだろうか
・・・これまで、私の前に色々とヒントは散りばめられていたはず
覚えていることを、辿るように思い出していく
アルバムの表記、悠真の反応
それから、私がいない間に悠真が関わっているであろう「もう一人」の人物のこと
一つ一つの情報だと違和感は抱かないけれど、積もればそれは違和感の集合体になる
・・・尚介君と廉君は確か、悠真とは高校時代から一緒だって言ってたよね
じゃあ、藤乃ちゃんと「あの子」とも自然と高校時代から一緒ということになる
二人があの子のことをどう思っているか、聞いてみたいな
悠真の反応も含めて・・・意見を聞いておきたい
彼女にはきっと、私が忘れたなにかがある
「悠真は藤乃が引きつけているだろうし、例の話をしよう」
「おー・・・なんか作戦会議みたいだな」
私が話題提供する前に、廉君の主導で「この前のこと」に関する話へ進んでいく
「で、どうだったの?この前お見舞い行った時とか、一緒に暮らすようになってからアルバムを見れた機会はあった?」
「うん。無事に該当する時間のアルバムは見れたよ」
「そっか。どうだったって聞いても・・・その感じじゃ手応えなしだな」
「残念ながら・・・でもね、なんとなく気になることなら少しあって・・・それは、さっき二人が抱いたであろう「約束」に対する疑問とも関わると思うんだけど」
「うんうん」
「そこで、約束と繋がるわけか?」
「まだ「かもしれない程度」。情報が少ないし、確証もないから憶測程度。だから・・・違っていると思う。ううん、違っていてほしい」
今ある情報で導き出した答えは、できれば違っていてほしい答え
だって、彼女は・・・私の
「アルバムの表記があるタイミングで変化していたの」
「それって・・・」
「小学三年生と四年生の間。悠真は小学三年生まで絵莉ちゃんのことを「絵莉」って書いてたの。でも、小学四年生の時から「吹田」に表記が変わっていた」
「その中に藤乃はいた?」
「小学四年生のタイミングから。表記は最初から今まで「藤乃」だったよ」
「絵莉の表記の切り替えと、羽依里の髪が伸びなくなったタイミングはほぼ一致か」
「・・・悠真は小さい頃から態度が表に出やすくてわかりやすいの。些細なことでも表情か動きに反応が出る」
休みの日まで体裁で関わる理由はない
「悠真は、絵莉ちゃんに対して「体裁的な関わり」をしていると思う。部活に誘ったのも、その一環で関わるのも全部「体裁」・・・それ以外は、関わる必要を覚えていない」
「創部三人に共通するのは「家の手伝い」があるから長時間拘束される部活には所属したくなかった・・・だよな」
新たに部活を作るためには「らしい」部活条件を提示した上で最低創部人数を集める必要があった
悠真は「人数稼ぎ」、絵莉ちゃんは「放課後時間拘束の緩さ」
・・・互いに利害が一致しているから、悠真は彼女にも声をかけた
「確かに、言われてみて思い返してみたんだが・・・悠真と絵莉が二人で話しているところを俺、見たことないな」
「絶対に僕らの誰かが間に入っている・・・そう思わない?」
「ああ。いつも俺達の誰かが間にいる。もしかしなくても、約束ってその・・・悠真と絵莉に関することで、藤乃が調整に協力しているとか・・・そういう感じかもしれないな」
約束の実態はまだ把握できていない
しかし、私が関与していないその約束もまた「私が思い出すべき事象」の中に重要なものとして含まれている気がするのだ
悠真は何も話してはくれないけれど・・・私がいない時間の中で、何かあったとしか思えない
・・・一人で抱え込んだりしているわけではないようで、誰かにきちんと相談はしている
けれど、その相手は頼りになるから藤乃ちゃんなのだろう
・・・私ではないことに、少しだけ心がモヤついた
私が前に出たところで何もできやしないだろうけど・・・やっぱり、少しだけ、悔しかったりする
無言の視線を向けあった私達は、静かに息を呑んで今後の話をしていく
まだ、話をしておかないといけないことがある
「・・・この髪のこと、絵莉ちゃんに聞くのが一番だと思う。多分、凄く重要なことを知っていると思うから」
「俺もそう思う。悠真はその調子なら話さないと思うし、絵莉に聞くのが手っ取り早いと思う。まあ、話すかどうかはわからないけどな」
「・・・二人きりで話に行くの?」
廉君が心配そうに私に問いかける
本当なら誰かについてきてほしいと思うけれど・・・流石に、こればっかりは
「うん。二人じゃないと話しにくいことかもしれないし」
「・・・そっか。でも、何かあった時の為に後ろで見守らせてもらうよ。その方が安心、かな?聞かれたくはないだろうけど」
「うん。もしも想像以上のことがあって倒れたりしたら、お願いしてもいいかな」
「もちろんだ。しかし、悠真はどうするよ。羽依里のところに絶対ついてくるだろ」
「そう、だろうけど・・・・どうしよう」
「僕と藤乃ちゃんでどうにかしてみる。尚介は羽依里ちゃんよろしくね」
「任された」
それで話は一段落
しかし二人の顔はまだ重いままだ
多分私も同じような表情をしているのだと思う・・・
「しかし、しばらくは難しいぞ。ほら、そろそろ部活活動記録会だし・・・中間もあるしで忙しくなるから。とてもじゃないが話す時間なんて」
「あ。そういう?気まずいから重い顔じゃなくて予定がやばくて重い顔?」
「俺達は今まで通りでいいだろ?むしろそれ以外にどうしろと」
「僕らは繊細だから。どうしたらいいかわからない。ねえ、羽依里ちゃん?」
「そうだね。全然どうしたらいいか・・・」
「廉は結構図太い癖に・・・ま、普段どおりでいいんだよ。変なこと考えずに、ただただ流れるように過ごしていけばいい。何事もなかったかのように」
「でも、私達にはそれが難しいことなんだ」
「じゃあ、話さなければいい。対話を拒絶したらいい・・・それは、あまり最善とは言い難いけど。そうして楽になるのなら、それが一番さ」
尚介君はそう言った後、台所の二人に声をかけに行く
「・・・さっきの」
「多分、尚介のお父さんのことじゃないかな。ほら、尚介が写真部に入った理由」
「確か・・・怪我が原因なんだよね」
彼は私が入部したあの日、自分が部活に入った理由を話してくれた
お父さんとの模擬試合の時に起きてしまった不幸な事故
その怪我で、柔道は辞めることになったって・・・
お父さんはそれをずっと気にしている
「・・・対話を拒絶ってことは、尚介君が怪我をしてから一度も」
「だろうね」
話さなければいけないことは、誰しもあると思う
しかし、進まなければいけない時はいつだってやってくる
停滞したままでは、いられない
私達が次へ進むために必要なのは「対話」
誰かと言葉を紡いだ先にある答えは、思いは、残酷な事実であり、後悔に苛まれた果ての姿かもしれない
けれど、私達は
その真実を得て、正しく受け止めなければ
その先へは決して進めないし、何も取り戻せやしない




