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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
卯月の章:今までから変わる春
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4月20日⑦:・・・対価は宣伝?

フードコートに移動し、周囲を見渡す

なぜか人が多い。休日だからということもあるだろうけど、それにしては多すぎる


「悠真、これ・・・」

「ああ。イベント・・・どれどれ」


羽依里が持ってきてくれたチラシは「学生出店!おいしい横丁!」と書かれた広告

どうやら、ショッピングモールのイベントエリアを使って、高校生のグループが食事を提供しているようだ

イメージとしては文化祭みたいな感じ。うちの高校の文化祭も、校庭出店エリアはこんな感じに出店がされている


「ここで買ったものは、特設食事エリアだけじゃなくて、フードコートでも食べられるみたいだし・・・折角だ。見に行ってみるか?」

「うん!」


朝にはここを見に行く旨をメッセージで伝えておく

すると「唐揚げマヨおにぎり、おかわりで買ってきて。出店名は「九重教室」」と返信が来た

・・・なんだその、カロリーの暴力みたいな料理。どこで売ってるんだよ。てかもう行ってきた後なのか

まあ、出店の名前を教えてもらったし・・・スムーズに進めるとは思う

朝には色々と仕事を頼んだし、これぐらいはしてやらないとな


「羽依里。朝からおつかいを。まずはそこに行ってみてもいいか?」

「もちろん。どこに行くの?」

「唐揚げマヨおにぎりを買うために・・・九重教室って出店に」

「・・・うどんメインのお店なんだ。凄いの売ってるね」

「そうなのか」


羽依里はチラシの中に書かれているマップで、その出店の場所を確認してくれた

意外と近場だ。人も人気店に比べたら少なめのようだし・・・ゆっくりできるだろう


「人が多いから手をつなごう。それから、具合が悪くなったらすぐに言ってくれ。引き返すから」

「ありがとう」


ゆっくりと歩き、目的地へと向かっていく

その間に考えるのは、知り合いのこと


「でも九重かぁ・・・珍しい苗字だし、もしかしたら」

「知り合い?」

「ああ。総文祭で九重苗字の友達ができてな。メインは作曲家なんだが、ヴァイオリン奏者もやっているんだ。何度か練習がてら、演奏風景を撮らせてもらったこともある」

「ちゃんと他校の友達もいるんだね」

「まあ、深参ふかみ志貴しきだけだけど・・・」


九重深参。俺の貴重な他校の友達

九重というのは、珍しい名字だと思う。めったに見ない印象だ

なので、近場で九重と聞くと・・・やっぱり彼が頭によぎるのだ


一馬かずまクン、仕入の確認終わったん?」

「終わったよ、真純ますみ。会計は完了した?」

「バッチリや。問題は集客・・・哲也てつやクンのおにぎりとれいクンのうどんは問題ないんや・・・」

「・・・飽きた」

「僕は今日一日、夏彦と一緒に社会勉強も兼ねて、この労働ごっこに勤しんでいたいな。頑張ったら、後で一緒にアイスを食べようか」

「・・・頑張る」

「夏彦、お前チョロすぎるだろ・・・」

「だって一馬先輩が俺とやりたいって言ってくれたから」

「・・・お前の将来が切実に不安だよ、俺は」


・・・九重教室エリア。控えめに言って、何というか

調理をしている二人はガチガチの不良

顔は皆いい。そして「彼」を除いた全員の目付きが悪い

ここは何もかも殺伐としている・・・朝はよくここに一人で入ったな

そしてその中には、見知った影もある


「深参」

「ん?」

「深参、こんなところで何をしているんだ・・・君らしくもない」

「・・・深参の知り合いかな?」

「・・・別人?」

「白銀の髪を持つ知り合い・・・ああ、君が五十里悠真君か」

「ええ。そうですけど・・・貴方は?」

「僕は九重一馬ここのえかずま。弟がいつもお世話になっているようで」

「お兄さんでしたか。すみません」

「いえいえ。三つ子なものですから」


一馬さんはほわほわとした笑みを浮かべながら俺たちを見上げる

確か、深参の話だと、一番上のお兄さんは身体が弱いらしい

立ち上がらないのも、机仕事をしているのもその関係だと思われる


「今日はデートですか、お兄さん」

「え、まあ・・・そんな感じですけど」

「よければうどん、食べていかない?」

「俺はいいですけど、羽依里はどうする?」

「私もおうどんでいいよ」


財布を出そうとすると、一馬さんは動きを止めてくる

なぜそんなことを・・・?


「お代は結構だよ。深参の知り合いだから」

「そりゃあ悪いですよ。きちんと払います、お兄さん」

「その代わりと言っては何だけど、店の隣に併設されている食事処で食べて欲しいなって」

「・・・対価は宣伝?」

「うん。ほら、君も思っただろうけど、ここの子たちは揃って目つきが悪くて。お客さんが全然来ないんだよ」

「ですね・・・」

「そこで、今宣伝に最適なのは「サクラ」。君たちはそこで普通に、どこにでもある感じで仲睦まじい食事風景を見せつけてくれるだけでいい。それだけで僕らの印象は大きく変わる」

「対して変わらなさそうですけど・・・」

「ううん。不良ばっかりの怖そうなお店から、カップルが美味しい美味しいと言いながら食べている店へと変貌するんだよ」


一馬さんは淡々と凄いことを言っていく

・・・そんな馬鹿な。そんなことがあり得ると思うのか


「印象というのは大事だ。味は保証するし、後でお金を請求することもない。なんなら君たちが好きなだけ食べていくといい。広告費だ。安いものだよ」

「・・・失敗したら、お金取られたりします?」

「そんなことはしないよ。あの天下の沼田高校の不良共でも、恐れることはない。ここには僕の教え子しかいない。しっかりした子たちだ。そんな恐喝まがいのことはさせないよ。それにね」

「それに?」

「・・・この作戦は失敗しないから。安心して挑んでよ」


堂々と言い切られる

普通はこんな話なんて半信半疑。どちらかと言えば失敗する話だと思うのだが

なぜか、信じたくなる

その言葉と声には、魔法でもあるんじゃないかと思うように背中を押されるのだ


「わかりました。やらせていただきます」

「助かるよ」

「羽依里。うどんは何にする?」

「私はかけかな・・・」

「じゃあ俺はきつねで」

「あいよ」


職人気質の不良は淡々とうどんを用意し始めてくれる

その隣の、明るい不良はというと、俺達に別のメニューを進めてくれた


「おにぎりとセット、おすすめだよ!」

「そういえば、唐揚げマヨ、妹が気に入ったみたいで。ここに来たのもそれを買うためだったんですよ」

「え、マジで!?嬉しい!あれ婆ちゃんの特別レシピなんだ!妹ちゃん、今来れるなら呼んでよ!ごちそうするから!」

「連絡、してみますね」

「うん!それで、お兄さんたちは?」

「俺は・・・ごまうめおにぎりで」

「私は五目で」

「了解!お兄さん、妹ちゃん来たら教えてね!」

「はい」


注文を終えた後、俺と羽依里へ山吹色の彼が声をかけてくれる


「・・・お席の用意、できています。準備ができ次第運びますので。飲み物はどうされますか?」

「飲み物・・・用意が?」

「・・・実はない。だから、エリア外にある自販機に行って買ってくる。覚が」

「俺がかよ・・・まあ、可愛いお嬢さんの為だし、いいよ。愛らしいお嬢さん、何を飲みたいですか?」

「あ・・・あの・・・」


覚と呼ばれた少年は、羽依里の手をとって接客を始めた

俺はその手を振り払い、羽依里の手を守るようにしつつ、注文を代わりにしていく


「彼女には水を。俺は緑茶をお願いします」

「・・・お嬢さんに、聞いて」

「・・・水と緑茶を、お願いします」

「・・・かしこまりました」

「悠真、ありがとう。びっくりしちゃって」

「すみません。あの女好きが。きつくっておくので・・・」

「あ、ああ・・・お願いします」

「・・・五十里さん。白咲さん。また後で。それまでごゆっくり」

「ありがとうございます」

「・・・」


山吹色の彼も立ち去り、少しだけ静かになる

けれど、羽依里の表情は暗いまま。やはり覚という彼に触れられたのがびっくりしたのだろうか


「羽依里、もう大丈夫だから」

「・・・悠真」

「なんだ?」

「私、苗字ここで一度も出してないのに、なんであの人は苗字がわかったんだろう」

「それは俺の特技。名前を聞かなくても、人の名前がわかる」

「・・・山吹の」


話題になったから戻ってきたのだろう

けれどその額には少しだけ汗が滲んでいる

・・・表情はほとんど変わらないけれど、目は申し訳無さそうに細められていた


巽夏彦たつみなつひこ。それが俺の名前・・・俺は昔からそうなんだ。聞かなくても人の名前がわかる。勝手に頭に入ってくる」

「・・・じゃあ、教えてくれ。俺の妹の名前は?」

「五十里朝・・・」

「・・・マジで?」

「マジ。自分でも気味悪いなって思ってるから。あまり使わないように努力はしているけど、うっかり出る時がある。怖がらせてごめん」

「い、いえ・・・大変ですね」

「どうやったら治るか、二人はご存知?」

「「さあ・・・」」

「・・・ですよね。本当に申し訳ない。それじゃあ、俺はここで」


不思議な特技を持つ彼の背を見送る

それから朝に連絡をし、俺達は昼ごはんが来るまで適当な雑談をしながら過ごしていった

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