4月20日⑤:今日の兄ちゃんはご機嫌だから買ってやろうぞ
やはり休日ということもあって、そこそこの人混みがショッピングモールの中には存在していた
ここは仕方がない話だ
ショッピングモールのフロアマップを眺めつつ、どのルートが一番楽に進めるか考える
よし。これなら休憩をはさみつつのんびり進めるだろう
「よし。まずは五階に行こう」
「うん」
ルートを確立させた俺は、エスカレーター方面にのんびり歩き始めていく
羽依里と朝もきちんとついてきてくれている
人は多いから、羽依里とは手を繋いだまま
朝は目配せをしながら、しっかりついてきてもらう
「おにい、まずはどこに行くの?」
「まずは羽依里のスマホケースと保護シートかな。病院の中だけならともかく、今は学校にも持ち歩いているからな・・・」
「なるほど。画面保護は重大な責務だよね。蜘蛛の巣、ダメ、絶対・・・!」
画面が割れているなんて、なんだかおっちょこちょいというか、無頓着というかそういう印象を抱いてしまう
「画面の綺麗さは大事だよね。そういえば、朝ちゃんもスマホ、持ってるの?」
「うん。うちはほら、あれだよ」
「あれ?」
「上の子供が高校生になって、携帯を持たされるタイミング」
「ついでに、下の子にも買い与えておこうかな・・・ってやつだね。私はそうだから」
朝は自分の、黄色のスマホを羽依里にちょっとだけ見せて持っていることを伝える
俺と同じ機種なんだよな、あれ
ちなみに俺は濃いめの橙色だ。いい端末だったのに、微妙なカラーしか残っていなかったからな
・・・なんだかんだで愛着あるけど
「なるほど。そういうイベントが兄妹にはあるんだね。羨ましいなぁ・・・」
「一人っ子だもんねぇ」
「いいなぁ、朝ちゃんは。悠真みたいなお兄ちゃんがいて」
「うん。自慢の兄だよ。奇行だけはやめてほしいけど」
「・・・善処しよう」
「善処じゃなくて絶対に、やめて」
「・・・はい」
羽依里と朝から軽く睨まれてしまう
・・・そんなに酷いのだろうか?俺の奇行
「そういえば、写真部の皆はきょうだいはいるのかな、悠真?」
「んー・・・藤乃と吹田と尚介は一人っ子で、廉は確か、お姉さんがいたはずだ」
「お姉さん・・・!」
「ただ、あまり仲は良くないみたいだな。その話になるとふてくされるから気をつけてくれ」
「わかった」
話している間に、最初の行き先だった携帯ショップに到着する
そこのアクセサリーコーナーの方へ向かい、保護フィルムが並んでいる場所が最初の目的地だ
「何かお探しですか?」
「はい。羽依里、スマホ貸してもらえるか?」
「うん」
薄い赤・・・ピンクとはいい難い、不思議な色の端末を手渡される
改めて思ったが、俺も朝も羽依里も変な色のスマホだな・・・
「この端末ですと、こちらですね」
「ありがとうございます。それからケースも探しているのですが・・・」
「申し訳ありません。対応ケースは今、品切れ中でして・・・」
「そうですか・・・ありがとうございます」
「いえ。それに、商品もあまり若い女性が使われるようなデザインじゃないんです」
「黒とか、紺とか?」
「・・・それの本革。お値段もあまり優しくありません」
「あぁ・・・」
流石にカバーは難しいか。セットで買う人も多いし、仕方がないか
気分が少し落ち込んだ俺に、店員さんは小さな声で語りかけてくれる
「・・・こういう紹介、本当はダメなんですけど、四階にフリーサイズのカバー専門店があるんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。ここだけの話ですけどね」
「ありがとうございます、店員さん。そこで探してみます」
「いえいえ。では、フィルムだけ精算をしましょうか。よろしければ、フィルム貼りまでさせていただきますが・・・」
「いいんですか?お願いしても?」
「ええ。勿論です。ではこちらに」
レジに向かい、精算を済ませる
そのまま店員さんにフィルムを貼ってもらい、第一関門は突破だ
「羽依里、お返しします」
「ありがとうございました」
「いえいえ。またのお越しを、お待ちしております!」
笑顔の店員さんに見送られ、俺達はもう一つの目的を果たすために四階へ移動する
行き先は増えたが、次の目的地に予定していた場所も四階にあるし、寄り道と思いながら進んでいこう
「さっき、フィルムを貼ってくれた店員さんがここならって。気に入るデザインがあればいいんだが」
「なるほど。じゃあ探してみようか」
「そうだね。あ、おにい。これとかいいんじゃない?」
「朝、それは完全に俺向きだな・・・」
「ダメ?サバ。おにい、これ大好きだよね?」
「大好きだけど、まだカバーを買い換える予定はないな」
もしも買い換えることがあれば、機種変をした時ぐらいだろう
今のも十分綺麗に使えているからな
「そういう朝こそどうなんだ?可愛いの色々あるぞ。これとかどうだ」
「目玉焼きカバーじゃん!いいねぇ!」
「今日の兄ちゃんはご機嫌だから買ってやろうぞ」
「でも卵焼きとプリント悩むな・・・あ、マヨがある。これでお願いします、お兄様!」
「了解だ。しかし朝・・・本当にマヨネーズ好きだな」
「まあね。あ、おねえ。これ可愛いよ!」
朝が可愛いと見せてきたのは、桜色のカバーだった
緑の模様が・・・いや、植物の模様が入っているみたいだな
「白い花だな」
「桜じゃないよね。真ん中黄色いし」
「いちごの花か・・・」
朝が選んだデザインをまじまじと見つつ、羽依里は決めたように顔を上げる
「悠真、これにする。これがいい」
「そうか。ちなみにだが、決め手は?」
「いちごは私達に縁があるから、かなぁ」
「?」
羽依里の言葉の意味はわからなかったが、とりあえず気に入ってくれたらしい
俺は朝にはご褒美として、羽依里にはプレゼントとしてその二つの精算を済ませ、それぞれを二人に手渡す
「ありがとう、おにい!」
「いいの?悠真・・・お金」
「・・・プレゼントとして、受け取ってくれると。そういうのはあまり気にしないで欲しい」
「うん。じゃあそうするね。ありがとう、悠真」
「どういたしまして」
羽依里は早速封を開けて、カバーを自分のスマホにつけてくれる
「大事にするね」
「ああ」
「おにい、次はどこに行くの?」
「次はこのフロア。羽依里が好きな場所だ」
「私が好きな場所・・・?」
次の目的地は同じフロア
少し歩いた先にある手芸店だ




