4月20日④:もう「おねえ」って呼んだ方がいい?
ショッピングモール近くのバス停前に、朝の姿を見つける
朝には言いたいことが山ほどある
「おにい、羽依里ちゃん・・・」
「朝、おま・・・」
「朝ちゃん。少しだけ向こうでお話ししよう?」
なぜか羽依里が先に動いて、朝と共に少しだけ離れたところへ向かう
俺はそれを眺めながら、その場で待つことにした
・・
悠真から少しだけ距離を取り、私と朝ちゃんは少し離れた場所の物陰に入り込む
「あ、あのね羽依里ちゃん。私・・・」
「朝ちゃん。ありがとうね。はっきりしないのが嫌いだって言ってくれて」
「・・・え?」
朝ちゃんは私からこの言葉が帰ってくるとは思っていなかったようで、目を白黒させる
「朝ちゃんから言われた言葉を、考えて・・・きちんと話したの。病気のことも、私の想いも全部、二人で」
「そ、そうなんだ・・・」
「朝ちゃんと悠真のおかげで、前を向きたい。生きていたいって思って・・・きちんと答えを出してきたよ」
「本当?」
「うん。それでね、ちゃんと伝えて・・・今日から、そのね」
なかなかうまく言葉にできない
少し恥ずかしくて、照れてしまって
「・・・恋人に?」
「そう、なんだ。うん」
「そっか。やっと・・・よかったぁ・・・!」
「ええ?!」
「何その反応。私が怒ると思ってた?」
私は朝ちゃんの反応が意外で、むしろそっちに驚いてしまう
バスに乗り込む前まで、少しトゲのある言葉を投げられているものだから尚更・・・
「頭何度も縦に振らなくていいから。確かに私はおにいのことが好きだよ。自慢のおにいだもん。おじさんのせいで外に出したら若干恥ずかしい出来にはなってるけど」
「・・・・まあ、そうだね。唐突に変なこと言い出すし」
「でも、それと同じぐらい羽依里ちゃんのことが私は好き。おにいが結婚するなら、相手は羽依里ちゃん一択であって欲しいと思うぐらいにはね」
「そこまで・・・」
「私が嫌いなのは、羽依里ちゃんが自分の想いに対して、おにいの想いに対して不誠実だった部分。もうそこはないんでしょう?だから私も、羽依里ちゃんを嫌う理由も、怒る理由だって今はない」
意外な反応でびっくりするけれど、それ以上に朝ちゃんが私のことを好いていてくれた方に驚きを隠せない
「まあ、お見舞い行っていなかったのは申し訳ないかな。本気で嫌ってるかも・・・って誤解させたのはそこが一番大きいだろうし」
「誤解で安心した。じゃあ、朝ちゃんがお見舞いに来れなかった理由って・・・?」
「今、部活ほぼ毎日で暇がほとんどないんだ」
「部活は何してるの?もしかして今もソフト、続けてるの?」
「うん。ソフト部だよ。副キャプテンなんだ」
「おお。朝ちゃんなら大丈夫だよね。お飾り部長な悠真と違ってしっかりしてるから」
「行動力はあるんだけどね、おにい・・・無駄にだけど。しっかりしてるけど、どこか抜けてるから・・・心配になるんだよね」
「わかるや、その気持ち」
少しずつ、元の場所に戻りながら話をしていく
こうして二人、話したのはいつ以来だろうか
「ごめんね、羽依里ちゃん。病気のこと、知らなくて・・・あんなこと」
「気にしないで。病気のことは、二人には伏せておいてって私が頼んでいたから。それで起きちゃったことだから、私にも責任があるよ」
「それでも、ごめんね」
それでも申し訳なさそうに謝り続ける朝ちゃんに向き合って、自分の思いを伝える
真っ直ぐに、素直な思いを
「もういいってば。今こうして落ち着いたのは朝ちゃんのおかげだから。これ以上は謝らないで」
「・・・うん。じゃあ、もう、何も言わないね」
「それでよし!」
今度は二人手を繋いで歩き出す
それは悠真とは違う暖かさがある。妹がいたらこんな感じだったのだろうか
「ねえ、羽依里ちゃん」
「なあに。朝ちゃん」
「おにいが悪さしたらけちょんけちょんに懲らしめるからいつでも言ってね?」
「頼りにしてるね」
話を終える頃には、悠真が待つ場所に戻っていた
「あ、おい。二人とも急に・・・」
「悠真には内緒の話をしてきたから」
「俺には内緒ってなんだよ・・・まあ、その分ならさっきの件は深く聞かないけどさ」
私と朝ちゃんの繋がれた手を見ながら、悠真は若干不機嫌そうに眉間を動かす
これは多分、自分も混ざりたいんだろうなと思いながら先に朝ちゃんが何か言いたげだったので背中を押す
「おにい。羽依里ちゃん。おめでとう。お祝いは今すぐ市役所行って婚姻届持ってくる感じでいい?」
「羽依里から報告もらったのか・・・って朝!?母さんみたいなことするなって!」
「さ、流石にまだそれは早いから・・・誕生日までは、ね?」
「そこまで考えてくれているとは・・・うん。十八の誕生日は羽依里へ俺の名字をあげるからな・・・!」
「けしかけた私が言うことじゃないと思うけど、惚気が凄いね・・・と言うかもう結婚前提なんだ・・・」
「「小さい頃からの、夢だから」」
「・・・もう。二人して仲良しすぎない?」
朝ちゃんから呆れた目を向けられる
けれどどこか、その目は安心しきったように笑っていたように思えた
「ああ。俺たちは仲良しだ。色々と言いたいことはあるけれど、それは家に帰ってからな。今は・・・そうだな。けしかけてくれた朝にはお菓子を奢ってやろう。何が食べたい?」
「ここまで来たし、ブルイヤールのチョコ菓子」
「専門店のかよ・・・高いんだぞ、あそこのチョコレート」
若干渋る悠真に、私は声をかける
この関係に収まることができたのは朝ちゃんのおかげだ
できることなら、彼女のお願いを叶えてあげたい
「悠真、私からもお願い。半分出すから」
「羽依里は何もしなくていい。ここは俺の顔を立ててくれ。朝。何箱でもいいぞ。喫茶スペースでケーキセットも頼んでいい。俺が全額奢ってやる。羽依里も」
「やった。これからおにいに何か頼む時は羽依里ちゃん経由で頼もう。あ、もう「おねえ」って呼んだ方がいい?」
「おねえでいいよ。朝ちゃんは、妹みたいに思っているから」
「やった!じゃあ、おねえの買い物終わったら食べに行こ!」
「はいはい。じゃあまずは・・・」
やっと、私たちの休日が幕を開ける
寄り道はたくさんしたけれど、その分得られたものもたくさんあった
「羽依里、行こうか」
「え・・・」
「どうした、ぼーっとして。疲れたか?」
「う、ううん!なんでもないの。大丈夫。行こう、悠真」
「ああ」
年相応にはしゃぐ朝ちゃんに案内してもらいながら、私たちは歩いていく
「そういえば、羽依里」
「何かな」
「・・・色々と丸く収まってよかった」
「・・・そうだね」
「おにいもおねえも何してるの?」
「あ、すまん朝。行こうか、羽依里」
「うん。ごめんね、朝ちゃん」
立ち止まっていたから、朝ちゃんがついてきていないことに気がついて引き返してくれたようだった
「いいって。具合悪くなったのかもって思って引き返してきただけだから。おにい一人だったら置いていったけど」
「おい」
二人の兄妹間の会話が羨ましくて、可愛らしくて笑みが零れる
「二人は本当に仲良しだね」
「そりゃあ、お父さんもお母さんも多忙だからおにいとおねえに育てられましたし?仲良しですよ、おねえもね」
「それは嬉しいことを・・・私も朝ちゃんと仲良しで嬉しいよ」
朝ちゃんと二人ではしゃぎながら歩いていく
その間、悠真が安心したような・・・しかしそれでいて若干疎外感で寂しそうな表情を背後で浮かべていた
「悠真。なんで後ろ歩いてるの?」
「そうだよおにい。羽依里ちゃんの隣が定位置なのは私じゃなくておにいでしょ。早く来てよ」
「あ、ああ」
彼なりに気を遣っていたのか、どうかはわからない
悠真が私の左手を繋ぎ、隣にいてくれる
朝ちゃんが右側でゆっくり歩調を合わせてくれてる
これが、一番の形
大好きな二人に囲まれて歩くこの時間が
私はとても、愛おしく思える




