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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
卯月の章:今までから変わる春
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4月18日:凄く優しいお兄ちゃんなんだけどね

午後七時

校門の前で、私はおにいが来るのを待っていた


「朝。まだ帰らないの?」


幼馴染の高槻百合たかつきゆりが帰る直前だったみたいで、校門前にいた私に声をかける

校門から少し離れたところに、百合のお母さんが待っている。お迎えはもう来ているようだ


「そろそろおにいが・・・ううん。兄さんがくるから」

「そっか。じゃあ待っとかないとだ。でも、悠真君が無理な時は一緒に帰ろうよ。帰り道一緒だしさ」

「嬉しいけど、百合は部活の後、塾だったりするでしょ?別々の時もあるから、おばさんもいいとは言ってくれるけど、わざわざ送ってもらうの申し訳ないし・・・」

「今はおじさんもおばさんも腰痛めているんでしょ?困った時はすぐに頼ってね。何かある前に!」

「分かった。ありがとうね、百合」

「いいよいいよ。気にしないで」


私にとって百合は大事な友達だ

小さい頃から一緒な百合は、おにいで例えれば羽依里ちゃんみたいな存在

とても大事。困った時は助けあっている・・・そんな関係だ


「何、なんの話?」

美月みづきは今帰り?」


私と百合が話していると、同じ部活の江島美月えじまみづきが声をかけてくる

結局最後まで同じクラスになれなかったけれど、良好な関係だと思う。個人的にはだけど


「うん。と言っても家は中学校の目の前だしさ・・・二人はお迎え待ち?」

「私はもう来てるけど、久々に悠真君に会いたいし。朝が帰るまで待とうと思うの」


百合がそう言うと、遠くの方で待っていた百合のお母さんが分かったと言うように車に戻っていった


「じゃあ、二人が帰る時に私も帰ろ。で、朝と百合はなんの話してたの?悠真君って?」

「私の兄さん」

「朝、お兄ちゃんいたんだ。いいなぁ・・・迎えに来てくれるお兄ちゃんとか優しいね」

「うん。凄く優しいお兄ちゃんなんだけどね・・・」


その優しさは、ほとんど特定の人物に向けられている

私はいつでも二番目。いつも、羽依里ちゃんが一番

それでもかなり優しい方だと思う。おにいは、面倒見がいいから

それに羽依里ちゃんの事情を知っていれば、一番なのは当然だ。私だって気を遣う

けれど、その一番が欲しいと思わないわけでもない


遠くの方から足音がする

そういえば、歩きすぎて靴がボロボロになったから、三年に進級すると同時に新しい靴に買い換えたんだっけ

土岐山高校は校則がかなり緩いとは聞くし、登下校の靴の指定はない。入学式と卒業式にローファーであれば怒られないと藤乃さんが言っていた気がする

けれど、おにいはいつでもローファーで学校生活を過ごす

だから歩く時、少しだけ足音がするのだ


「あ、もしかしてあの人?」

「うん」

「朝、またせたな」


おにいが手を振る。羽依里ちゃんを送った帰りだろうか


「悠真君だ。制服では初めてだね!あれ?もしゃるのやめたの?」

「今はな・・・」


おにいが毎朝登校二時間前に起きて、寝癖を整えるようになったのはつい最近

羽依里ちゃんが、登校を始めたぐらい

お母さんと私が何度言っても聞かなかったのに、羽依里ちゃんが一回言えばすぐに実行に移す


やろうとしてくれるならいいことだと、母さんはいうけれど

羽依里ちゃんの影響力が強くて、少し苛立ちを覚える

私の、おにいなのに

幼馴染の言うことじゃなくて、家族の、妹のお願いを聞いてくれたっていいじゃん


「ところで、その子は?」

「彼女は江島美月ちゃん。同じ部活の同級生。美月、ティスイズニーサン」

「これとはなんだ。これとは。五十里悠真です。妹がいつもお世話になっています」


おにいは営業スマイルを浮かべて美月に自己紹介する

こんなに機嫌がいいのは珍しい。きっといいことあったんだろうな・・・学校で


「じゃあ、朝のお迎えも来たことだし、そろそろ帰ろうか」

「うん。また明日ね、百合。美月」

「また明日!」


おにいが合流したことで、三人別々の方向に歩いていく

百合はお母さんが待つ車の方へ、美月は家のある方へ

そして私とおにいも、家の方へ歩いていく


「荷物持つぞ。ほら、貸せ」

「いいって。おにい落とすかもだし」

「落とさんわ!」


おにいの熱いツッコミを横に、私たちは夜道を歩く

一人の時は不安だったけど、今はおにいがいるから少し楽しいとか思ってしまう


「朝、スーパー寄るぞ」

「うん。今夜は何?」

「弁当用の冷凍食品買ってこいってさ。後、冷凍肉まん」


買う物を入力しているメモアプリを起動させて、おにいは私にスマホを手渡す

確かに、おにいの言う通りのものが入力されている。お母さんが頼んだお使いで間違い無いだろう

なんせ、あれがあるのだから


「お母さん本当に肉まん好きだね・・・」

「母さんだからな。ちなみにメーカーは桃二郎じゃないとダメだって」

「メーカー指定まであるんだ・・・」

「母さんだからな」

「お母さんだからで済まされるお母さんも凄いよね・・・今朝の腰の調子はどうだった?」

「全然だ。父さんは少しずつ動けるようになったけどさ」

「まあお父さんが動けるようになったのはいいことかな・・・でもまだまだ本調子じゃないだろうから、頑張ろうね、おにい」

「ああ。しかし・・・」


おにいの言葉が詰まる

言いたいことはなんとなくわかる。私にも関係ない


「俺たちはちゃんと料理できるようにならないとまずいと思うな」

「うん・・・」


お母さんがぎっくりになった初日は謎の理由でお寿司を出前した

そして昨日は帰りが早かったおにいがうどんを用意した。お母さんの白い目がおにいに刺さっていた

そしてうどんに飽きたらしいお父さんの悲しい視線も刺さっていた

そう。お母さんがぎっくりになった今、五十里家の食卓は非常にレパートリーが悲しいことになっている

もちろん、おにいはお弁当にも被害が出ている。学食は安いが少ないと嘆いていた


その現状に陥ったことで、私たちはやっと理解する

ああ、料理ができるようにならなければと

そんな意志を心に抱きつつ、私とおにいは少しだけ遠回りしてスーパーへの足を進めていった


・・


帰り道の途中で、俺と朝はスーパーへ向かう

頼まれた物をカゴに入れ、会計に向かおうとしたところであるものが目に入る


「ビスケットだ。安売りしてるし、買って行こうかな」

「あ、それ美味しーーーー」

「このメーカーの、羽依里が好きだから明日持っていくか。朝も食べるか?」

「・・・うん」


俺は羽依里が好きなシュガービスケットと、朝の好きなソルトビスケットをカゴに入れてレジへと向かう

同じメーカーの、同じ製品の、別の味。羽依里と朝の好みは正反対だから


「・・・いつも羽依里ちゃんばっかり」

「なんだよ朝。そんなにプリプリして。どうした、機嫌悪いのか?」

「なんでもないし」


レジで支払いを終えて、預かっていたエコバッグに買った物を詰めていく

その間もまだ朝は不機嫌なままだった

どうしたものか・・・なんで不機嫌なのかすらわからない


「ねえ、おにい。五月になったら羽依里ちゃんうちに来るんだよね」

「ああ。それがどうしたんだ」

「どこの部屋に住んでもらうの?まさか、おにいの部屋とか言わないよね?」

「んなわけあるか!あんな狭い和室に二人なんて無理に決まってるだろ!一階客間を使ってもらう予定だ!」

「ほ」

「ほ?」

「なんでもない」


朝の反応が少し気になったが、今は指摘できる雰囲気ではない


しかし、俺の部屋に羽依里が寝泊まりか

羽依里と起きて、部屋で過ごして、一緒に寝る

・・・うむ。俺の心臓に悪い


「・・・おにい、何考えてるの?気持ち悪い顔してる」

「なんだよ気持ち悪い顔って。普通だろ普通。無愛想で有名な」

「無愛想で有名にならないでよ、恥ずかしい」

「しゅん・・・まあ、そうだな。せめて朝が進学する前には、悪名除去して卒業しておくな。あの五十里の妹だって言われないように」

「何してるの、おにい・・・」


具体的には、無愛想で有名になり、牽制部活紹介に、圧迫部活面接とか・・・?

それに協調性の欠片もない行動ばかりとか・・・


「まあ、色々だ」

「色々、悪行を重ねているのかな・・・あんまり無茶しないようにね。また、おにいが怪我して帰ってきたら、嫌だから」

「・・・ああ。ちゃんと頑張るよ」


左手を左脇腹に添える。朝は複雑そうに顔をしかめながら、俺についてきてくれた


「もう二年前になるんだね。おにいの最悪な夏休み」

「ああ。早いな、時間が経つのは」

「あの日のこと、羽依里ちゃんには話したの?」

「いいや。隠してるよ。父さんと母さんにも言うなって言ってるから、朝も頼むよ」

「うん」


その言葉を聞いて、安堵する

家族以外は知らないから、俺が話す以外に羽依里にあのことが伝わることはないだろう


「あのさ」

「なんだ?」

「・・・なんでもない。早く帰ろう。お母さん、お腹空かせてる」

「?。ああ、まあそうだろうな。早く帰ろう」


何か言いたそうだった朝は言葉を引っ込める

何を言いたかったのだろうか、気になるけど朝は決して話してくれなさそうな予感を覚えつつ、俺たちは暗い帰路を辿っていく

いつか、話してくれる日は遠くはないだろう。そんな予感も抱きながら。兄妹仲良く歩幅を揃えて進んでいった

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