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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
卯月の章:今までから変わる春
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4月17日:羽依里が俺をどう思っているか聞いてみたくはある

午後六時少し前

病院前まで羽依里を送り届ける日課はいつも通りにこなされる


「今日も門限ギリギリになるかもしれないね」

「まだ大丈夫だ。でも、羽依里にギリギリの心配をさせるのは悪いな。もう少しゆとりを持つことにしよう」

「お願いします」


「面会時間までとか割とハードなんだよな・・・五月からはその縛りが緩くなるとはいえ、今は遅くならないように部活参加は控えておいた方がいいかも」

「でも、悠真は・・・私の帰宅に付き合わせることになるでしょ?」

「大丈夫だ。今は二十二日にある遠足の撮影計画を練っているだけだし・・・今年も同じ場所に行くみたいだから、例年通りにしたらいいしな。だから軽くミーティングをしているぐらいだ。気にしなくていい」


最悪、話し合いぐらいなら教室でもできる

ただ、休み時間を全て睡眠に回している廉とか、呼び出しが多い藤乃とかは嫌がりそうだが・・・俺としては吹田と尚介と打ち合わせができていれば撮影には支障がない

裏を返せば、その二人と少しでも情報の漏れがあれば撮影に支障が出ることと同義だ

一昨年みたいな大惨事が起こらないように慎重にやらねば・・・


「じゃあ、お言葉に甘えて、少し早めに帰らせてもらうようにしていいかな」

「ああ。みんなにも伝えておく。あ、羽依里。学校指定の写真部連絡チャットに招待しておくな。部活の連絡はこれを通してしかできないから」

「ありがとう。これでみんなにすぐ連絡が行くね。でも、どうしてこんなもの・・・」

「うちの部活はご存知の通り、ちょっと特殊だからな。先生の監視付きなんだよ。文面は気をつけろよ。監視されてるから」

「う、うん・・・!」


羽依里のアカウントを、写真部チャットのグループへ招待する

すぐに招待を受けてくれたようで、通知に羽依里が写真部に参加しましたと表示された


「これでよし。後それと、学校行事、俺たちは携帯の持ち込みを学校側から許可されているから・・・って、羽依里は緊急用に常に持ってるから大丈夫か。俺もだけど」

「うちの学校は、携帯の持ち込み禁止なの?」

「基本は。羽依里みたいに病気を持っていたりする子とか、家が遠い子とかが特例で許可されるな」

「許可さえ取れば基本的に誰でも簡単に取れると聞いているけれど・・・厳しいようで結構緩いよね、ここ」


羽依里の言うとおり、土岐山高校は割と校則が緩めだ

携帯の持ち込み関連のように一見厳しいように見えて、緩そうに感じる校則もある

しかし、携帯だけは本当に厳しいのだ。うちの高校は


「まあ、前者は授業中もマナーモードにすることを条件で持ち込みが許可されているが、後者は登校時に先生に預けるようになってる。もちろんだが、テストの時は没収」

「へえ・・・」

「羽依里は多分、テストは何があってもいいように保健室で受けることになるんじゃないかって、大島先生が言っていた。テスト中に倒れたりしたら大変だからって」

「それはよかった。けど、なんで携帯に関しては色々と厳しいの?」

「前、携帯の持ち込みを許したら、携帯を使ってテストのカンニングとか、S N Sのいじめとかに発展したらしい。その影響で、携帯関係の校則はかなり厳しくなっている」

「そうなんだ・・・」


羽依里は自分のスマホを不安そうに握りしめる

こんな小さな媒体一つで、人の人生を一つ簡単に狂わせられるようになるなんて末恐ろしい時代になったものだ


しかし、羽依里の機種は最新のものか

カメラ機能がその辺のデジカメ以上と噂の機種だ・・・今度見せてもらおう


頭の中に浮かんだ雑念を払いつつ、もう一つの話をしておかなければならない

写真部が、携帯を持ち込んでいい理由を新入部員である羽依里にきちんと話さなければ


「写真部は、情報連携が必要だから持ち込みが許可されている。けど、尚介吹田藤乃の三人は先生に預けている組だな。俺と廉だけ持ち込んでるよ」

「悠真はなんとなく察しがつくけど、藍澤君はなんで持ち込んで大丈夫なの?」

「俺は羽依里が倒れた時の連絡役も兼ねてるから三年から許可をとった。廉は両親が海外にいて、今はおじいさんと二人暮らしなんだ。もう年配で、もしもの時があった時のためにすぐ繋がるよう持ち込み許可を取っていた」

「なるほど・・・ねえ、悠真」

「なんだ?」

「私は、その「もしも」がないように、頑張るからね?」

「そのもしも、この前使ったんだが・・・まあ、仕方ない。あれはノーカンで今後、頑張ろうな」

「ありがとう。頑張るね?」


羽依里は嬉しそうに笑いつつ、病院への道のりを歩いていく

そう言えば、カメラに気を取られていたせいで気がつかなかったが・・・羽依里のスマホは何もついていないな・・・

保護フィルムすらないのはちょっとどうかと思う


「羽依里」

「何?」

「その機種名を教えてくれないか?落としたりしたら大変だから、今度カバー買ってくるよ」

「・・・カバー?」

「・・・知らないのか?こんな感じの。手帳型とか、ケース型とかあるんだが」


俺は鞄の中から自分のスマホを取り出す。青色の手帳型のスマホカバーがついた普通のスマホだ


「病院にいた時はつけなくても平気だったから・・・でも、学校に行く時はそのままにしたら本体や画面に傷がついたりしちゃうかもしれないね」

「ああ、だから・・・」

「今度、買いに行く」

「一人で?」

「ついてきて・・・くれないの?」


ついてくるのが当たり前じゃないのかと言うように羽依里は俺の言葉に衝撃を覚えていた

それほどまでに一緒に行動するのが当たり前になっていて、嬉しいようで・・・距離感が近すぎて、何も思われていないのが悔しい

・・・羽依里は分かっているんだよな。聞かなかったことにしたり、拒否したりするけれど、俺が羽依里を好きなこと、忘れていないよな


羽依里は、俺のこと・・・どう思っているのだろうか

ただの幼馴染?それとも、世話を焼いてくれる少し厄介な癖がある男?

どうなのだろうか、一体


「ぬぬぬ・・・」

「険しい顔してどうしたの、悠真。もしかして、次の何か用事があったりするの?」

「大丈夫。ついていける。でも休みの時になるから、外出許可取っておいて欲しい」

「分かってる。ありがとうね、悠真。次のおやすみの時はお願いします」

「ああ。任された」


返事を返したその一瞬、春風が吹き渡る

夕焼けが羽依里の髪と共に流れてキラキラと輝く

黄昏色が溶けた羽依里のブロンドも、どこか幻想的で・・・なぜ手元にカメラがないのだろうと酷く悔やむほどに

しかしカメラを持っていたからと言って羽依里を撮ることができるかどうかは、若干怪しい話だが


「どうしたの、悠真」

「心のフィルムに現像しているんだ。動かないでくれ」

「・・・心のフィルム?」

「心のメモリーカードとも言う。羽依里専用だ」


その言葉を聞いて、羽依里の目が呆れたように細められる。いつも通りの、お決まりだ


「・・・悠真の頭はどうなっているの。私だけの記憶領域とか存在しちゃっているわけ?そういうの必要ないから今すぐ消してね?」

「やなこった。俺の記憶はいつも羽依里でいっぱいだと言っておこう」

「・・・嬉しい」

「!?今嬉しいって聞こえた!」

「そんなこと言ってないもの!嬉しいなんて思ってないって言おうとしたもの!嬉しいなんて言ってないもの!」


頬を膨らませて猛抗議する・・・その姿もすごく愛らしい

その姿に、俺の心は昂る以外の選択肢を持つことができなかった


「羽依里、好き・・・大好き超好き。めちゃくちゃ好き・・・世界一好き・・・」

「今まで忘れていたノルマを回収するかの如く繰り返さないでくれるかな」

「む?ノルマ・・・?一日一告白は努力で行こうと思ってたのだが、もしや羽依里・・・俺が一日一回告白してくれるのを、待ってくれているのか?」

「そうじゃないもの。聞いて拒絶するのに、待っているなんて思っているの?」

「思っている。だって羽依里が待っているような表情をしているから。俺はこれからも伝えるぞ。昨日の俺より、今日の俺が羽依里のことを好きだって、きちんとわかるように」

「・・・そ」


羽依里はそっぽを向いて、病院の道のりを先に歩いていく

図星なことを言われたり、都合が悪くなったり、隠さなければいけないことがあったりする時の羽依里のとある癖

そんな状態に陥った時に、話を切り上げる癖は直っていないらしい


「羽依里」

「なあに、悠真」

「でもやっぱり、俺は羽依里が俺をどう思っているか聞いてみたくはある」

「・・・」

「いつか、教えてくれるか?」

「・・・いつかね。必ず、伝えるから」

「ありがとう。それじゃあ、後もう少し頑張って歩くぞ」

「うん」


少しだけ気まずい空気を纏いながら、俺たちは病院への道のりを歩いていく

ズレていた歯車の一つが、噛み合って・・・俺たちの間柄が少しだけ動いたのは、この時点の俺たちはまだ気がついていない

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