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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
卯月の章:今までから変わる春
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4月11日:死因が照れになったらどうしよう

四時半。

授業がまだ本格的に始まったわけではないが、久々に教室で授業を受ける羽依里にとって、緊張とか様々な要因でかなり体力を消耗しているらしい。

放課後になる頃には、完全に疲れてしまったのか机に突っ伏していた。


「羽依里ちゃん、大丈夫?」

「…疲れた」

「勉強って感じの勉強はまだ本格的じゃないけどさ、授業ついていけそう?」

「そこは大丈夫!学校に来る前に教科書読んで予習してきてるから!勉強楽しい!」

「外見だけ優等生な藤乃みたいな感じの優等生じゃなくて、ガチモンの優等生増えた…万歳」

「ちょ、絵莉ちゃん!?さりげなく失礼じゃないかなー!?」


病院に戻ってからは基本的に暇なようで、羽依里は寝るまでの間、日記を書くのと、やりたいことを書いていく青春ノートの続きを書くこと、そして予習と復習に時間を費やしているようだ。


先に言っておこう。羽依里は不健康なだけで、元より勉強できる方だ。

記憶力はかなりいい。些細なことだって普通に覚えている。


対して俺は物覚えが悪いというか、要領が悪い。

それを補う為に、時間をかけて念入りに、自分なりに噛み砕いて覚えなければならない。

そうでもしなければ、覚えきれないから。


そのおかげで、ギリギリ羽依里に誇れる学年一位の座を取り続けられている。

時間をかけたものほど記憶に残ってくれるのは助かるが…なかなかに不便だと思う。


まあ、俺の記憶力の欠陥っぷりはどうでもいいのだ。

問題は羽依里が予習を欠かさないとなると…四月初めにした宣言は、よりによって羽依里に頓挫させられるという事故が起きてしまうということ。


「まあ、この調子だと…五十里の連続一位は取られそう。その辺りどうなのよ?五十里、コメントよろ」

「悠真の一位は、一年の時からだったの?」


今後のことを考えていると、吹田が俺に話を降る。

いつから一位だったのか、それは羽依里に具体的に伝えていなかったので、彼女はその話に凄く驚いていた。


「ああ。だからと言って連続一位のまま卒業させようとか気を遣ったりするなよ?全力でこないと、怒るからな」

「悠真が望むなら、頑張らないとね」


自分で羽依里のやる気をあげるが、それでも構わない。

そうして、羽依里が一位を取ったなら…俺は、その頑張りに、そして羽依里の持つ実力に負けただけとなる。


だからと言って、そう簡単に負けるわけにはいかない。

この二年間、俺だって頑張ってきた。

…こういう結果でしか語れないのが残念だけど、一番だったら羽依里は凄いって言ってくれるだろうから。

周囲とは異なる不純な動機。それでも得た環境。

譲れない。だから俺だって、全力でやる。

そう心に決めたことを悟られないように、俺たちは表向きには闘争心の欠片もない話を続けていく。


「今年は面白そうなことになりそうだね」

「そういうお前は今年も赤点ギリギリなのは流石に進路に関わるだろ。もう少し勉強しろ」

「いやー。今年も五十里塾赤点対策講座で乗り切るからよろしくねー」

「乗り切るな!お前と廉の赤点対策ノート作るの大変なんだから、そろそろちゃんと勉強してくれよ」

「やなこったい」


「毎回対策ノート作るとか五十里優しすぎるでしょ。藤乃も廉も一回補習沼につけてやれば嫌でも勉強するって」

「吹田の言う通りだな。藤乃。次の中間、俺は羽依里対策で勉強するから一人で頑張れ」

「じゃあ今年は羽依里ちゃんに見てもらおう」

「わ、私で良ければ…」

「羽依里に甘えるなー。自力でやれー」


吹田の言葉に、藤乃はそっぽを向く。

…羽依里に全部任せるのは流石にあれだし、結局俺も藤乃の勉強を見ることになるんだろうな。

自分だけでも精一杯になりそうなのに、もう中間試験が心配になってきた。


「なになに、何話してんの?」

「廉か。別に、お前の大嫌いなテストの話だよ」


噂をしたら、早速日直が回ってきた廉が日誌片手に声をかけてくる。


「その話は入らないでおこうか。しかしまあ、上位陣は早速次の勝負の話してるのか…大変だなぁ…頭いい人って。生き辛そう」

「今回から羽依里が参戦するからさらに混戦する」

「へえ。白咲さん頭いい側なんだ。悠真を蹴落とせる可能性のある刺客が増えた感じ?」

「そんな感じだよー」

「次のテスト楽しみだね。自分の成績は二の次で」

「いや、自分の成績気にしろし…」


吹田が頭を抱えて項垂れる。髪を黄色に染めていて、いかにも浮ついた容姿を持つ吹田だが、部活メンバーというかよくつるむ面子の中ではかなりの常識人寄り。

胃を痛める気持ちはわかる。俺も、廉と藤乃の今後がかなり心配だ。


「まあ成績のことは置いておいて。今日は部活するの?」

「部活、どうするんだ副部長」

「私に聞くなよお飾り部長。まあ、一回ぐらいは開いとく?部活紹介の打ち合わせもしておかないといけないだろうし」

「じゃあ、私先に部室の鍵開けとくよ。先に行って待ってるね!」

「尚介捕まえなよ、藤乃!」

「了解!」


少し話し合った後、最初に行動したのは藤乃。

荷物を持って、帰ろうとしていた尚介に声をかけ二人して教室を出ていく。

それから職員室に行って鍵を借り、部活で先に待っておいてくれると思う。


「僕は日誌提出してから合流するよ。また後でね」


廉は再び日直の仕事に戻っていく。こちらはまだまだ時間がかかりそうだ。

そして…。


「部活…」

「五十里、羽依里どうするの?病院に送らないといけないんでしょう?」

「こんなに目を輝かせている羽依里を帰せるか?」

「私は無理」

「俺も無理だ、が」


羽依里は部活という単語に目を輝かせて、先ほどから俺の方をチラチラしている。


「…羽依里。病院の門限が」

「…」


見るからにしょんぼりしている羽依里を見ると、心が痛む。

部活とか、学校に来ないと出来ないことに対して憧れていた羽依里にとって、目的の部活を目の前にして帰されるのは不本意だろう。

…仕方ない。ここは。


「羽依里。普通にやると病院の門限はギリギリになると思う。でも、一人で帰すのが心配だから、部活に付き合ってくれるか?なるべく早く帰る努力をするから」

「勿論!」


羽依里は俺の言葉に対して嬉しそうに微笑みながら、返事をすぐさましてくれる。

その反応が恥ずかしかったのか、頬を薄紅に染めて両手で隠そうとするが、羽依里の小さな手では完全に覆うことができず、指の隙間から照れた羽依里の表情が覗いていた。


「い、いや…その」

「ぶ、部室は部室棟の四階にあるんだ。少し歩くぞ…」


その表情に、少しだけ動揺してしまったは言うまでもない。

俺も少し、言葉に詰まってしまった。


「あ、うん…ゆっくりでお願いしてもいい?」

「ああ、わかった。手、繋ぐか?」

「心配なら、繋ぐ。何かあったらすぐにわかるでしょう?」


そう言って羽依里は頬を押さえていた右手を俺に差し出す。

左手はまだ頬を押さえたまま。まだ照れで染まった頬の色素は戻らないらしい。


「ペースはこれぐらいでいいか?」

「もう少し早くていい。でも、階段とかは余裕を持って欲しいかも」


軽く歩いて、ペースの確認をする。

羽依里に負担をかけない速さを考え、相談し、歩く速度を定める。

これよりも早くていいらしい。半歩ほど歩幅を広げたら、少し早くなるだろうか…なかなかに難しいな、合わせるのは。


「わかった。吹田。お前はどうする?」

「んー、後で行く。大島先生と部活紹介の打ち合わせを一通り話してくるから部室に先に行ってて」

「わかった。じゃあ行こうか、羽依里」

「うん」


俺と羽依里は荷物を持って、部室棟の方へ向かうために教室を出ていく。


「…相変わらず仲良しだな。昔から全然変わらない。悠真君も、羽依里ちゃんも…」

「どうしたの、絵莉ちゃん」

「なんでも。ほら、廉。日直の仕事終わったんなら職員室いくよ」

「うん。あ、教室戻ってくるの面倒だから行きだけ荷物預けていい?」

「一回貸しね。ジュース奢りなよ?」

「しょうがないな。ついでに、大島先生に入部届貰ってきなよ?」

「そのつもりだし」


その間、吹田と廉の間で少しだけ動きがあったのは…俺たちは知らない話だ。


◇◇


部室棟四階。写真部部活前。


「…」

「ついたぞ、羽依里」

「…ねえ、悠真」

「なんだ」

「確かに疲れた私がもう歩けないなんて情けないこと言ったけど、なんで横抱きしてるの?」

「横抱きとはロマンがないな。この抱き方にはお姫様抱っこと言う崇高な名前がついているんだぞ」

「それはわかるの。私がわからないのは…なんで、こんな公衆の面前で私は恥を晒しているのかってこと」

「そりゃあ、羽依里が疲れたからだろう」


話が堂々巡りになっていることに、俺も羽依里も気がついている。

羽依里はゆっくりため息を吐いて、俺の腕から逃れようとする。

しかし、俺としてはまだまだお姫様抱っこをしていたいわけで…。


「おろして」

「やだ」

「また駄々こねて。恥ずかしいの、早く普通に立たせて」

「むう…」

「フグみたいに膨らんでもだめ!」

「そこはハリセンボンとかの方が例えとしては正当では?」

「悠真の頬はツルツルだからフグでいいの!ほら、早く降ろして」


そうか。髭、まだないのか…父さんにもないし、仕方ないと言えば仕方ないかもだけど、周囲が剃って来ているとか話を聞くと、なんと言うか少し物寂しさを覚える。

羽依里のおじさんみたいに髪と髭が合体するほど欲しいとは思わないけどな。


「やっと降ろしてくれた…って悠真。なんで落ち込んでるの?」

「貫禄が欲しい」

「まだ十七歳なのに、もう貫禄が欲しいの?」

「貫禄というか髭?」

「…何もない方がいいから、これからも無髭で」

「なぜ!?」


羽依里は目を伏せて俺にそう頼む。


「…だって、お父さんの髭痛かったから。たわしみたい」

「…ああ」

「心当たり、あるでしょう?」

「ああ。羽依里の言う通り、たわしを肌に擦られたかと思うぐらいに痛かった」


うっかり忘れていたが、羽依里の親父さんは子供たちに頬擦りするのが結構好きだ。

主な犠牲者は俺と羽依里。

忘れてはいけなかったはずの痛みなのに、なぜ忘れていたのだろうか。


「…髭、やっぱいらないや」

「それでいいの、悠真。これからもスベスベでいてね」

「それはそれで…どうなんだろうか」


脱線した話は一応着地してくれる。

そして羽依里は、安心したように胸に手を当てる。

それとも胸が、心臓が痛むのだろうか。


「羽依里、大丈夫か?息がし辛いとかないよな?」

「大丈夫。少し、鼓動が早くなっただけだから…びっくりしたみたい」

「それはすまないことをした」


「本当だよ…。悠真は色々と強引すぎるの。私、死因が照れになったらどうしようって考えるほどなんだから」

「それは困る。照れないでくれ」

「無茶言わないで…」

「それもそう…はっ!?」


俺は、羽依里から言われてある事実に気がつく。

もしかして俺…とんでもないことをしでかしているのではないか!?


「羽依里」

「何かしら」

「俺は、羽依里に好きというたびに羽依里を命の危機に晒しているのか?」

「それは…ない、とか言い切れないかな。不意打ちな時もあったりするでしょう?」

「これからは気を付ける」

「絶対に気をつけないことだけは…なぜかわかる。どうしてだと思う?」



羽依里から白い目を向けられつつも、俺は返事をする。

だって、俺も…。


「俺もそう思う。なんせこれはこれからも続くから」

「言い切ったらダメなやつじゃない、それ…」

「じゃあ、そろそろ部室の扉を…あれ?」

「どうしたの、悠真」

「おかしいな、藤乃と尚介がすでに到着しているはずなのに、開かないぞ」

「スライドドア、よね?押して開くドアとかじゃないよね?」

「ああ。まだ来てないのかな…?」

「もう少し、待ってみようか」


「そうだな。そうだ。三階に自販機あるけど、何か飲み物買って持ってこようか?」

「ありがとう。じゃあ、水をお願いしてもいい?」

「了解。少し待っていてくれ」


俺は鞄を部室前の廊下に置いて、必要な小銭を片手に三階へ向かう。

本当は冷えた水ではなくてぬるい水をあげたいのだが…まあ、少し時間をおけば緩くなるかなんて呑気なことを考える。


それからの話を少しするのだが、いつまで経っても、藤乃と尚介どころか吹田も廉も来ない。

そんなこんなで五時半になり、羽依里の門限が近くなったので俺は部活のグループチャットに帰る旨のメッセージを送って羽依里と共に帰宅することにした。

そんな四人が何をしていたか知るのは…後日になる。

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