【憂鬱】
全五話、集中投稿となっております。
私の名前はローラン。
姓はない。
戦争孤児だった。
無償で勉学を受ける為に士官学校へ入った。
そして、卒業してからもう五年が経つ。
士官学校を次席で卒業したこともあり、私はロキア王国王都駐留の精鋭部隊へ入隊することが出来た。
私はここで英雄になる、と意気込んでいたのに…………
「ローラン、また前線勤務を希望したらしいな」
訓練の終わりにレアード先輩が話しかけてくる。
「ええ、断られましたけどね」
私は愛想なく答えた。
「お前みたいな戦争孤児の平民がロキア王国精鋭部隊に入れて何に不満がある? 平民からすれば、給料もいいし、何より安全だ。前線なんかに行ったって、良いことはない。配属されて、その日に死ぬことだってあるらしいからな」
「だから何ですか? 私が騎士になったのは英雄になりたかったからです」
私が宣言するとレアード先輩は鼻で笑った。
「またそんなことを言っているのか?」
「ええ、何度でも言います」
「じゃあ、俺も何度でも言ってやる。お前は英雄になれない。理由は二つだ。家名もないような身分。そして、女だからだ」
レアード先輩は頼んでもいないのにそんなことを言う。
もう聞き飽きた。
「教えて頂き、ありがとうござます」
それだけ言い、帰ろうとするが「待てよ」とレアード先輩は私の腕を掴んだ。
「今夜こそ、付き合え」
この人はまた私を誘う。
「申し訳ありません。訓練で疲れたので失礼します」
「おい、もう何度目だ? 俺は先輩で、子爵家の長男だぞ。その俺が卑しい身分のお前を誘ってやっているんだ。それを断ることがどれだけ失礼か、分からないのか!?」
「分からないので教えて頂けますか?」
「なっ!?」
レアード先輩は顔を真っ赤にする。
「失礼しますね」
私はレアード先輩の先輩の手を振り解いて、立ち去ろうとする。
「おい待て!」
しかし、レアード先輩はしつこく私を呼び止めた。
「疲れるって言うなら訓練なんて適当にやれよ。どうせ、女はその内、結婚して騎士を止めるんだろ!? お前ももうすぐ23歳だったか? そろそろ騎士ごっこなんてやめたらどうだ?」
騎士ごっこ、だって?
「だったら、先輩は騎士ごっこをしている私に負けるぐらい弱いってことですよね?」
「あまり舐めたことを言っていると痛い目に遭わせるぞ?」
「別にいいですよ。試合でもしますか?」
私の言葉にレアード先輩はビクッとなった。
この人は別に優秀だったから、精鋭部隊にいるわけではない。
上流階級のコネ、という奴だろう。
レアード先輩だけじゃない。
ロキア王国の精鋭部隊の殆どは特権階級の貴族の子息たちだ。
その実態を知ったのは入隊した後だった。
初めから知っていれば、こんなところには来なかったのに!
これだけ反抗的な私がなんで左遷されないか察しはついている。
私を気に入ったレアード先輩が根回しをしているんだろう。
それにもうんざりしている。
いっそ、魔王軍との戦争の最前線『ガイエス城塞』へ飛ばしてもらいたい。
「今度こそ失礼しますね」
「おい、いつまで英雄なんて子供みたいなことを言っているんだ!? 少しは自分の人生を考えたら、どうだ!?」
レアード先輩の声を無視して私はその場から立ち去った。
でも、人生を考える、という言葉は頭に残った。
私はここで何をしているんだ?
苛立ちを飲み込めないまま、帰宅した。
「んっ?」
家のドアを開けると手紙が投げ込まれていた。
相手は……
「リスネか……」
リスネは士官学校時代に出来た数少ない友人だ。
私は友人からの久しぶりの手紙を読む。
『久しぶり。元気かしら? あなた、昔から良いことも悪いことも言わないから心配よ。私の方は結構忙しいわね。でも、楽しくやっているわよ。ほら、前に言ったギルドの階級制度の話があったでしょ? それが試験的に実施されるようになって一年が経つんだけど、ここ一年で冒険者の死傷率が大きく下がったから今度、本格的に階級制度が始まるのよ。ギルドマスターに感謝ね。私みたいな若輩者の意見を聞いてくれるなんて、良い人で助かったわ。ねぇ、今度、会えないかしら? もう、一年以上会っていないでしょ。あなたの近況も聞きたいしね。連絡を待っているわよ』
私は読み終えた手紙を机に放り投げた。
心がとてもざわつく。
焦りを感じる。
士官学校を卒業した時のことを思い出した。
「レイドアのギルド嬢だって? お前ならもっと良いところがあっただろ?」
と私は言った。
リスネは笑い、
「私は良いところを探したんじゃないのよ。自分のやりたいことが出来る場所を探したの」
と返した。
あの時は正直、リスネの言っていたことが分からなかった。
少し馬鹿にしていたかもしれない。
「でもあいつはやりたいことをやって、確実に前に進んでいる。それに比べて私はどうだ?」
何も成長した気がしない。
変わり映えのしない日々。
もう寝ようと思ったが、不安で寝れなかった。
だから、着替えて街に出る。
適当な酒場に入って酒を飲むことにした。
酒場に入り、雑音と酔いで少しは気持ちが紛れた気がする。
「主人、もっと強い酒はないのか?」
「あんた、ちょっと飲み過ぎじゃないのか? それにこんな時間まで女が一人で酒場にいると碌なことにならないぞ」
女……
「おい、女だから悪いのか!?」
私が怒鳴ると店の主人は驚いていた。
「急にどうしたんだい!? と、とにかく、うちじゃ、これ以上、酒は出せない。飲みたいなら、他に行ってくれ!」
店の主人は私を突き放した。
かなり酔いが回っている。
体を乗り出して、主人に喧嘩を売りそうになった時だった。
「ねーちゃん、そんなに飲みたいなら俺たちと良いところに行かないか? 酒だけじゃなくて、もっと良いモノもあるぜ」
ガラの悪い三人組の男に話しかけられた。
酒より良いモノ?
まさかクスリでもあるのだろうか?
酔っていても善悪の判断くらいは出来る。
よし決めた。
こいつらに付いて行こう。
そして、犯罪に関わっているようなら、その「良いところ」ってやつを滅茶苦茶にしてやろう。
「案内してくれ」
そう答えると三人の男たちは笑った。
私にも聞こえるくらいの声で
「おい、誰が一番にやる?」
「けっこういい女だぞ」
と言い始めた。
まぁ、誘われた時点でそんな気はしていた。
「おい、あんた、悪いことは言わないから付いて行くのは止めな」
酒場の店主が私を引き留める。
しかし、男たちに
「なんだ? 俺たちは了承し合っているんだ。口出しするんじゃねぇよ」
と凄まれると酒場の店主はそれ以上、何も言えなかった。
私は三人の男に連れられて、店を出て、彼らの言う「良いところ」へ向かった。
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