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 お父様は帝国の有力な公爵家の次男だった。公爵家の力と有能な人材を確保するための政略結婚だけど、夫婦仲はそれなりに良いと思う。お父様は何故か仕草が一々色っぽい腹g…知的な眼鏡男性だ。美男美女の両親を持って私は大変眼福です。皇族の血を引いていれば皇帝の座を手にしていたのではと噂される程に有能だったお父様は、決して女帝より前に出ようとしない。常に半歩下がって女帝を支えているけれど、転生者の私は知っている。お父様が駒として使えそうな貴族の弱みを握り、裏でこっそり女帝の手助けをしている事を。それ故についた渾名が『影の皇帝』。お父様の元に突撃して『貴族との穏便な関わり方を教えて欲しい』と頼めば、私と似た水色の双眸を細めて『漸く空気以外に友人を作る気になったんですね。良い事です』と褒められた。ぐへへ。


 そりゃ不審がるよね。でも『前世の記憶が甦りまして、推しを幸せにしたいので女帝になりたく候』なんて口にした日には私は気が触れたとして生涯幽閉の身だろう。それは困る。しかしまぁ、前世ではSNSで『生まれ変わったら水族館で飼育されてるペンギンになって働かずに飯を食いたい』とぼやいていた私が、皇女に転生とは…ひょっとして漫画のモニカが影薄いのって『私』が原因…?


 十歳で前世を思い出してからというもの、お父様に貴族と渡り合うための交渉術やらを学び、公務にも参加して夜会やお茶会に応じて今までしてこなかった社交に精を出して理解者を集める。これまでの振る舞いもあって最初は苦労したけど、徐々に味方と呼べる者達が増えていった。まぁそんな事すればいつかは姉たちに目を付けられるのは必然。それまで空気のような扱いをしてきた彼女達が、私の台頭に危機感を抱いたらしい。私を失脚させようとする動きが幾つか見られた。両親は私の変化も姉たちの行動も気付いているけれど、どうやら静観を決め込むようで何も言ってこない。…私達が女帝に相応しいか、見定められているんだろうなぁ。


 私は地盤をある程度固めると、後継者争いに名乗り出た。その合間にも色々取り組んだ。ルイたその肖像画は出回っていないらしくゲットできなかったので仕方なくイメージを画家に伝えて描かせたり、お針子にルイたそをデフォルメした小さなぬいぐるみを作らせたり、片手間に性根の歪んだ第三皇女を排除し、ルイたそをイメージした香水を作らせて寝室を推しの香りで満たしたり、お金大好きな第二皇女の横領の証拠をうっかり女帝に提出する書類に混ぜちゃったり、刺繍の練習と称して抱き枕にルイたそのイラストを刺繍したり、ついでに他者を痛めつけることに快感を覚える第一皇女を皇太女の座から引き摺り下ろしたり…そりゃあもう目が回るくらい忙しかった。


 しかし、女帝の直系血族を排除したからと言って、実は皇太女になれるわけじゃない。何故なら、『皇族の女性』は他にも居るからだ。


「第一と第二皇女を引き摺り下ろした所で、今のままじゃ『彼女達』に適わないわ。となれば、方法は一つ」


 女帝の二人の妹のうち一人は女帝のスペアとして結婚しても皇族のまま城で過ごしているし、もう一人はお父様の実家とは別の有力貴族に嫁いでいる。此方は継承権を放棄しているけれど、彼女の娘には継承権があるのだ。この二つの勢力を抑えるには、さらなる権力が要る。


「即ち──伴侶…!」


 記憶を取り戻した時よりも一段と豪華絢爛になった部屋で、格段に座り心地の良くなったソファーに腰掛けて、そう呟く。一番手っ取り早い方法が、政略結婚。この為に私は縁結びの神様みたいな事もやっていた。…皇族の血を入れたいだけなら、直系じゃ無くてもいいよね?お父様は帝国貴族家出身だし、他のめぼしい貴族の子息も未婚の皇族(または皇族の血を引く貴族)と婚約させた。何故って?


「そうすれば、国内外のバランスを考えて国外から結婚相手を探すと提案しても通りやすいからさぁあああ!あっはははははははぁ~~!」


 帝位を狙う皇女が他国の王子を婚約者に迎えたとすれば、その後ろ盾は一貴族家とその派閥程度では適うまい。…まぁ、『彼』の父親が後ろ盾としての役目を果たすなんて、これっぽっちも考えてませんけどね。はんっ!


「…中身がこれと知らなければ、俺は心からお相手の方に殿下を推薦したんですけどねぇ」


 私が座っているソファーの後ろに佇む短く整えた赤茶の髪にくすんだ緑の双眸の、まぁまぁイケメンの騎士が、ため息を吐き首を振りながら毒を吐く。


「ブライアン。貴方にはお世話になっているから、お礼に『最近愛しの君と婚約して気が緩んでいるみたい』って騎士団長に報告しておいたわ。後でお呼びがかかるんじゃ無い?」

「そっそんな!姫様ぁ~~!!」


 まんまと言い負かされたこいつはブライアン・ジョナス・ソーパー公爵子息。ソーパー公爵家の四男坊で、私の侍従兼護衛騎士。密かに私の従姉妹に片想いしている情報をゲットしたので、手段を選ばず婚約させてあげた。大丈夫ダイジョウブ、あの単純な従姉妹には彼の良いところをこれでもかと吹き込んで恋に恋する乙女状態にしといたから。後は自力でドーゾ。って告げたら、泣いて喜んで私の下僕になった。アドバイスありがとーお父様!


「…まぁ、細かい事は良いのよ。私にとって重要なのは、ルイたそを私のお嫁さんにすることなんだもの!今度隣国の王の誕生日のお祝いにお母様共々招待されているから、そこで一度接触を図るつもりよ」

「はいはい。はぁ…初恋に浮かれて彼方で盛大にやらかさないか、今から心配で堪りませんよ…」


 大げさな。私だって、この数年でだいぶ皇女としての振る舞いも板についてきた。いくら推しの住む国で推しと同じ空気を吸えるからって、はしゃぐわけないじゃない。


 この時の私は知る由も無かった。これがフラグだと言うことに。まさか会えると思っていなかった推しに出会ってしまい、色々口走って求婚してしまう事に。

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