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〈モニカ視点〉01

 大好きな兄がいる。常に周囲から悪意を向けられながらも、ただ微笑んで耐えていた我慢強い方。僕が遊びに行くといつも嬉しそうに迎えてくれた兄様は、成人と同時に即位したばかりの女帝の夫として、帝国に送られてしまった。


 だけど、大好きな兄はその一年半後に儚くなってしまった。死因は不明だなんて馬鹿げてる。人柱同然に婿入りさせられたとは言え、女帝の夫が亡くなったんだぞ。死因不明のままで済ませて良いはずがない。…絶対に裏がある。


 目の前が真っ黒に染まっていく。赦さない。兄を冷遇し他国へ追いやった父王も、それに倣った二番目の兄も、兄を殺した女帝も。絶対に赦さない。どれ程縋り付かれようと、赦してなどやるものか。全員苦しませてから地獄に落としてやる。


 手の中のリボンを見つめる。伝えられた死因が本当なら、このリボンに染みついた赤黒いシミはなんだ。丹念に織り上げた生地の解れはなんだ。


『兄様…お辛かったでしょう。いつもお優しかった兄様が、もうこの世にいないなんて……貴方を苦しめた者達を、僕は絶対に赦しません……っ!!』


 復讐する。貴方を死に追いやった全員を殺し尽くしてやる。


 ──僕には、大好きな兄がいた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「──いやっ!推しが薄幸のまま拷問好きな女帝の後宮に放り込まれて死ぬ未来なんて認めないんだから!!」


 ご機嫌よう。寝起きから元気よく絶叫した私はモニカ・フレドリカ・リリェフォッシュ。現代日本で善良な一国民だった筈が、気付けばこの異世界の帝国の四人の皇女の四番目に転生していました。問題は、その転生先なんだよね。


 ここは、私が日本で愛読していた漫画の世界らしい。主人公は山脈を挟んだ隣の王国の第三王子アンリ・マクシミリアン・ユメル。物語は彼の異母兄である第一王子ルイ・バルテレミー・ユメルが、成人した途端新たに即位した加虐趣味の女帝の婿として後宮に送られ、その一年半後に女帝に嬲り殺しにされた所から始まる。仲の良い兄弟だったルイが殺された事に憎悪を募らせたアンリは、生まれ持った精霊使いとしての能力を駆使してルイを殺した元凶とその関係者──実父と実兄含む──を殺して回る復讐譚。そして、即位した女帝の名が私の長姉と一致する。


「モニカも回想シーンで後ろ姿だけ出てたなぁ。気弱で政治活動にも消極的なモニカは、皇族の中でも特に存在感が薄くて…第一皇女によって他国に嫁に出されてフェードアウト、だっけ?」


 いや、別に女帝に何てなりたくないし、後継者争いしたいなら勝手にやっててって感じだけど、だからってその末路は納得いかない。それに何より。


「ルイたそは私の最推しキャラ!ルイたそがあの姉に殺されるなんて絶対に嫌よ!かくなる上は…推しを守る為に、私が…私が女帝になってやるわ!!」


 物語の冒頭で既に故人となっているルイたそは描かれることこそ少ないけれど、腰まで伸びた黒髪を十七歳の誕生日にアンリから贈られた色違いのリボンで束ね母親譲りの赤い瞳が目を引く儚げな貴公子として、女性ファンが多かった。ビジュアルに加え王が王太子時代に当時行儀見習いで王城で働いていた、子爵令嬢であったルイたその母親に戯れで手を出し妊娠させた事で始まった彼の日陰者としての人生。読者から同情されない筈がない。だからこそ私は推しを守り、推しを助け、推しを愛し、推しのために生きるのよ!


「それこそが、推しの居る世界に転生したオタクの使命!!やるぞぉーー!!!!」


 存在感が薄いと言えど皇族らしい豪華な部屋に、私の決意の雄叫びが木霊する。私は両手をぐっと握り締め、推しの住まう国がある方を見つめた。


「待っててねルイたそ。今は苦しいだろうけど、いつかきっと、私がルイたそを助け出してあげるから」


 しかし、私は漫画の通りこれまでまともな公務を熟してこなかった。後ろ盾も、資金も人材も、何もかもが足りない。そんな状態でルイたそを残酷な運命から助けるなんてできっこない。


「取りあえず、今は出来ることから始めよう。先ずは…モニカの立場を強化しないと」


 手始めに『影の皇帝』ことモニカ()のパパに愛想振りまいとこうかな~。力isパワー。モニカ知ってる。

2021.10.03 誤字脱字修正

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