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「ルイたそ…?うわぁ~~ルイたそだぁーー!肖像画でもぬいぐるみでも幻覚でも無い本物のルイたそだあああああああ!!会いたかったよお~ちょっと見ない間にナイスイケメンになってるぅ~~~!」

「ぅわっ」


 すっかり日も暮れた時間に入城した俺は、手早く湯浴みされ身なりを整えるととある部屋に通された。そこには、皇太女としての地位を確立し、装いも以前より華やかになった──より大人の女性らしくなったモニカが──誰かの胸倉を掴んでいた手を放し、俺に抱き付いた。咄嗟に抱き留める。柔らかい。良い匂いする。何の香水だろう。


「超待ってたの!ご飯は?道中で食べた?じゃあ明日の朝ご飯は一緒に食べよ!あっそうだ、私のお気に入りスポット紹介するから着いてきて!」

「えっちょ、モニカ…!!」


 ニコニコと満面の笑みで『皆もご苦労様~。明日はゆっくり休んでね~』と使者達に声を掛けながら、俺の手を握ってずんずん歩き出す。その手の薬指に、宝石の配置が俺と逆になった指輪が輝いていたのを見逃さなかった。ところで、モニカの後ろで真っ白に燃え尽きていた、壮年の男性はもしや…宰相なのでは?

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 超絶ご機嫌なモニカに連れられてやって来たのは、皇族が住まう区画に立つ硝子張りの建物。


「此処はね、私が産まれた時にお爺様から頂いた薔薇温室なの。忙しい時の息抜きとか、気分が沈んだ時とか…何かあると、よく此処に一人になりに来るんだ」

「そんな大事な場所に俺を連れてきて良かったの?」

「もちろん!」


 モニカが俺を振り返る動作に合わせて艶やかな桜色の髪が揺れる。躊躇いがちに尋ねた俺に彼女は変わらない明るい笑みを向けた。ああ、また心臓が撥ねた。


「大事な場所だから大事な人を連れてきたのよ。ルイ…貴方は知らないことだけど、私はずっと貴方が好きだったの。貴方が思うより、ずっとずっと前から…だから、強引に進めてしまった縁談だけど、来てくれてありがとう」


 モニカが感慨深げに瞳を揺らして俺を見つめた。


「その事実だけで、私は頑張って良かったって思える。これからも頑張ろうって思える」


 自分達しかいない温室という雰囲気に酔ったのかは分からない。けど、気付けば俺はモニカの手を力強く引いて、腕の中に華奢な身体を閉じ込めた。


「あ………」

「礼を言うのは俺だよ。君と出会う前の俺は、ただ息を潜めて全部やり過ごそうとするだけだった。気まぐれに母上に手を出したくせに、産まれた俺を疎ましがって遠ざけた陛下も。向けられる悪意も全部。王子という名札だけ与えられた無力な俺じゃ彼等には敵わないから」


 実の父によって碌な未来が用意されていないと気付いていながら、抵抗する権力も気力も無い俺はただ只管その時を待つばかりだった。


「…………」

「そんな諦めた俺に、君はただ眩しかった。同時に酷く羨ましくて、焦がれて…だから理不尽を撥ね除けようと思う。──だって」


 時々…じゃないな。割と頻繁に?良く分らない単語を書き連ねては周囲を巻き込んでいる君は、何時だってしっかりと前を向いていて。女帝を目指したのだって『俺を得るため』と言う正直それはどうかと思う理由だけど、国や民を想う心が本物である事も今はちゃんと知っている。だから。


 俺も、いい加減黙ってじっとしているのは止めようと思うのだ。君の隣に並ぶ為に。


「君が俺を欲する様に、俺も君が欲しい」


 緊張と期待に逸る気持ちを宥めながら、幼少期に自身が置かれている状況を理解して以来口にしなくなった本音を告げる。暫しじっと互いに見つめ合う。漸く俺の言った言葉を理解したのだろう。モニカの透明度の高い水色の双眸が見開かれて──頬を紅潮させながらそれは嬉しそうに笑った。胸に安堵が広がる。彼女の気持ちは知っていたが、それでも想いを告げて断られはしないか不安だった。


「如何しましょう。突然のイベントシーンに私、今、尊死しそう…っ。はっ!もしや、私が気付いていないだけで、此処って極楽浄土だったりします?え?これ、死んで見ている夢ですか?えっ尊い…好き」

「─────はぁ?」


 目を潤ませながら両手を胸の前で組んでうっとりしているモニカ。この期に及んでまだ世迷い言をのたまう君に、思わず目を眇める。そうかそうか、夢か。ふーん。…良いだろう、これが現実だと思い知らせてやる。


その夜。月だけが見守る薔薇の温室で、二つの人影が一つになったのだった。

ルイ視点はこれで終わり、次はモニカ視点になります。

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