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02

 あの後三日間に及ぶ祝賀会も無事終わり、女帝とモニカ皇女は帝国に帰国していった。帰国前に顔を合わせた時に、『先ずは文通からスタートしましょ!そしてルイたそが成人したらうちにおいで!』と言っていたが…それからの生活は、概ねいつも通りだった。時折テオフィルが憂さ晴らしに突撃してきて、俺への罵詈雑言を吐き散らし茶器やら花瓶やらを壊していくのも(王太子と違ってこっちは予算少ないから止めて欲しい)、アンリが精霊術を見せてくれて非常に天使だったのも、用があって王城を歩いているとすれ違う貴族達から嘲笑されるのも、俺にとっては何時ものことである。唯一違いは、五日に一度はモニカ皇女から手紙と贈り物が届くくらいか。隣国と言えど山脈を挟んでいる事から分るとおり、物理的な距離はかなり離れている。…いつも手紙を運んでくれるあの鷲大丈夫かな。そのうち過労死しそう。


 彼女からの手紙の内容は毎回何気無い日常やその時どう感じたか等と言った物で、例え誰かに見られても困らないだろうものだった。おそらく敢えてそうしているのだろうが。隠し通せる訳ないと覚悟していたけど、彼女は俺の置かれている環境を良くご存じのようだ。贈り物も日持ちする食べ物だったり真新しいシャツだったり包帯や消毒液だったり、色気のいの字も無いものばかりだ。大いに助かっている。そして、こんな時、俺は肩書きだけの王子である事が心底悔しいと感じる。彼女に与えられる物に対して、俺が返せるのはお礼の手紙くらいだ。たまにアンリが『それ妖精の体の一部or妖精の国で採取できるレア素材だよね?』って代物を無邪気にくれるので、それを贈るのだが。


「ルイ兄様!お誕生日おめでとうございます!これ、僕が作ったプレゼントです!」


 十七歳の誕生日に、王妃様譲りのふわふわした金髪を金糸で刺繍された微かに七色に輝く白いリボンで束ねた陛下譲りの紫色の瞳をキラキラさせたアンリが、俺に包みを差しだした。誕生日パーティー?有るわけ無いじゃん。


「毎年お祝いの言葉をありがとう、アンリ」


 裏表の無い真っ直ぐな祝福がくすぐったい。精霊使いだから無邪気で素直なのか、無邪気で素直な性格だから精霊に好かれるのか分らないが、アンリからの贈り物は大体精霊がらみだ。…さて、今年はどんなぶったまげた贈り物なんだろうか。包みを解くと、其処には『金糸で刺繍された微かに七色に輝く赤いリボン』が。弟とお揃いのリボンを見つめていると、アンリが笑顔で爆弾を投下した。


「これは…?」

「えへへ。精霊さんの羽の鱗粉を織り込んだ生地に、妖精女王ティターニアさんの髪で刺繍したんだよ!上手く縫えてるでしょ!?」

「───────(絶句している)」

「大好きなルイ兄様にとっておきの贈り物をしたいって言ったら、皆いっぱい助けてくれたんだ!」

「ア…アリ、ガ…トウ……」


 弟よ。これ、精霊も妖精も見えない聞こえない凡人が持って良い品じゃ無いよ…。何かヤバい加護かかってる気配するよ…。なんて内心顔を青くしていると、不意に羽音がして最近では日中は開けっ放しのテラスに一羽の鷲が止まった。見ると、その足に小さな箱と手紙が括り付けられている。アンリと共にテラスに出て、手紙と箱を外す。『大きい!格好いい!』と目をきらきらさせて鷲を見上げるアンリ。鷲は何処か得意げな顔をしている。その様子を微笑ましく横目で見てから、手紙を開封する。


『ルイたそへ。お誕生日おめでとうございます。ふと思ったんですが、ここはルイたそ推しの身としてルイたその誕生日は国全体をあげて祝祭を行うべきだと思うのです。後で宰相のおっさんに相談しますね。大丈夫です、私ならやれます。やれなくても部屋にルイたその祭壇があるんでそこでやります。話が逸れましたが、今年の誕生日プレゼントは大胆に装飾品にしてみました。来年でルイたそも成人だし、そういうのでもいいかなって。絶対似合います。オタクの誇りに賭けて断言します。なので毎日つけてくれると泣いて喜びます。私が。繰り返しますが、お誕生日おめでとう。貴方が産まれてきてくれた事に感謝します』

「───…ふっ……」


なんで部屋に祭壇があるんだとか、俺の誕生日如きに国を巻き込まないでとか、色々思うところはあるけれど。初対面の時から相も変わらずな彼女の調子に思わず笑みがこぼれた。何より、初めて亡き母とアンリ以外に存在を祝われた。心臓を中心にふわふわする様な感覚が全身に広がっていく。何だろう、このくすぐったい感覚は。良く分らないまま、贈り物だという小箱の包みを解いて蓋を開ける。其処には。


「──指輪?」


 思わず呟く。其処には、中央にパライバトルマリンがはめ込まれ両脇にはルビーが輝く上品なデザインの指輪がおさめられていた。大胆にって、そういう…確かに俺は来年成人だから、俺に求婚して来たモニカが勢い余って贈ってきても不思議じゃ無い。普通贈る側が逆だと思うけど。予想外の誕生日プレゼントに固まっていると、気付いたアンリが俺を見上げて嬉しそうに言った。


「ルイ兄様、最近とっても明るくなりました。今も楽しそうです。僕、ルイ兄様の事が大好きなモニカ義姉様の事も大好きです!」


 指摘されて気付いた事にはっと息を呑む。言われてみれば、日常で心が弾んだ事など久しくなかった。アンリが遊びに来た時も楽しいが、それとは何かが違う気がする。


 そうか、俺は楽しんでいるのか。彼女とのやり取りを。

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