表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオハル  作者: PeDaLu
8/9

【年越しの騒動】

「なぁ、今年の年末はどうするんだ?」

「ん?コミケの話か?」

「そう。また参加するのか?」

「いや、流石に。受験勉強あるでしょ。欲しいものは三条と忍に任せてあるよ」

「任せたのかよ。またあの行列に並ばせるとか鬼畜かよ。で、報酬はまた焼肉か?」

「そのつもりだったんだけど、なんか無償で良いって」

「まじか」

 その頃、忍は原稿に追われていた。まだ脱稿していないのだ。本来ならクリスマスには脱稿してるはずだったのに!三条がクリスマスデートなんかに誘うから!行った私も悪いんだけど!あーもう!終わるのかなこれ。三条に手伝ってもらうにしても何も出来ないだろうし、頒布するときはこき使ってやる!

「去年の今頃はコミックマーケットに並んでいたんだよなぁ」

 机に向かって勉強などやっているとそんなことを思い出す。悪い思い出じゃないし。楠原も今頃は受験勉強やってるのかな。そう思って電話をかけてみたら……。周りが騒がしい。


「お前、今どこにいるんだ?まさかコミケに行ってるのか?」

「そのまさかだよ!年末の一日くらい勉強サボっても問題ないだろ!やっぱり年末はこれじゃないと!」

「はぁ。感服するよ、その熱意。それじゃ、一つ頼まれてくれないか。お前の敬愛するへきる先生の新刊、ワンセット買ってきてくれ」

「了解した!」

 この調子じゃ、ちひろも連れていかれてるのだろうな。連絡をしたら不機嫌な返事が来そうだから止めておくか。それにしても、俺だけ何をしてるんだろうなぁ。Hazuki先生なら俺の愚痴に付き合ってくれるだろうか。

「あの、新刊二セットください!ってあれ!?なんで忍がいるんだ?それに三条まで」

「あ〜……」

 見つかっちゃったか。これはもう仕方がないな。今回は誰も来ないと思って本人ですTシャツ着てきちゃったし。

「今忙しいから、二時過ぎたらまた来てください!あと、新刊二部ね!三千円!」

 新刊におまけ本にクリアファイル、カレンダー。これで千五百円なら安い。いつもそんなことを考えながら買っていたけど、今年はそれどころじゃなかった。

「あのさ、手伝おうか?」

「え?ほんとですか?助かります!」

 ブース側に回って三条と一緒に釣り銭捌きやら何やらを手伝う。で、予想通り二時頃に完売した。

「で?どういうことなのか説明してくれるか?」

「どうもこうもないですよ。私がへきるで三条は私の彼氏。そういうことですよ」

 二度びっくりした。三条の件はなんとなく勘づいていたけども、へきる先生の件はまさに寝耳に水だ。言ってくれればいいのに。

「だって、先輩が私の大ファンとか言ってて恥ずかしいじゃないですか。三条の件も」

「そうか?言ってくれれば、夏の小説本だってもっとすり合わせとか出来たじゃないか」

「そうなんですけど……。なんにしてもリテイク一回は変わらなかったですよ?自分の原稿で忙しかったので」

「そかそか。いや〜しかし、あのへきる先生が忍だったなんてな〜」

「あ!他の人には内緒にしていて下さいよ!広まると色々と面倒なんで」

「分かってるって。でさ、もしよければ一枚スケブ頼んでもいいか?」

「だからこういうのが面倒になるからって言ってるのに……。まぁ、今回はいいですけど」

 そろそろ終わったかな?楠原にでも連絡してみるか。俺はスマホを片手に窓際に行って外を見ると、ちひろがこっちに向かって手を振っているのが見えた。

「なんだ?何か用事か?」

「ちょっとね。ここじゃなんだから駅前のカフェにでも行かない?」

 ラインじゃなくて直接あっての話。おそらくは希の話だろう。

「なんの話だと思う?」

「希の話だろ?」

「それもあるんだけど、ちょっと相談事があって」

 相談事とは。楠原についてのことだった。なんか楠原は付き合うまでがゴールみたいで付き合ってからそっけないという。なんてやつだ。それにしてもちひろがそんなことを俺に相談してくるなんて、それこそびっくりだけど。

「で、どうやったら本気で付き合ってくれるのかを相談、ってわけか。ちなみに、今日は連絡とったか?」

「連絡してみたんだけど、返事がなくて……」

「あー……なんとなく分かったぞ。ちひろ、お前まだ楠原の趣味についてなんか言ってるだろ」

「そりゃまぁ?あんまり好きじゃないし。そっちに気を取られるのは悔しいというかなんというか?」

「ヤキモチか」

「そんなんじゃ……少しある」

「そうか。これは心して聞いて欲しいんだが、あいつ、今コミケに行ってる。もしかしたら夢中になってて連絡返ってこないのかも知れないぞ」

「そうなの?はあ〜、なんかショックだわ〜。二次元に負けちゃうのか。私」

「そういうわけじゃないと思うけどな。あまり快く思ってないから表立って言わないようにしてるんじゃないのか?それにあいつのアイデンティティーはオタクであることだろ?俺から連絡とってみるか?」

「お願いできる?ここで待ってるからって」

「了解」

 俺が電話したら少し慌てた様子だったけど、すぐに行く、との返事だった。それをちひろに伝えてから俺は俺の本題に入った。

「希の件ってのはなんだ?」

「ああ、そっち。やっぱり気になるか。あのね、最近の希、やたらと誰かとラインやってるのよ。話しかけても上の空になることもあるくらいに。なんか心当たりある?」

「いや、何もない」

 何もなさすぎて。想像すらできない。あの希が頻繁にライン?俺と付き合ってる時ですら、頻繁にラインなんてやっていなかった。一緒にいる時間が長かったからっていうのもあるかも知れないけど、そんなに使うとは考えにくい。

「やっぱり誰か好きな人でもできたんじゃないのかな」

「や、それは……」

 それはない、と言いたかったが否定できる材料が何もない。かくいう俺もHazuki先生と頻繁にラインをやっているし。このことを希が知ったらなんて思うのか。

「そういえば、明日の初詣は一緒に行くか?」

「生徒会のやつ?そうね。楠原も生徒会の一員だし、一緒に行くわ。その時にちゃんと話してみようと思う。ありがとうね」

「ああ」

 あの希が頻繁に、か。このこと、Hazuki先生に聞いてみようかな。あの人、人の心を読むというか表現するのがすごく上手だから何かわかるかも知れない。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願います」

 毎年恒例の生徒会初詣。生徒会卒業メンバーも一緒だ。一応、希を俺もちひろも誘ってみたが、やってこなかった。ちひろの所には「やっぱり行けない」という返事が来たそうだ。俺のところには返事がなかったけど。にしても「やっぱり」か。一度は行くという話になっていたのだろうか。ちひろに聞いたけど、お茶を濁すような反応で有耶無耶にされてしまった。

 家に帰ってからちひろにラインで楠原と話はできたのか聞いてみたら、やっぱり自分の趣味を理解してくれないのは悲しいということだった。で、すぐには無理だけど、少しずつだけど理解するように頑張る、って答えたらしい。ちひろ、なんだかんだ言って楠原のこと、大事に思ってるのかも知れないな。最初はあんなに嫌がっていたのに。


『希、一通だけ返事をしてくれないか?俺と話すのはもう無理か?』


 これだけは聞きたかった。付き合う付き合わないの話ではない。友人として話もできないのは流石に気持ちが苦しい。流石に一通くらいは返事があると思ったのに、返事は結局来なかった。

 大学受験が終わって志望校に入学はできたけど、気持ちは晴れない。大学に合格したことを希に連絡しようとしたけど、あの一通が既読も付かなかったことが喉に骨が刺さったような感覚がして連絡が取ることができなかった。Hazuki先生とはこんなにもメッセージを送り合ってるのに。

 大学に入学した最初の夏、楠原たちはいつものメンツでコミケに参加するから、と声を掛けてくれたけど、そんな気にもなれずに抜け殻のような生活を送っていた。本当に自分はあいつがいないと何もできないんだな。

 冬、初詣。そしてまた春。希は大学に合格したのだろうか。ちひろに聞いてみたが、そういうのは自分で確認しなさい、と言われてしまった。


『Hazuki先生はどう思いますか?』

『まだ引きずってるの?流石にもう諦めた方がいいんじゃないかな』

『ですかね。もう一年になりますしね』

『でも、そこで引き下がったら一生後悔するかも知れないよ?』

『どっちなんですか』

『だって一生の話なんでしょ?』

『まぁそうなんですけど。一年前のメッセージに既読すら付かないんですよ?』

『直接会いに行った?』

『いえ。なんかそんな勇気がなくて』


「そういうところよ」


 後ろから声がする。懐かしい声だ。


『なんか今、懐かしい声を聞きました』

『私に言ってどうするのよ。ちゃんと本人に言ってあげなくちゃ』

『はい』


「どんなところだよ」


 振り向かずにそう言う。


「私に依存するところ」


『俺、どうしたらいいですかね』

『いい加減、自分で考えなさいね』


「俺は帰ってもいいのか?」

「どこに?」

「希のいる世界に」

「どっちの希?」

「こっちの希に決まってるだろ」


 振り向くと、そこには希が立っていた。いつもの黒髪が風で流れるのと抑えながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ