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アオハル  作者: PeDaLu
6/9

【海の騒動】

「夏!海!水着!高校最後の夏休みは受験勉強だけなんて悲しすぎる!一日でいいから海に行きたい!」

 楠原は力強く予備校の教室で叫ぶ。周りの目線が痛い。

「分かったからトーンは落としてな。確かに海には行きたいけども、俺たち二人で行くのか?まさかそれはないだろ?誰を誘うんだ?」

「ん?生徒会と図書委員会のメンバー?もしかしたら希も来るかもしれないぞ。この前のディズニーランドみたいに」

「いや、流石にそれはないでしょ。でもちひろと忍が居ればなんとなくの形にはなるな。男だけで行くのは勘弁だ」

「よし!そうと決まったら行動は素早くおこすべし!あ、そうそう、一応Hazuki先生も誘ってみればどうだ?」

「いや、流石にそれは……」

 ネットだけのやりとりと約束してるし、そもそもあったことのない人とと水着で海とかハードルが高いでしょ。と、思いながらも誘ってみたけど、やっぱりお断りの連絡がきた。当たり前か。

「だからなんで楠原は私にまとわりついてくるのよ」

「だって好きなんだも〜ん」

 懲りないやつだ。楠原は相変わらずちひろにべったりだ。三条はこういうのが初めてなのか緊張している様子だった。忍もなんかソワソワしている。

「会長、この水着、どうですかね?」

「ん?ああ、可愛いと思うぞ。デザインセンスあるなぁ」

「そうですか?えへへ……」

 忍が自分の水着について感想を求めてきた。なんでも自分でデザインしたものらしい。そういうのを作ってくれるところがあるようで。

「お。そういえばちひろも可愛いと思うぞ。なぁ、楠原……は聞くまでもないか」

 すでに拝んでいる。それを気持ち悪がって水着をパーカーで隠しているちひろ。まぁ、普通の反応だよな。流石にあれは俺から見てもどうかと思うほどだ。

「希先輩、来ませんでしたね」

「ああ。流石に来ないだろうと思ってたよ」

 正直、この前のディズニーランドみたいにひょっこり来てくれたりしないかと期待していなかったといえば嘘になる。そんな時、一人の女の子がしつこくナンパされているのを目撃した。後ろ姿で希だと一眼で分かった。

「あの。そいつ、俺たちの連れなんで。ごめんなさい」

 一人で行くのはなんか怖かったのと、気まずいのとが入り混じって、全員で助けに入った。

「あ。そうなんだ。ごめんねー、無理に誘っちゃって」

 案外すぐに引き下がって良かった。それよりもなんで希がここに。

「あの……さ、来てくれたんだ」

「そういうわけじゃなくて……」

「?」

 じゃあ、どういうわけでここに来たっていうんだ?ディズニーランドの時もそうだったけども、希の行動は不思議が多い。

「希先輩、来てくれたんですね。やっぱりあれですか?会長が気になってるんですか?」

「だからそういうんじゃ……」

「隠さなくてもいいですよ。私は何も言いませんから」

 この前の時ははぐらかされたけど、今回はちゃんと聞いて見ようと忍は思っていた。きっと何かある。

「会長、今回は話しかけないでとかキツい言葉はなかったんですか?」

「今回はなかったな。でも話しかけても帰ってくる言葉が少なくて会話にならないな」

「そうなんですか。それはそうと楠原先輩、どうにかしたほうがいいんじゃないですか?」


 さっきから、というか、待合わせの段階からちひろにべったりだ。ちひろは呆れ果てて適当にあしらってるけど、そろそろ本格的に嫌われそうだ。そう言ってやめさせようとしたが、今回が最後のチャンスだ、と言ってやめそうにない。

「ちひろ、嫌なら嫌ってはっきりと言ってあげたほうがいいぞ……」

「ん……」

 目を逸らして返事をしてくる。まさか満更でもないのか?楠原に少しでも気があるのか?楠原の努力は無駄じゃなかったのか?この反応は俺も少し期待してしまう。

 夕方になっても、チャンスを伺ってはちひろに言い寄ってる楠原。なんか話を聞いてもらっているようだ。きちんと断りを入れられているのだろうか。それとも……。


「治樹〜。ちひろがさぁ!友達からならオーケーって言ってくれたんだよぉ!」

「マジで?」

「マジで!努力はいつか実るものなんだよ!」

 握り拳を作りながら天を仰ぐ楠原。俺もこれくらいに積極的になれば希が再び……は、ないな。強くいえば言うほどに『依存してる』って言われるだろうしな。

 一人、海に沈む夕日に向かって大きなため息をついたところで、後ろから忍に声をかけられた。

「先輩が何を考えているのか当ててあげましょうか」

「わかるか?」

「わかりますよ。当然。希先輩のことですよね」

「ああ。あいつ、本当に何を考えてるのか分からなくてな。忍はどう思う?」

「私ですか?うーん……そうですね。なんの脈もないってわけじゃないと思ってます。じゃないと今回も来たりしないと思いますし。今回は話、出来たんですよね?」

「まぁ、な。会話にはならなかったけど。頷く程度の反応はあった」

「そうですか。なんか恋愛って難しいですね」

「そうだな」

 静かに打ち寄せる波の音が俺の心に平穏を与えてくる。

「会長、会長、ちょっといいっすか!」

 帰り道で三条が声をかけてきた。周りを見回してから、自分しか聞いていないのを確認してから小声でこう言ってきた。

「あの、笹原さんに告白したいんですけど、手伝ってもらえませんか?」

「はぁ?忍に?なんでまた急に」

「急じゃないんですよ。笹原さんとは中学からずっと一緒で。ずっと好きだったんすよ!で、今回がいいタイミングかと思って。最後の駅に降りるのって会長と笹原さんと自分じゃないですか?ちょっと時間を取ってもらいたいんですよ」

「まぁ、構わんが。成功するのかどうかは知らんぞ」

「そこは自分が頑張るっす!」

 うちの生徒会は積極的なメンツが多いな。ちひろと楠原もなんかいい感じになってきたらしいし、ここで忍と三条が引っ付いたら一人だけになってしまうな。

「なぁ、帰りにちょっとコンビニに寄っていかないか。トイレに行きたくてな」


 俺はそう言ってコンビニに寄って行って一人トイレに向かった。コンビニの外では三条と忍の二人きりだ。うまく行くといいんだがな。トイレから出てきたらまだ言えてないみたいで。このまま出ていってもいいのか様子を伺っていたら忍と目が合ってしまった。これは出ていかないと怪しまれるな。そう思ってコンビニから出ていったら、忍からこんなことを言われた。

「これって会長が場を作ったって感じですか?」

「ん?」

 三条に目配せを送る。仕方がないと言った感じで軽く頷かれたので、そうだ、と返事をした。

「いいですよ」

「何がだ?」

「告白です。三条君、私のことが好きなんでしょ?それでこんなことしたんでしょ?だからいいですよ、って」

 なんか投げやりだな。こんな返事ってあるのか?何かの当て付けのような感じもするけど、成功したってことでいいのか?

「三条、良かったな」

「うっす!」

「それじゃ、俺は先に帰るから、あとは二人で」

 これで生徒会で一人なのは俺だけか。俺も誰か……って希以外には考えられない。でも肝心の希があの反応じゃな……。

「会長のばか……」

「え?なんか言ったっすか?」

「別に。で?私と付き合って何をするの?」

「え?分かんないっす。彼女が出来たのって初めてなんで。何をするんですかね」

「私に聞かれても」

 深いため息をつく。会長は私のことなんて何にも思っていないのは分かっていたけど、これはクるなぁ。三条君と付き合えば会長のこと、忘れられるのかなぁ。本当に忘れられるのかなぁ。なんか涙が出てきた。

「え?え?どうしたんすか?俺、何かしちゃいましたか?」

「なんでもないの。ちょっと今日はこれで」


 家に帰ってからもお風呂の中で考える。会長は希先輩のことで頭が一杯なんだろうな。どうやったらこっちを向いてくれるんだろう。三条君には悪いけど、こうやって他人のものになったら少しはヤキモチ焼いてくれるのかなぁ。

「希、ちょっといいか」

 さっきのコンビニでの出来事を一つ前の駅で降りた希に話したくてメッセージを送ってみた。当然のように返事は帰ってこない。でもこの気持ち、誰かに話したくてたまらない。Hazukiさんなら答えてくれるかな。

「それで告白、受け入れたんですか?」

「ああ。なんか変な感じがしたけど、オーケー出してた」

「それって忍さんっていう人が三瀬さんのことが好きだったんじゃないですか?

「まさか。それはないと思う」

「なんでですか?」

「経験というか?なんだかんだで忍って自分にきつく当たってくることが多いんだよ」

「好きの裏返しなんじゃないですか?」

「Hazukiさんは俺と忍が付き合えばいいのにって思ってる?」

「うーん。実際に見てるわけじゃないけど、話を聞く限りではそうなんじゃないかなって」

 Hazukiさんは、しきりに自分と忍を引っ付けたがっているように思える。まるで、こちらのことが分かっているかのように。

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