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アオハル  作者: PeDaLu
2/9

【年始の騒動】

 年末の一大イベントが終了して、慌ただしい年末。俺は家族でテレビの年末特番を見ながらみかんを食べる。

「そういえば、今年は希ちゃんと一緒じゃ無くてもいいの?」

「だからさ。そういうのはもう卒業したの。いいじゃないか。こうして家族年越しで」

「治樹がそういうのなら母さんは別にいいんだけど。希ちゃんが寂しがってるんじゃないの?」

 父さんは何かを察しているのか、何も言わない。母さんは希の母親から何も聞いていないのかな?聞かれていたらそれはそれで恥ずかしいものがあるが。

『今年も年始は生徒会メンバーで初詣でいいのか?』

 生徒会のグループメッセージで念の為確認をとる。毎年初詣は例年生徒会のメンバーで近所の神社に行くことになっているらしい。俺たちもその慣例に従って初詣となったわけだが。三十一日に良いお年を、なんて別れてから時間後に明けましておめでとうございます、だもんな。挨拶がなければいつもの学校と変わらない。昨日の夜から降り積もった雪で一面の銀世界になっていたこと以外は。神社の鳥居の元での待ち合わせ場所一番乗りは俺だった。というより、わざと早く来た。もしかしたら希が来るかも知れないと思ったからだ。あの一件以来、ほとんど口をきいていない。新年の挨拶くらいはしたいじゃないか。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。任期は後少しだけど」

「そうね、もうすぐ新入生入ってくるし、生徒会のメンバーも入れ替わるしね。私はオタク君と離れることができてせいせいするわ」

「だからなんでちひろちゃんは俺に冷たいの。この前のコミケでオタクに対しての偏見、見直したんじゃないの?」

「人間的な部分?あんたはダメなのよ。ねぇ忍」

「ん?ええ、そうかもね。コミケに参加するなんてねぇ。私には信じられないことかな」

「そういえば、お前だけ来なかったもんな。何か用事でもあったのか?」

「ん。ちょっと実家の大掃除があって」

 初詣は、生徒会長の俺、副会長のちひろ、会計の楠原、書記の笹原の全員が揃った。こうして年始から全員が揃うのはなんだかんだ言って生徒会の面々は仲が良いと思う。こういう生徒会にできて生徒会長の俺は鼻が高い。などと自画自賛している時だった。

「希?」

 人混みの中に希を見たような気がした。メンバーからはまた幻覚かよ、と重症患者を見るような目で見られたけども、あれは確実に希だった。神様へのお願い事はもちろん希との復縁。やはりなんだかんだ言って忘れられないのだ。『私に依存しすぎているから』、その通りかも知れない。でも俺は……。

 初詣から帰ってきても考えるのは希のことばかり。メッセージを送ってみようとさっきから文章を作っては消してを繰り返している。未練がましいとは思うが、仕方がない。何年も一緒にいたのだ。突然いなくなってしまって未練を持たないままの方が難しいというものだ。悩んだ挙句にメッセージを送ったのに返信どころか既読もつくことはなく。

「なんだかなぁ。本当に依存してしまっているなぁ。楠原にでも連絡してみるか」

 本来なら高校二年生の冬休みだ。受験勉強をするのが順当だが、そんな気にもならない。楠原に連絡してどこかに行こうか。


「はぁ?ちひろに告白したい?」

 駅前のカフェで折り入った話があるからと言われて来てみれば。

「ああ、手伝ってくれ。あの冷たい感じがたまらないんだよ」

 何を言ってるんだこいつは。

「お前、マゾなのか?散々嫌われてるじゃんか。無理だと思うぞ」

「言ってみないと分からないだろ。ツンデレ属性あるかも知れないだろ」

「お前、好きものだなぁ。まぁ、いいけど。何をすんのさ」

「呼び出してくれればそれでいい。そこからは俺が頑張るさ。ってか、呼び出すのが最大のハードルだからな。俺が頼んでも絶対に来ないだろ』

 俺はちひろにメッセージを送ってちひろをカフェに呼び出した。勉強中なのにとか散々文句は言われたけども。

「なんっで、楠原がいるのよ」

 半ば無理矢理呼び出した上に楠原がいる。それだけでちひろの機嫌が悪いのはわかった。ってかそうなるよなぁ。

「楠原の頼みで呼んだからな。なんか話があるらしいぞ」

「ふっふっふ。よくきたなちひろ。よく聞け!俺はお前が好きだ。ふっ……言ってやったぜ」

「は?な、ななな何言ってんの!?私があんたを嫌いなの知ってるでしょ!?」

「言ってみないと分からないだろ?言わないと後悔するからな。俺は男だ」

 こんな真面目な楠原は初めて見る。が、どう見ても分が悪い。

「じょ、冗談じゃないわよ。お断り!」

「そんなぁ……」

「だから言ったじゃんかよ。無理だって」

「用事はそれだけ?じゃ、私は帰るわよ。来て損したわ」

「はぁ……」

 ものの見事に玉砕。見ていて清々しいまである。しかし、楠原はまだ諦めないらしい。悪あがきにも程があるぞ。なんて考えながら、自分が希を追いかけ続けていることを思い出して人のことは言えないな、と心で思う。

 帰り道に無意識に希の家の前を通る。幼馴染だ、家も近い。決して会いに来た訳じゃない、そういい聞かせて通り過ぎる。

「治樹のやつ……」

 窓際から希は家の前を歩く治樹を見ながらさっき届いたメッセージを見る。ここで返事をしたら突き放した意味がない。治樹はいつまで経っても私のところから飛び立てない。


「なぁ、冬休みって短すぎるとは思わないか?」

「勉強したのか?来年受験だろ」

 俺たち二年生は来年から本格的な受験勉強に入る。俺もそうだが、ちひろも楠原も二年生だ。例外なく受験はやってくる。

「なぁ、ちひろぉ」

 机に突っ伏しながら楠原がちひろに懇願するような声を出す。

「何よ。告白ならこの前、断ったでしょ」

「あー。なんで分かるんだよぉ」

「あんた最近、それしか言わないじゃない。そんなことよりも、新入生歓迎会とか生徒会選挙の準備とかやることが沢山あるでしょ。嫌よ年始から残業めいた活動は」

 受験勉強があるっていうのに、あのカフェでの一件以降、ことあるごとに楠原はちひろに告白している。その度に冷たくあしらわれているが、あきらめる様子がない。本当にマゾ特性でもあるんじゃないのか。

「大丈夫。次はバレンタインがある!」

 握り拳を作って自信満々に宣言する楠原。その自信はどこからやってくるのか。

「バレンタインって女子が男子に告白する日だろ。絶対にありえないでしょ」

「義理チョコをもらえれば俺の勝利だ!」

 義理でいいのか。あ、あれか。きっかけがあればなんでもいいのか。前向きだなぁ。俺は希から義理でも貰えるのだろうか。いや、無理だろうな。考えるのはよそう。


「はー。この機会に生徒会長にうまく渡せればいいんだけど」

 笹原は密かに思いを寄せる会長に手作りチョコを作るのに励んでいた。問題はどのタイミングで渡すのか、だけど……。と、そのタイミングはすぐにやってきた。生徒会室に早めに行ったら生徒会長が一人で……?

「あの。これ!受け取ってください!」

「ああ、悪いんだけど……」

「いいですから!受け取ってくれるだけでいいですから!お願いします!」

 生徒会室の中で会長に告白する女の子が一人、その子が出て行った後の生徒会室は会長ただ一人。最高のチャンスだ。このチャンスを逃せばあとはない!何気なく生徒会室に入って一言。

「あれ?会長、一人ですか?」

「ん?ああ。そうだな」

 さっきの告白が見られたと思ってなんだが恥ずかしい。

「会長、これ」

「ん?チョコか?」

「はい!そうです!べ、別に特別に作ってきたものじゃないから!私も一応女の子ですから?手作りすることだってあるんですよ?」

「そうか。サンキューな」

 あー。何やってるんだろう私!このチャンスを逃したら!!

「あの、会長?」

「なんだ?」

「そのチョコなんですけど……ほ……お、お酒が少し入ってますんで!」

 何言ってんの私〜!

「あー。忍ちゃん、会長に告白?お邪魔だった?」

「そんなことないです!義理です義理!義理でもなんか恥ずかしいじゃないですか!そんな感じです!」

「そう?じゃ、私からも会長に義理チョコ。買ってきたものだから期待していいわよ。絶対に美味しいから」

「そうだな。って、忍のチョコレートは手作りだって言ってるのに」

「え?そうなの?なんかごめんなさい。手作りが美味しくないって言ってる訳じゃなくて……」

「わかってるから!大丈夫だから!」

 全然大丈夫じゃない!本当に美味しくなかったらどうしよう。それこそ会長に嫌われちゃったらどうしよう。どうしようどうしよう……!

「お。我が生徒会でもバレンタインイベントですか?俺にもあるんでしょ?早く早く」

 楠原が楽しそうに生徒会室に入ってくる。ちひろが買ってきたと言っていたチョコレートを袋から一粒だけ出して楠原に手渡す。

「お、おー!ちひろちゃんからのバレンタインチョコレート!ありがとう!愛の告白、受け取ったよ!」

「何が愛の告白よ。かんっぜんに義理でしょそれ。そうそう、忍ちゃんのチョコレートは手作りらしいから心して食べなさいよ」

「おおおお。手作りチョコレート!人生初めてだ!ありがとう忍ちゃん!ところで、治樹は何個もらったんだ?」

「あ〜、何個だったかな」

「数も数えてないのかよ。いいご身分だな。で、肝心の希からは貰えたのか?」

「いや。それはないな。会ってもいない。それに期待してないよ。元から」

 本当は貰いたかった。それに執着している訳じゃなかったが、義理チョコくらいは貰えると思っていたんだけれど。それもなかった。家に帰ってからも、もしかしたら呼び鈴がなるのかも知れないとか、近くの公園に呼び出されるのではないかとかメッセージを気にしていたけど、一向にそんなことは無く。虚しくバレンタインは過ぎて行った。

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