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アオハル  作者: PeDaLu
1/9

【年の瀬の騒動】

「別れましょう」


 生徒会長にも就任し順風満帆な高校生活を送っていた俺は崖から突き落とされた感覚だ。

 相手は幼稚園からの幼なじみ、相原希あいはらのぞみ


「何で急にそんな……」


 驚き慌てふためいているのは俺、三瀬治樹みせはるき


「あなた、私に依存しすぎているでしょ。だからそういうのはよくないと思って。いつまで経っても大人になれないでしょ?」


 中学から高校に入るときの試験は主席、皆が羨む美人の年下幼なじみの彼女。約束された高校生活は脆くも崩れ去った。



【年の瀬の騒動】


「治樹!治樹!おい、聞いてるのか!?」

「ん?ああ、悪い。聞いてなかった。なんだ?」

「なんだはねぇだろ、まったく。まだ引きずってんのか?相原のこと」

「そういうんじゃないけどさ」

「じゃあ、なんで彼女つくらないんだよ。おまえ、モテるだろ?」

「そうなのか?自覚はないが」

「かーっ!ムカつくな。そういうの。昨日で何人目だ?告白してきたの」

「三人、だったかな?」

「死ね。おまえは今すぐに死ね。全男子の敵だ。成績が常にトップで生徒会長ときたもんだ。それでモテるとか敵以外の何者でもねぇ!」


 アニメのような広大な生徒会室なんて存在しない。普通の部活動で使う広さの生徒会室で癇癪を起こしているのは、同級生の会計、楠原洋介くすはらようすけ。二次元にハマってる、いわゆるオタクだ。春に希から別れを告げられた時に、自分と同じ沈んだ匂いを感じ取ったのか、いつの間にか親友と呼べるまでになったオタクだ。

「あー!っっさいな!こっちはクリスマスイヴだってのに年末まで仕事を溜め込んだあんたたちの尻拭いしてるんでしょうが!ま・じ・め・に!やんなさいよ!」

 書記がキレた。こいつは書記の笹原忍ささはらしのぶ。女子の中では成績がトップの才女だ。一年生だというのに生徒会に入って書記を勤めている。

「わかったわかった。仕事をちゃんとやるからそうキーキー言うなよ」

「キーキーってによ!ムキーッ!ちひろ先輩もなんとか言ってくださいよ!」

「会長。本当に終わらなくなるからちゃんと仕事してください。あと、楠原は黙って手を動かせ」

「ああん。ちひろちゃんいつも俺に厳しい」

「だからオタクは嫌いだって言ってるでしょ!早く仕事!」

 千国ちひろ。我が生徒会の副会長。なぜだかオタクを敵視している。故に楠原に対していつも厳しい。

 そう。今日は12月24日、クリスマスイヴだ。時間はもう17時を過ぎている。最終下校時刻まで一時間だ。仕事はまだ終わっていない。このままでは明日のクリスマスまで学校に来て仕事ということになる。今夜はクリスマスイヴだってのになんの予定もない。今までは希と一緒だったんだが。なんとか仕事を終わらせて下校するが、このまま家路に着くのは何か悲しいものがある。なので会長権限でファミレスに寄って帰ることを提案したわけで。

「会長のお願いだから来たけどもやっぱり楠原と一緒のクリスマスとかあり得ないわ」

「だからちひろちゃん、俺になんでそんなに厳しいの」

「千国先輩、オタクが嫌いって前から言ってるじゃないですか。まずはそのスマホの壁紙、変えた方がいいですよ」

「なんでだ!これは俺の神が描いた絵だ。女子がアイドルの写真を壁紙にしているのと同じだ!」

「まぁまぁ、折角のクリスマスなんだから、そういうのは無しで行こうよ。ほら、ケーキも来たし」

 クリスマスにファミレスのケーキは味気ないけども、なにもないよりは。男だけよりは。去年は希と……。まぁそんなことを言っても仕方のないことなんだけれど。

「そういえば、会長と千国と笹原は年末に何か用事はあるか?ちょっと頼みがあるんだけど」

 唐突に楠原が頼み事をしてきた。俺へのクリスマスプレゼントかと思ってなんとか頼むとか、執拗に頼まれたもんだからついOKしてしまったのが運の尽き。


「うー、さっむい。なんでこんなことしてるのかしら!?しかも、なんで楠原のお手伝いな訳?」

「頼みを受けたのはちひろだろ?仕方ないだろ。俺も受けて少し後悔しているところだ」

 楠原のお願いとは年末のコミックマーケット。目的のものがたくさんあるから一緒に並んで買ってきて欲しいというものだった。福袋の行列みたいなものだと聞いていたのに、福袋どころじゃない。何人いるんだ。それにみんな黒いのは何故なんだ。聞けば三日間で五十万人も訪れるというオタクの祭典だそうな。アニメ柄の毛布みたいなものを羽織ったやつとか居て、ちひろにとっては最も厳しい環境な気がするけど大丈夫なのか。まぁ、文句は言ってるが大人しく並んでるところが副生徒会長ってところか。

「お。列が動いたぞ」

 スタッフが列を綺麗に捌いている。次々に逆三角の建物に吸い込まれるオタクの群れ。会場の中に入っても激しい人混みだ。なんでもこの人混みの熱気で会場の天井あたりに夏は雲ができることがあるなんて聞いた。冬は汗臭いのはないけど、みんな着込んでいて体積が増している分狭く感じる。

「それじゃ、俺はこっちのサークルに並んでくるから、そっちは、頼んだところ、よろしく!」

「よろしくって……地図を見てもどこがどうなってるのか分からんぞ。ちひろはわかるか?」

「なんとなくね。それにしてもなんなのこの人の数。これ全部オタクな訳?」

「まぁ、そうかもしれないけど、俺たちみたいに頼まれた不幸な人たちもいるかもしれないぞ」

「はぁ……まぁ、受けたものは仕方がないけれど。それじゃ、私はこっちみたいだから」

 ちひろは人混みをかき分けて頼まれたサークルの方に向かう途中に、小説を頒布しているサークルが目に入った。自身が本を読むものだからこういうのは気になって仕方がない。頼まれたサークルに並びに行くのは後回しでこっちの方を見てみよう。そう思って小説サークルを見て回る。

「へぇ、意外としっかりしてるのね」

 装丁もきちんと作ってる。七百円か。悪くない。どんな話なのかあらすじを裏表紙で確認して買ってみることにした。他にも何かあるのかしら?つい夢中になる。頼まれたサークルの買い物なんて忘れて。思い出して並びに行った時には既に完売してたけど。楠原に頼まれたことだし問題ないわね。一応、並んだのだし。なんて言い訳をしながら合流地点に向かう。

「あーもう。なんだってんだ。この最後尾札」

 頭の上で高々と掲げる最後尾を告げる札。目的のサークルが頒布しているセット品のお品書きが書いてある。すぐに代わります、と後ろに列が増えたので持っている時間は短かったが、なんか恥ずかしいものがあった。それにようやく先頭だ。と、そう思ったらそうではないらしい。ここで列を切ってまだ先に行列が続いているようだった。長い。ここまでくるのに一時間は列んだ気がする。ため息を抑えて列の先を見た時だった。

「はい!列が通りまーす!!手をあげてくださーい!」

 自分の列が動き出した。その時に人混みの向こうに見えたのは確かに希だった。後ろ姿でもわかる。希はこんな所になにをしに来ているのか。そんなことを考えていたら足が止まってしまった。

「はいそこ、もっと詰めてくださーい!」

 有無を言わさずに列は進む。整列の号令に気を取られているうちに希を見失ってしまった。

「はいこれ。これでいいんだろ?」

「おーこれこれ。サンキューな!で、ちひろは?」

「売り切れてた。でも私はこれを買えたから別にいいかな」

 そういって私は数冊の同人小説を見せた。まぁ、頼まれた同人誌の行列に並ばないで買ったものだったということは黙っていたけれど。そんなことよりも早くこれが読みたい。

「なぁ、さっき希を見かけた気がするんだけど、誰か見なかったか?」

「ああ?とうとう幻覚を見るようになったのか?いるわけないでしょこんな所に」

「でも案外、私みたいに小説でも漁りにきたのかもね。で、他に何かあるの?」

「いや。目的のものは手に入ったし、これで終了。でも折角きたんだから、面白いところあるから回ってみないか」

 連れてこられたのは、創作島というところだった。本の他にも色々と頒布している。来る途中にオタクっぽいもの以外の真面目な評論本なんかもあったりした。コミックマーケットっていうくらいだから漫画しかないと思っていたのに意外だった。

「はぁ……疲れた……で?お駄賃に晩御飯奢ってくれるのよね?」

「ああ。打ち上げだ。俺も早く帰って戦利品をみたいところだが、約束だからな。で!コミケの打ち上げといえば肉!肉なんだよ!焼肉とか奢っちゃうぞ!」

「まじか!」

 オタクはコミケにいくら使ってもいいと思っている人種のようで、楠原は俺たちに頼んだ本以外も買い漁って数万円使ったという。バイト代を注ぎ込んでるらしい。さらにこの焼肉。俺たちに頼んだ本は俺が買ってきた1冊だけだってのに太っ腹だ。

「なぁ、どうだった?コミケ。オタクの概念変わったか?ちひろ」

「まぁ、少しは。あの萌えたイラストはやっぱり生理的に受け付けなかったけども、こんな小説本とかもあってびっくりしたのは事実かしら?」

「ああ。小説島に行ってきたのか。あの島、独特の雰囲気があって手に取りにくいんだよな。よく買ってきたな」

「そう?本屋さんと一緒なんだから普通に手に取るでしょ」

「喜ばれなかったか?」

「あー、それはあったかな。ありがとうございます!って力のこもったお礼を言われた気がする」

「自分の創作物が売れた時は感動するもんだぞ。俺が買っているような大手のサークル主もコミケが終わった後にエゴサして自分の創作物を買ってくれた人を探すほどだからな。俺も何か作ってみたいものだなぁ」

「誰が作るんだよ。誰も漫画もイラストも描けないだろ」

「まぁ、そうなんだが。でもあのテーブルの向こう側でコミケに参加してみたいのだよ。分からんか?その気持ち」

 少しは分かる気がした。自分が作ったものに共感を持ってくれる人。あの数万人の中にそんな人がいたら人生が変わるかも知れない。

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