2話
つい、気になって奴隷商会アーチへ足を向けてしまった。
覗いてみると、やっぱり……。
人の生活できる環境ではない。床に錆びた小さい檻が並んでおり、その中に奴隷の獣人たちが縮こまって座っている。檻のサイズがどう考えても小さすぎるし、衛生面も気になるところだ。
「オイ、お前!!なんだその反抗的な目はよぉ!!!!」
ドゴォッ
先ほど見た、獣人の彼が殴られて吹き飛ばされるところだった。
隣に小さな獣人の子がいる。奴隷商人の続ける罵声を聞く限り、小さな獣人の子を庇って殴られたようだった。
あぁ、どうしようか……。人が生きていく中で、貧困の差があるのは仕方ない。みんな平等に幸せ、なんて夢物語の中だけなことくらいは聖女としてずっと、ずっと国を回っている中で理解した。
普通の人間に入れ込むのも、良くないってわかっている。
でも、楽しく生きているようで、どこか諦めて生きていた私には、周りを引っ張って必死に生きている彼が眩しく見えた。
そんな彼をここから掬い上げるのは悪いことだろうか、?
私の聖女の使命と、彼の人生は別物。
若い娘では、取り合ってもらえないな。でも姿を変えている時間はない。今、行きたい。
「ちょっといいかしら?」
「あ?ぁあ、お客さま!ってお嬢ちゃんじゃないか。冷やかしはお断りだよ。ここは奴隷商、高額な買い物しかできないよ。」
「客よ。その、奴隷を買いたいのだけれど。」
殴り飛ばされて、倒れ込んでいる彼を指さす。
「はぁ、お嬢ちゃん。こいつはね、見目が良いからとっても高額なんだよ。とーってもね。」
見目が良いといいながら、殴り倒しているではないか。
……なるほど、顔は避けているのか。
「これだけあれば足りるのかしら。」
懐から出した金貨の袋を、近くにあったテーブルに置く。
今はか弱い娘の腕なので、重くて持ってられないもので。
訝しげに寄ってきた奴隷商人が、袋を開けて金貨を確認するや否や、みるみる顔色が変わっていった。
「った、大変申し訳ございません!お客様!!!!!あまりにお若いお客様でしたので……!!!」
ごますりに態度が変わったことで、さっさと話を進められるだろう。
「それで、彼を買わせてほしいのだけれど。」
「も、勿論でございます!!お客様!!そ、それでこの金貨は、その、全てお支払いで……?」
「いくらかわからなかったから、見合うだけの金貨を出したつもりよ。足りなくて?」
ここで多めに渡しておけば、とりあえず今日中は上機嫌だから、彼以外の奴隷に手を上げるようなことは無いだろう。
「流石審美眼をお持ちでございますねお客様!!!!いやもう、この金額くらいでちょうど売り出しておりまして!」
嘘ばかりね。彼以外の檻についている値札は、今渡した金貨の1/3だ。
彼の檻がどれかわからないけれど、貰えるものは貰っておく、ちゃんと商売人だな。
「もう連れて行っていいかしら?」
「あっお客様、服従の印などは押さなくてもよろしいのでしょうか?」
「こう見えて魔法が使えるの。要らなくてよ。」
彼のもとへ歩いていく。
近くで見ると、より酷いな。怪我だらけだし、瘦せすぎているし、さっき殴られたので意識が朦朧としているようだった。歩くのは無理、か……。
彼を背負ってお店を出る。若い娘の体には厳しいよ……。
でも浮かせて目立つのも嫌だし、当たり障りないのがおんぶなんだよね。
後ろから奴隷商人のごますりボイスが聞こえてくる。
「ありがとうございましたーーー!!!!またのお越しをー!!!!」
目立つのが嫌なの、本当にやめてほしい。