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令嬢妹子と執事塚井の(色んな意味で)始まる前から証明終了   作者: ウイ九衛門
certification1 amy ここは執事喫茶ではない
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conclusion:ここは執事喫茶ではない

「ううむ……見つからないな。」


捜査にあたっている刑事は、首を傾げる。

道尾妹子の、社会勉強と称した執事喫茶訪問にて。


この執事喫茶の経営者・江手リリカの接待をしていた執事・ムラサメが急に倒れる。


幸い、命に別状はなさそうだと言う。


鑑識の話では、被害者は水をいくらか飲んだ後コップを置き、またコップを取り水を飲んで倒れたことから、犯人は被害者の飲みかけの水に毒を入れたと考えた。


しかし、毒薬の類は関係者全員に身体検査しても見つからない。


もちろん、荷物検査をしても。


ムラサメが倒れた瞬間に店にいた者はその場を動かぬよう指示されたために、毒を捨てに行く機会はなかったはずである。


「毒を仕込める人物は、被害者が接待していたあなたということになりますが。」

「わ、私を疑っているの!?」


リリカに疑いの目が向けられる。

確かに、彼女以外に毒を仕込める者はいなさそうだが。


ならば、どうやって毒を持ち込んだのか。

そして、どうやって捨てたのか。


「お嬢様、大変なことになってしまいましたね……」

「そうね……でも塚井。これは、チャンスじゃない?」

「え? チャンス、ですか?」

「そうよ。」


妹子は少し躊躇ってから、こう言う。


「よおし! これが悪魔の証明という悪魔の証明、承るわ!」

「いや、お嬢様! これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、承りましたでございます!」

「あ、そっか……」

「それにお嬢様……悪いことは言いませんので、どうかお止めください!」

「……えっ?」


今ひとつ決まらない妹子は、塚井の言葉に首をかしげる。


「お嬢様の悪魔の証明は……()()()()()()()始まる前から終了している気がします。」

「ああ、始まる前から……ってどういう意味よ!」


妹子は口を尖らせる。


「ですから、お嬢様に推理をされたら」

「ああもう! 更に説明しなくていいのよ! もう、何よ……せっかく、普段はむかついてる江手リリカの」

「え? お嬢様。」


塚井は妹子のいいかけた言葉に、おや、となる。

意外と、友達想いな所もあるらしい。


と、折角考えたのに。


「江手リリカの、犯人であることを証明したかったのに〜!」

「……はあ、お嬢様。」


塚井は目眩がする。

まさか、そんな風に思っていたとは。


我が主人ながら、なんと性格の悪い。

とは言え、状況的にはリリカの仕業と見なされても仕方がない。


ならば、どうやって毒を?


「うーん……ま、まさか!」

「……はい?」


妹子は、いかにも閃いたような表情をする。

塚井は、期待どころか嫌な予感がするのであまり明るい表情はしていない。


「じ、ジョニーさんよ! ジョニーさんがあのリリカと共謀して、さっきお手洗いに行ったふりをして毒を捨てに」

「……お嬢様、ジョニーさんはお手洗いに行きかけて止められました。やはり毒を捨てに行くチャンスはございません。」

「……うーん。」


言下に否定され、妹子はまた考え込む。


「うーん……ど、どうすれば」

「……はい、どうぞお嬢様。代わってくださいと。」

「……へ?」


突然、塚井は携帯を差し出す。

今時珍しい、俗に言うガラパゴス携帯――ガラケーである。


「誰から?」

「それは、お出になられてから。」

「……はいはい。」


妹子の問いに塚井は答えず、ただただガラケーを渡す。


「もしもし、道尾です。あなた一体」

「あ、遣隋使さんですか?」

「……え!?」


妹子は思わず素っ頓狂な声を上げた。


遣隋使さん――いかに彼女の名前が特殊だからといって、女性につけるには不適切としか言いようのないこのあだ名で彼女を呼ぶ人物は一人しかいない。


「け、遣隋使君! ……間違えた、九衛門君!」

「いや、それも間違っているんですけどね! 九衛大門(ここのえひろと)ですよ僕は。」


通称悪魔の証明者、九衛大門。

彼の活躍は、まあ本編をご覧あれ。


さておき。


「塚井さんから事情は聞きました。なるほど、毒殺ですか……」

「あ、ああでも安心して! 私が、これが悪魔ではないという悪魔の証明承っているから!」

「あ、いや遣隋使さん。これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、ですよ?」

「やだ! また間違えた〜!」


もはやグダグダな妹子もさておき。


「遣隋使さん、よく聞いてください? 毒を持っている人が誰もいないなら、おそらくターゲットに飲ませた瞬間に毒は、犯人の手元を離れたのだろうと思います。」

「ええ? だって、犯人は毒を捨てる暇なんか」

「ええ、捨てたんじゃあありません。そもそも犯人は、毒を持って来てコップに入れたんじゃないんですから。」

「毒を……? ターゲットに飲ませた瞬間に犯人の手元を離れた……? あっ!」


妹子は閃く。


「……それが悪魔だという悪魔の証明、終了したわ!」

「はい、それが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、終了しましたね。」


結局決まらない妹子であった。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「犯人が分かったというのは本当かね?」

「はい! まあ、犯人はそこの江手リリカで決まりですけどね!」

「な、何ですって!」


妹子の話に対し、リリカは抗議する。


「じゃ、じゃあ! 私がどうやって毒を処分したっていうのよ?」

「ちっ、ちっ、ち! 甘いなあ、江手リリカ! あなたは毒を処分する必要なんてなかったのよ。」

「な、何ですって?」


リリカは首をかしげる。


「そう、あなたは毒を持って来てコップに入れたんじゃない! ……毒の入ったコップごと、持ち込んだのよ!」

「なっ……!」

「……ほっ!」


リリカが虚を突かれた顔をする裏で塚井は、思わず文字通りほっとした声を出す。


やはり、大門を頼って正解だったか。


「恐らくあなたは、あらかじめ内側に毒を塗ったコップを持って来てそこに水を注がせ、しばらく自分の手元に置いておいた。それからしばらくして、ムラサメさんの水を飲みそうなタイミングを狙い、彼とコップを入れ替えたの。」

「……くっ!」


リリカは歯ぎしりする。

妹子は更に続ける。


「そうして、コップの水を飲んだ彼は……倒れてしまったという訳!」

「それが本当なら、恐らくコップを包んでいた紙か何かを予め捨てているはずだ! 徹底的に」

「……降参よ。」


リリカは、負けを認めた。


「おーっほほ! 江手リリカ、いい気味ね。犯罪者なんかになっちゃって、かわいそー!」


妹子は、すっかり上機嫌である。

しかし、その目はかなり悪い目になってしまっている。


これではどちらが、悪役か分からない。


「お嬢様。」

「なあに塚井? さあ、褒めたたえてご主人様を!」

「……はい。お見事です!」

「そうでしょ! ……って、ええ?」


またも、妹子は素っ頓狂な声を上げてしまう。

塚井は妹子に労いの言葉と共に、プラカードを掲げたのだが。


そこには。


『ドッキリ大成功!』


「はああ!?」

「あ、もう出て来ていいですよ! ムラサメさん、鑑識さん方!」

「あ、どうも!」

「はああ!?」


妹子はまた、驚かされる。

要約すると、この事件そのものがドッキリだったという。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「ど、どういうことなの!?」

「申し訳ございませんお嬢様。今回の社会勉強というのがですね、執事喫茶に慣れさせることだけではなく、ドッキリに慣れさせるということが盛り込まれていまして。」

「はああ!?」


妹子が疑問の声を上げ続ける。


「ふっ、まったく! なあにが犯罪者よ? あなたのお父様に頼まれてあなたを教育してやってただけだったってのに。」

「なっ!」


先ほどの妹子の言葉をそっくりそのまま返さんとばかり、今度は勝ち誇った顔をしたのはリリカの方だった。


「あと……あなたの言う通り、ここは執事喫茶じゃないんだから。」

「……ええ〜!?」


某マ○オさんばりに驚く、妹子である。

そしてリリカの、そんな声に応えるがごとく。


「はっ!」

「ふんっ!」

「……へ?」


ムラサメやジョニー、その他この店の執事たちは脱皮のごとく服を脱ぎ捨てる。


その、真の姿は。


「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

「えええ〜!!! ……って、メイド喫茶じゃないんだから!」


まさかの、メイドだった。


「いいえお嬢様、ここはメイド喫茶です! ……仕方ありませんね。次は、メイド喫茶で社会勉強を」

「おやおや、これは腕が鳴るわねえ!」


塚井とリリカの視線が、痛々しい。


「や、やめてえ!」

「ご主人様あ〜♡」

「だーかーら! メイド喫茶じゃないんだから!」


妹子の叫びが、執事喫茶ではないがメイド喫茶に木霊した。




ひとまず、ここで完結します。

また、気が向いたら続けるかもしれません。

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