9 後姿と煙草(完)
ふと、揺り動かされた。
いつの間にか沈んだ闇の中から意識が急速に浮上する中で、肩を揺り動かす相手へ生返事をする。
気づくと、テーブルに突っ伏した身体にかかる布越しに、大地が声をかけていた。
何、と返事をすると、着替えて外へ来るよう伝えてきた。
まだ外は暗い。夜更けまでだいぶ時間がある。いったいどこへ連れて行こうというのだろう。
理解が進まない頭を抱えながら、大地につられてバイクに乗る。
大地が飛ばす先は、山奥にある神社だった。
道路の隅にバイクを止めて、つられるままに長い階段を登りきると、彼は後ろを指差した。
え、と思い振り返ると、白み始めた水平線からちょうど太陽が顔を覗かせ、その眩しく力強い光を私達へ投げかける瞬間だった。
きれいだ、と思った。
大地は特に喋ること無く、ただ煙草に火をつけようとしていた。右手で風よけを作り、左手のライターで加えた煙草に点火する。
立ち上る紫煙が、闇を払い始めた空に登る。
そんな少し不器用な彼を振り仰ぎながら、ありがとう、と呟いた。
大地は少し首を傾けたが、上へ向き直り、大きく吸った煙を吐いていた。
よかったな、と言われた気がした。