1 川瀬優花の憂鬱
悪夢だった日から今日で一週間が経つ。
私、川瀬優花は、初夏の夕暮れが迫る学校を後にしようと校舎から出た。
広いグラウンドからは運動部の掛け声が聞こえ、校舎からは吹奏楽部が楽器を長く吹いて演奏練習の為に備えている。
いつもと変わらない風景の中で、私だけが取り残されているような落ち込みを感じながら、今日も重い足を動かして帰路につく。
なぜそこまで落ち込んでいるのかと言えば、話はやはり一週間前に遡る。
もう半年以上恋い焦がれた相手に、振られてしまったのだ。
そのショックは予想以上に大きかった。仲のいい友達は優花を気遣い励ましてくれたが、中々心は晴れなかった。
先程まで軽い夕立が降った空は雲が多い。夕日の光は遠慮がちに降り注ぎ、次第にその姿を西の地平線へ沈めようとしている。
私のあまりの沈みように、家族にも心配されたが、なんとなく話しづらくて突っぱねてしまった。そのせいで軽い喧嘩になったことも今の気分に一役買っている。
肩までかかるセミロングの黒髪が、歩みに合わせて揺れる。清々しい夏仕様のセーラー服も、光を反射して存在を主張する革靴も、今は私に合わせて少し輝きを失っているようだ。
校門までの濡れたアスファルトの道を何気なく見つめながら、歩く。