第7話
「宇宙なんて行けるのか。宇宙服持ってないけど」
「いらないですよ、そんなもの。あなた、死んでるし」
そういえばそうだった。俺は死んだから神様のもとへと送られたのだ。死んでたら酸素がなくても生きていける――いや正確には生きてないのか。
「では行きますよ」
神様はそう言うと俺の手を取る。
瞬きをした次の瞬間には宇宙に来ていた。
上下左右に星が点々とある。足元には地球があった。
太陽はなかった。その代わりに巨大な大仏がいた。タイの大仏みたいに黄金の大仏が横たわっていた。
「なんだよこれ。本当にいるじゃないか……」
「だから言ったじゃないですか」
「いや、だけど魔王だという証拠はない。こいつが悪いことしているなんて思えない。ただ寝ているだけじゃないか」
「実際に聞いてみましょう」
え? 話しかけんの?
そう思ったときには神様は大仏に話しかけていた。
「久しぶり。元気?」
軽いな。友達か。
すると。
「元気じゃねえよ、馬鹿野郎。こっちは頑張ってダラダラしてんだよ、馬鹿野郎。話しかけてくんじゃねえよ、馬鹿野郎。ダラダラしながら人間を滅ぼしたいんだよ、馬鹿野郎」
4回も馬鹿野郎って言われた。なんかすごい苛々しているみたいだけど。
というか。
「何で声が届くんだよ。あの大きさからして結構な距離があるんじゃないか?」
「まあ神様なんでね」
そうか。だろうと思った。便利だもんな。
「魔物を作るのはもうやめたらどうです? ダラダラしたいんだったら何もせずにダラダラすればいいじゃないですか。なんの目的があって魔物を人間のもとへ送るんですか」
神様は訊ねると大仏は答えた。
「うるせえよ。何もせずダラダラしたいって言っても暇なんだよこっちは。何をすればいいんだよ、こんなところで。魔物を地球に送りこんで魔物と人間との闘いを観戦するくらいいいだろ」
暇つぶしだったのかよ。まあそういうもんだよな。暇になると世界征服とかしたくなっちゃうもんな。
よし、もう帰るか。太陽が魔王だってこともわかったし、悪い奴だってことも分かった。さっさと帰って雲の上でのんびりしようぜ。
「そんな理由で人間たちを殺していたんですか! 何人の人間が死んだと思っているんですか。もっと高尚な理由があるのかと思ったのに……理由によっては退治しなくてもいいと思ったのに……許せません! この男があなたを殺してやりますよ!」
…………。
……は?
「何年かかってでもあなたを殺して私が太陽になります!」
魔王を指さして力強く叫ぶ神様。
いやいやいや。待て待て待て。
「俺そんなことしないけど。というかもう異世界はいいから成仏させてくんない? イージーモードにならないんだったらもうゲームオーバーでいいからさ」
神様はキッと俺を睨む。
「ゲームオーバーなんてありません。クリアするまで何度死のうが生き返り、何年かかろうが魔王を倒さないと終わらないのです」
「そんなの聞いてない!」
「言ったでしょう。クリアするまで難易度変更はできないって。クリアするまでエクストラ地獄ハードモードのままですよ」
「いやいやいや。死んだら終わりだろ。ゲームオーバーだろ。何でクリアするまで生き返り続けるんだよ」
「異世界はゲームの世界みたいなもんですよ。ステータスもあるしレベルもある。スキルもある。死んだからってゲームオーバー? なんでそこだけ現実なんですか。全部ゲーム仕様でいいじゃないですか。ゲームの中で主人公が死んだらそのゲームはもうプレイできなくなるんですか?」
たいていのゲームは主人公が死んだり何かに失敗するとセーブしたポイントに戻される。死んだことが無かった事にされる。実際に生き返るわけではないがプレイヤーからすれば生き返るのと同じようなもんだ。
エクストラ地獄ハードモードにしたことを後悔した。イージーモードだったら死んで生き返っても次はがんばろうという気がおきる。が、エクストラ地獄ハードモードのこの世界は無理だ。何度も死に、何度も生き返りをくりかえすうちに気力がなくなっていくだろう。この魔王を倒すまで終わらない。何年かかっても死ぬことが許されない。
地獄だ。
放心していると魔王は口を開いた。
「俺のレベルは3億レベルだ」
「この男は1レベルです!」
神様やめてくれ。なんでそんなに胸を張って言えるんだよ。恥ずかしいだろ。というか何だよ3億レベルって。100レベルが上限とかじゃないのかよ。
「5万年くらい魔物を倒し続ければ……魔王、あなたなんてワンパンですよ」
5万年もかかるのかよ。猿から人間に進化するくらいの時間が必要なのかよ。ポケモンみたいに一瞬で進化させてくれよ。
「フン。5万年か……いいだろう。待ってやる。魔物を出し続けるが果たしてそいつが強くなるまで人類は絶滅しないのか見ものだな」
そこで慈悲を見せなくていいから。お前の3億レベルという圧倒的な力で世界を消滅させてくれよ。もうすべてを消し去ってくれよ。やさしさを見せるな。
「あとでほえ面をかいても知りませんからね!」
こうして俺はこれから5万年間レベリングをすることになるのだった。