第4話
朝が来た。結局俺は野宿した。宿屋の裏路地に大きなゴミ箱(アメリカの路地裏によく置いてあるあの大きなごみ箱)があったのでそこで眠った。臭くて寝心地が良いとはいえないがそこしか寝られるところがなかったので仕方がない。本当は宿屋の近くにあったベンチに横になり眠ろうとしているとババア店主が来て「そこで寝るな」と蹴られたので路地裏に行ったのだ。
あのババアまじで許さねえからな。ギルドに行って仕事貰ってモンスター倒しまくってレベル上げまくって強力な魔法をバンバン覚えまくったらこんな店消し炭にしてやるからな。覚えてろよ。
すぐには復讐できそうにないので俺はとりあえずささやかな復讐として宿屋の壁に朝の小便をひっかける。
よし、いい朝だ。
空を見上げると雲ひとつない快晴だ。今は春なのかぽかぽかとして気持ちいい。今日は良いことがありそうだ。
ギルドを探し回り6時間。ついにギルドを見つけた。一時間くらい探し回っても見つからなかったのでしょうがなく町人に訊ねたが全員が奴隷商人の店にしか案内しないので自力で探し出したのだ。
ほんとにクソだなこの町は。はじまりの町って名前してんだから初心者に優しくしろよ。まあそんなこと言っても異世界の人達からすればなんの初心者だよって感じだけどさ。
まあいいよギルドに着いたんだから。
俺はギルドの入り口をくぐる。
ギルド内はイメージとだいぶ違って驚いた。俺の中のギルドは酒場みたいな風になっていて荒くれものたちが騒いでいるイメージだった。が、実際は市役所やハローワークみたいだ。
各受付窓口があり奥には職員たちがデスクにかじりついて働いている。市役所との違いと言えば窓口に来る人達が一般市民ではなく、剣や盾で武装していたり黒くて禍々しいローブを着ていることくらいだ。
俺はどこの窓口に行けばいいんだろうか。窓口にそれぞれプレートが掲げられていた。
『クエスト受付』
『登録受付』
などがある。多分登録受付でいいんだろう。俺は登録受付に向かった。
「いっらしゃいませ。今日ははじめてですか? ギルド登録でよろしいですか?」
受付の女が快活に言った。
「そうです。初めてでなにも分からなくて」
「ではまずギルドの説明をさせていただきます」
受付の女は理路整然とした説明を始めた。
まとめるとこうだ。
ギルド登録するとクエストを受けられるようになる。自分が希望するクエストを魔道具(どう見てもパソコンにしか見えない)で検索すると希望に沿ったクエストが表示される。それをプリントアウトして受付窓口に渡せば受注できる。
クエストには難易度がある。イージー、ノーマル、ハード、エクストラ地獄ハードの4種類だ。初心者はイージーを選ぶことが多く、自分のレベルが上がるとノーマル、ハードと受注していく。エクストラ地獄ハードはこのはじまりの町では受注するものはいないらしい。
難易度があるもののクエストにレベルによって制限されない。だから初心者でも腕に自信があればハードを選んでもいいし、上級者でもイージーを受注しても問題はない。
しかし成功報酬は難易度によって異なってくるので基本的には上級者はイージーを受注しない。それとクエスト失敗したりキャンセルすると1万コインの罰金が発生するので初心者はリスクを冒してまでハードを選んだりしないらしい。
「説明は以上です。質問がなければあちらの機械でギルドカードを発行してください。ギルドカードがギルド登録の証になりますのでクエスト受注の際は受付に提示してください」
受付の女は俺の後ろを指し示す。見るとプリクラみたいな機械があった。俺の世界にあったプリクラは中が見えないように女の顔が印刷された幕一枚でさえぎられているが、ギルドカードを発行するというこの機械も全く同じだった。
「え。あれに入ればいいんですか?」
「ええ。決まりですので。みなさんもあちらで登録を済ませてますので」
みなさんもというのはクエスト受注受付にいるごつい男やローブを着た怪しいババアのことだろうか。入っていく姿が想像できない。写真の目が必要以上に大きくなってたら笑える。
まあこれはプリクラみたいな機械であってギルドカード発行機なのだからそんなことはないだろうが。
ギルドカードを発行した。やはりプリクラみたいな機械であってプリクラではなかったらしい。入ると女の音声で「顎の下でピース☆」や「楽しく! あっかんべ~☆」なんてポーズの指定はないし、明るい音楽はかかっていない。
音楽はなっていなく機械の音声で「印のついたところに立ってください」と言われすぐに写真を撮られ「それでは終了です。お疲れ様でした」と終わった。
なんのこともない普通のギルドカード発行機だった。
ただ、出てきた写真の俺は美肌になっていたが。