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第19話

 「い、いいのか。本当に……?」

 「は、はい……どうぞ」

 

 神様は消え入りそうな声でそう言うと小さく頷いた。

 顔を赤面させて目は涙で潤んでいる。

 か、かわいい……。神様ってこんなに可愛かったのか。

 不覚にもそう思ってしまった。いや待て相手はあの神様だぞ。俺のことを勝手に殺してこの世界に転移とかいいながら天界からただ突き落とすだけのがさつさ。適当なことを言って宿屋のババアに俺を殺させて、挙句にひどい殺され方した俺に向かって「へーきへーき」とのたまう倫理観のなさ。

 こいつは一言でいえば最悪な女だ。好きになるわけが無い。

 なのに。

 

 なぜこんなにも愛おしいんだ。その白くて餅のような柔肌に触れたい。長くてきれいな金髪に顔をうずめたい。胸を揉みたい!

 心臓が高鳴り血流が早くなるのを感じる。下半身にすべての血液が向かっているように思える。頭に血が回ってないのかくらくらしてきた。頭がぼーっとする。

神様は俺を見ていかにも神様らしい微笑み浮かべて両手を広げていた。

 俺は童貞で正直言うとやり方がわからないけれどすべてを許し受け入れてくれそうなやさしさがそこにはある。

 

 ああ、神様……一つになろう。

 ちらりと麒麟たちの方を見る。麒麟たちは固唾を飲んで俺たちの様子を見守っている。こちらに視線を固定させながら藁をむしゃむしゃと食っている。

 

 俺たちの行為をおかずに藁を食うんじゃねえよ、と思ったがどうでもいい。頭が正常に働かない。ヤりたい。ただひたすらヤりたい。エロいことだけが頭の中を占領している。

 というか見られていると思うと次第に興奮してきた。

 おい、クソ麒麟ども。しかと目に焼き付けておけ。これが俺の童貞卒業シーンだ。

 俺は神様の肩に手を置く。

 

 最初はキスをすればいい、という洋画の濡れ場シーンで勉強した浅い知識を発揮しようとしたそのとき、

 「あああああああ!」

 と麒麟が騒ぎ出した。声からしてオスの方だ。

 うるせえよ、邪魔すんなバカ。

 

 「我々は魔王より作られし神聖な生き物。下等生物の人間共とは違う……なのになんだこの気持ちは。なんなんだこの高鳴る胸の鼓動は」

 オスはメスを見た。

 「お前を見ていると頭がぼーっとしてくるんだ。お前が欲しい」

 「か、片腹痛い……片腹……。好き」

 オスはメスに跳びかかり腰を振りだした。

 「んほおおおお! 下等な人間になっちゃう~!」

 「人間共め……我々にこんなことをさせるとは……んほお!」

 

 二匹は俺たちのことを気にせず、んほり始めた。

 うんうん。いいことだ。いきなり騒ぎ出したときは何事かと思って驚いたけれど結果オーライ。

 さて。俺たちもやろうか。

 神様に目をやると彼女は俺を突き飛ばした。交尾の真っ最中の麒麟たちの檻に近付いた。

 

 「やっと効いてきましたね。媚薬の効果がね」

 「は? 媚薬。なんだそれ」

 「こんなこともあろうかと、餌に媚薬を混ぜておいたんですよ。藁を食えば食うほど媚薬ガスが噴出し、次第にこの部屋を媚薬が充満するしかけになっていたんですよ。ようやく効いてくれましたよ。効かないと思ってひやひやした~」

 

 そういうことか。だから俺の頭がおかしくなっていたのか。ネタが分かると頭が冷静になっていく。

 よかった。神様に欲情したのかと思ったぜ。

 正直に言えば少し残念だがそんな気持ちを微塵も表に出さず俺も麒麟たちの交尾を眺めた。


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