第17話
神様に案内されて俺ははじまりの町の外に来ていた。周りには畑ばかりで建物はほとんどない。人もいなくさびれた小屋が一軒だけぽつんと建っている。神様はさびれた小屋の前で止まった。
「ここです」
「ここか。ここがボスの家畜小屋か……」
「はい。どうぞ中へ」
神様に促されて小屋の中に入る。緊張しながら入ると中は檻がいくつもありその中のひとつに牛みたいな奴が2匹入っていた。首に縄が巻かれていて檻に繋がれていた。
牛みたいだが牛じゃない。
そいつらは鹿ほどの大きさにドラゴンみたいな頭で身体はうろこで覆われている。
俺はこいつを見たことがある。俺のいた世界で見たことがあるぞ。どこで見たんだっけ? 確実に動物園にいるようなやつではない。
唐突にビールの缶を思い出した。
そうだ、こいつはあのビールの。
「こいつらは麒麟です。ダンジョンのボスです」
やはり麒麟だった。ビールの缶に描かれているキャラクター? である。かっこ悪くて気持ち悪いキャラクターだなって思っていたが実際にみると奇妙なやつだ。ドラゴンの頭はカッコいいけど体はうろこがある鹿みたいだ。ところどころ燃えているが床にしかれている藁には燃え移らないらしい。麒麟は俺に眼もくれず藁をむしゃむしゃと食っていた。
「確かに麒麟っぽいけどただの草食動物にしか見えないな。強かったのかこいつら」
「はい、強いなんてもんじゃないですよ。空を飛んだり全身を燃やしながら突進してきたり、蹴りで太い木もなぎ倒しますし。やつらのチームワークもすごかったですよ。一匹の攻撃をかわしたと思ったらもう一匹がうしろから突進してきたりして。だから私も奴隷とのチームワークを発揮してなんとか勝てましたけど」
チームワーク? 奴隷はすごいけがを負っていたけど神様は無傷だったことから奴隷を囮にして奴隷がリンチされている隙に後ろから捕まえたんだろうなぁ、と推測。
その通りだろうからあえて指摘はしない。
「……で、問題ってなんなんだ? 一見すると問題ないように見えるけど。2匹ともちゃんとおとなしく檻に入っているし」
「そこですよ、問題は。おとなしく入っているところですよ」
「どういうことだ?」
「私たちの目的を思い出してください。何ですか目的は。ボスを繁殖させることですよね。繁殖と言えばこれですよね。こいつらは全然しないんですよ。これを」
これを、と言いながら神様は空中を掴んで腰を振った。
「交尾か。というかその動きやめろ」
「オスとメスが一晩同じ屋根の下にいるんですよ。だったらやることは一つなのに」
唐突に笑い声が小屋に響いた。
神様のものではない。もちろん俺でもない。
麒麟が二匹ともバカにするように笑っていた。
「馬鹿か人間共め。交尾なんてそんな汚らしい獣みたいなことをするわけがないだろう。我々は魔王より作られし魔物。魔王が我々を作ることはあっても我々は繁殖なんてしないんだよ。馬鹿」
今喋ったのはオスなのか男の声がした。続いて女の声が聞えた。
「そうよ。我々は神聖な生き物。あなたたちのような下賤な豚ではないのよ。交尾なんて片腹痛い。愚かな人間と馬鹿な女め」
二匹はそう言うとまた笑った。こういう奴ってすぐに馬鹿にしてくるよな。
「まあこんなかんじなんですよ。こんな感じで交尾をしないのですよ」
「どうすんだ一体。せっかく捕まえたというのに」
「どうしましょう……」
神様は腕を組んでうなる。本当にどうすればいいんだ。このままでは俺のレベルはあがらないし俺のストックも増やせない。もしも殺されたら天界に送られ時間が巻き戻ってしまいまた最初からだ。それだけは避けないと。
何気なく麒麟の方を見ると一匹が藁に背中をこすりつけている。モンスターも背中がかゆくなることがあるのか、なんて思っているとハッとした。
そいつの股にアレがあった。オスにしかないアレが。
ということは。
「神様、だいじょうぶだ。こいつら交尾をしないだけで交尾自体はできるはずだ。ただ性欲がないだけだ。きっと性欲を刺激すれば交尾して繁殖するぞ」
「何か閃いたんですね!」
「ああ」
性欲がないのなら性欲を刺激すればいい。交尾を知らないのなら教えてやればいい。だったらこれしかない。
俺は自信を持って言った。
「AVを見せてやればいいんだ!」