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第15話

 奴隷生活2日目。

 

 一日目は暇すぎて早く神様戻ってきてくれないかなー、とか思っていたけれど今はもう思っていない。というかもうあいつは戻って来なくていいとすら思う。

 なぜならば。

 

 「レイちゃ~ん。おはよ~。朝だよ~、こら~、もう起きないとダメでしょ~」

 「うーん、むにゃむにゃ……あと5分寝かせてください……ぐう」

 「こら~、寝るな~。悪い子だな~レイちゃんは。もう……好きッ……!」

 

 とか言って。

 牢屋のなかにいるけど俺は幸せです。ここで神様が来たら邪魔者でしかない。だから来るんじゃねえぞ。俺の新婚生活は誰にも邪魔はさせない!

 

 そのとき扉のむこうから店主の「いらっしゃいませ~」という猫なで声が聞えた。

 あの神様とかいう馬鹿が戻ってきやがったのか。絶対にここから出ないからな。

 店主が扉をあけて来訪者を案内する。

どうやら神様じゃなかったようだ。

 

 客は男だった。紳士っぽい服装に身を包む上品そうな男だ。顔にしわがあり額から頭のてっぺんにかけて毛がない。残っている毛や顎に生えている長いひげはすべて白くなっている。

 この老人はハゲなことを恥じる様子はなく堂々としている。まだ背骨が曲がる歳じゃないのか胸をはっていて隣でぺこぺこしている店主よりも大きく見える。

 

 「おすすめはどれかね?」

 「へい! おすすめはやはり入ったばかりの新人でございます!」

 

 やばいと思った。俺も新人だが絶対に俺のことじゃない。

 店主が前を歩き老人が後を追う。案の定、店主はレイの牢屋の前で立ち止まった。

 「ほう……これはなかなか……」

 老人は顎髭を触りながら言った。

 くそじじいめ。背中しか見えないがこのじじい俺のレイをいやらしい目で見てるだろ絶対に。レイも怯えていることだろう。助けなきゃ。

 

 「おい! じじい!」

 老人はゆっくりとこちらを振り向く。

 「俺を買え! レイに――その子にひどいことをする気だろ! 毎晩毎晩……だったら俺を買えよ! 俺を買ったらお前を殺してやるからさ!」

 俺がそう言うと店主はすかさず俺の前に来た。

 「お前! お客様にそんなことを言うんだったら殺処分にするぞ!」

 「マスター。いいんですよ」

 

 じじいは店主の肩に手を置いてなだめて俺の前に立つ。ため息を一回すると出来の悪い子供にやさしく教えるかのように言った。

 「君は犬や猫を飼ったことがあるかい?」

 「あるけど……それがなんだ。奴隷は犬や猫と同じだと言いたいのか?」

 「うーん……ハハハ」

 じじいは苦笑した。

 「同じだよ。君は犬を飼うときに何を思って決めるんだい? もちろん、外見とかだろう。可愛いから飼うんだろう。間違ってもどの犬と性行為をしたいかで選ばないだろう?」

 「当たり前だ!」

 「奴隷は犬や猫と一緒で愛玩用――」

 「違う! レイは人間だ! 犬と同じにするな!」

 

 じじいはため息をついた。

 「まあ聞きなさい。犬や猫と一緒で愛玩用なんだよ。おいしい物を食べさせて、かわいい服を着せて一緒に散歩して夜は同じベッドで眠って――あ、君が想像しているようなことじゃないよ――病気になったら病院に連れて行く。……あまり考えたくはないが死んでしまったら墓を建てる。――ほら、やっぱり犬と同じじゃないか。あの子も私のところに行くことを望んでいるよ。ほら見て」

 「そんなわけないだろ。レイはお前なんかと一緒に行かない」

 俺はレイに視線を向ける。

 レイは無表情で俺に向かって中指を立てていた。

 ……あれ? 何で俺に中指を?

 

 「……じゃあこの子を貰おうか」

 「へへ、毎度!」

 店主はこびへつらう顔で手もみをするとレイの檻の鍵を開けた。レイは出てくるとだるそうに首を回して俺の檻に蹴りを入れた。

 「こら! 蹴るんじゃない。お店の人に謝りなさい!」

 「だってこいつキモいんだもん。今朝だって彼氏面して『好きッ……』とか言われたし」

 「それはキモい。だけど商品に傷つけちゃだめだろう。ちゃんとあやまりなさい」

 「ごめんなさい……」

 レイはしおらしく謝ると店主が媚びた声を出した。

 

 「へへ、いいんですぜ。これからもごひいきにしてください」

 「うむ……じゃあ行こうか。今日はお祝いだ。何か食べたいものはあるかな」

 「ご主人様~私ドラゴンの卵を使ったエッグベネディクトが食べたーい!」

 「何でも食べなさい」

 「やった~! ご主人様大好き‼ ねえ、パパって呼んでいい……?」

 「ああ、いいとも」

 「わーい! パパ、ありがとう!」

 

 とかなんとか言いながら二人は出て行った。

 ……何なんだよ。なんなんだよ俺は。なんて恥ずかしい男なんだ俺という奴は。レイを助けて俺に惚れさせてあわよくば……って思ったのに。

 まあしょうがないよね。俺異世界人だし。俺の世界の奴隷と言えば男は重労働、女は姓奴隷にされてるのが普通だし? こっちの世界の奴隷の扱い方なんてしらなかったし? 誰にも教わってねーし⁉

 

 牢屋の柵を握りしめていると店主が、

 「まったく、困るよ君~。次営業妨害したら本気で殺すからね」

 「いや、俺異世界人だし……?」

 「いいよ、そういうのは。まあ知らないようだから言うけどね、若い子の間でねこういうことはよくあるんだよ。親に売られたとか嘘をついてね、奴隷に自ら売られにくるんだよ。で、大金を得る。それから金持ちに買われていい暮らしをする。飽きたら主人のもとから脱走して奴隷の店に行って自分を売り大金を得る。そしてまた金持ちに買われいい暮らしをする……そのループだ。若くて可愛い女の子の流行りだよ。よく覚えておくことだね」

 

 店主はそれだけを言うとドアに消えていった。

 「…………」

 外見は美少女だけど中身がブス。

 世界よ、これがエクストラ地獄ハードモードだ。

 

 とりあえずあのじじいとペットの愛玩動物くそ女は許さない。宿屋のババアを殺したら次はお前らを殺しに行くからな。



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