第14話
次の日。
俺は昨日、牢屋の中で何もすることがなく一日を過ごした。牢屋の中を歩き回ったり、鉄格子を意味深な顔で握りしめてみたりとしていたが結局、横になって一日を過ごした。
牢屋のなかにはベッドがある。ふかふかとは言えないがそれでも野宿するよりは全然マシだ。ベッドの上でダラダラして時間をつぶしていた。
部屋の隅にはトイレがある。水洗式のトイレだ。何で中世っぽい雰囲気の異世界にこんなものがあるんだよって思ったが、もうういいや。戦車からゴブリンがはえているような世界だし。水洗式トレイくらいあるだろう。きれいに掃除されていて清潔だったから許す。ちなみにウォシュレットがついていた。
時計がないが店主は決まった時間に飯を持ってくるので大体の時間はわかる。朝7時、昼12時、夜7時だ。先ほど店主が飯を持ってきたので今は朝の7時である。
それにしても暇だ。今日は何をして過ごそうか。今後のことを考えるにしても神様が帰って来ないことには話が進まない。俺はここにいて何もできないんだから。
暇だ。まあこれから5万年も生きることになるわけだから長い人生のうちの24時間なんて一瞬だろう。今日もダラダラするしかないな。
なんて思っていると話し声が聞こえてきた。店主と男の声だ。店主は媚びるような声で「活きのいい奴隷を待ってますよ~」とか言っているので奴隷を売りに来た客だろう。
この『奴隷最高』の店の構造を説明しておこう。店内は入り口を入ると5畳くらいの空間にレジスターが置かれたカウンターを挟んで店主がいるだけで他にはなにもない。今俺がいる奴隷たちの部屋は店主が受付をしているところと扉一枚を挟んでいるだけなので会話が聞こえてくるのだ。
扉をあけると牢屋がずらっと並んでいる。通路を挟んだ両側に牢屋が10部屋ほど並んでおり、俺のほかに数人の奴隷が牢屋にいた。奴隷を買いにくる客は動物園の猛獣を見るようにどの奴隷を買うのか品定めをするのである。
俺の向かい側は空室でがらんとしているのだが新人が入ってくるらしい。店主はカチャカチャと鍵を開けると今売られた奴隷を牢屋に押し込んだ。店主は鍵をかけると何も言わずに戻って行った。数分後に店主が戻ってきた。手にはタオルを持っている。美少女の牢屋にはいると「お前汚いな~。貧乏人だろ」とかいいながら顔や腕などを拭いて汚れをきれいに落とすと扉へ戻った。
その奴隷は不安げにきょろきょろとしてからベッドに座った。俺は鉄格子に飛びつき向かい側の住人をかじりつくように見た。
驚くべきことに奴隷は美少女だったのだ。長い黒髪はぼさぼさだが顔は整っておりちゃんと風呂に入って清潔にすれば、このブスとババアしかいなさそうなエクストラ地獄ハードモードには似つかないほどのSS級の美少女だ。
あ~、癒される。一気に退屈じゃなくなった。美少女を見ているだけで楽しい気分になる。
視線に気づいたのか美少女は俺に会釈した。
俺は思いきって話しかけてみた。
「ねえ、何でこんなところに来たの? あ、そうだ、君のは名前は? 俺は田中六郎」
美少女は俺と同じように鉄格子を握った。
「私はレイ。親に売られた」
美少女は――レイはそう言って笑った。笑った顔もキュートで愛らしい。
可愛くて彼女が言った内容を聞き流しそうになったが今、とんでもないこと言わなかったか。
「え。親に売られた?」
「うん。私の家が貧乏だから家族が飢え死にしそうでね。金を稼げない私が奴隷に売られるしかなかったんだよ。自分でいうのもなんだけど私、可愛いから。1000コインで売れたよ」
1000コインがどのくらいの価値なのかよくわからないけれど、相当な額なのだろう。そういえば宿屋(クソ宿屋)のババア(クソババア)が一晩10コインって言っていたっけ。日本のビジネスホテルの一泊は大体1万くらいだ。仮に10コインが一万円相当だとすると1000コインは100万円になるのか。
人の命を何だと思っているんだ。人の命は100万円なんかで引きかえていいわけが無い。犬や猫じゃないんだから売買なんてしちゃいけないだろ。まあ奴隷の俺が言えたことじゃないが。
「まだ小さい弟たちを食わせなくちゃいけない。私はお姉ちゃんだから我慢しなくちゃね。でも家族と別れるのは寂しいけど金持ちの人に買われればいい暮らしできるからそれはそれでいいの」
健気でええ子や。だけどな、奴隷を買うような奴はクズしかいないんだよ。どうせ変態な金持ちに買われて薬を打たれておかしくされて人生が滅茶苦茶になるのがおちなんだよ。いい暮らしなんて出来ないんだよ。
俺はレイちゃんを救いたい。こんな純粋で家族思いのレイちゃんを救わずして世界なんて救えるかよ。
よし決めた。脱獄するわ。そしてこの子と仲良くスローライフを送るわ。魔王? 世界? そんなのはもう知らん。俺はこの子と結婚するんや! レイちゃんを救ってからでも遅くないはずだ。
俺は密かに決意した。