第11話
雲の上にて。
「あの、ババアのレベルを見てみたんですが……」
神様は深刻そうな顔をして言う。
「……その前にさ――いやババアのレベルも気になるんだけど……俺に何か言う事があるんじゃないか?」
「あ、そうでした」
神様はそそくさとその場で正座をする。
「あなたはどのように死んだか……ですよね? ババアはあの斧で衝撃波をあなたの頭の中に発生させたんですよ。だからあなたの頭がドッパーンと弾けちゃったわけです。最悪な奴ですよあのババアは。斧だったら普通に斬れよと」
「違うだろ!」
まあ、あのババアが最悪だということは同意するが。
「俺の死に方なんてどうでもいい! しかも結構グロい死に方だしさぁ! いいよそんなこと教えてくれなくても」
「……え。じゃああとは何を話せば……? あなたの死体の後片付けの話でもすればいいんでしょうか?」
「違う! 謝れよ!」
神様は面食らった表情で俺をジッと見る。
「なにを?」
「お前のせいで死んだんだろ、俺は。なんで俺ははじまりの町の宿屋のババアに殺されなくちゃいけないんだよ。なんでグロい死に方しなくちゃいけないんだよ。はじまりの町を出てすらないぞ」
「ああ、そのことですか。いいじゃないですかそんなこと。こうして雲の上にいるわけですし。すぐに生き返らせますよ」
「言っておくがな死ぬのは痛いんだからな。死ぬほど痛いんだからな。いや死ぬほどっていうか実際死んでるし」
語尾を強めて言う。が、神様はどこ吹く風でへらへらしている。
「へーきへーき。別に死ぬわけじゃないから」
死んでんだよ、こっちは!
「そんなことより。ババアのレベルですが――」
俺の死生観がおかしくなりそうだ……。
「2億レベルでした」
「え……?」
「あのババアのレベル2億でした」
2億。確か魔王が3億レベルだったよな。魔王と1億レベル違い。1億なんて相当な差があるけど俺からすれば大きすぎてそれほどレベル差がないように感じる。あのババアは相当強いなんてレベルじゃない。魔王がいなければババアが魔王になっていたレベルだ。
「ちなみにあなたは1レベル」
「分かってる。いちいち俺のレベルは報告しなくていいんだよ」
はじまりの町だから俺のレベルが普通なんだよ。
「それにしてもレベル2億……。もうあのババアが魔王を倒しに行けばいいじゃないか」
「私もそう思いましたが、それは無理ですね。あのババアは信仰心の強い田舎者ですよ。太陽のことを神様って言いましたからね。私たちはその神様を殺しに行くわけですから絶対に協力なんてしてくれませんよ」
「そうだな」
「そこで私、良いこと考えました」
「なんだ」
悪い予感しかしないが一応聞いてみる。
「あのババアの斧を盗みましょう」
「お前は『良いこと』と言う言葉を二度と使うな!」
「まあまあ、そんなこと言わずに。2億レベルの人が持つ斧ですよ。相当な業物ですよあれは。伝説のなんとか、とか呪われたなんとか、とか神のなんとか、とかそういう類ですよ」
まあ確かに、あの斧は強そうだけど。
「相手は2億レベルだ。そもそもそんなやつから斧なんて盗めるわけが無い」
うーん、と神様は腕を組んで唸った。
「いやーいいアイディアだと思ったんですけどね……。あの武器は絶対に強武器ですから。ではどうしますか?」
「ババアじゃなければいいんじゃないか? ババアじゃなくて町の人の中から誰かを仲間にすればいいんじゃないか? ババアであの強さだ。他にも強い人はいるに決まっている」
はじまりの町の連中はゴブリン戦車を石ころ一発で殺せる戦闘力を持っているらしい。ということはレベルが高いだろう。宿屋のババアでも2億レベルだからな。
「では仲間集めに行きましょう」