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勇者は成長したようです

「ちょっ、バク! そこは……!」


「いやいや、全然いけますって! 魔王様は慎重すぎるんすよ。こういうのはちょっと強引なくらいの方がやり切った時気持ちいいんですよ!」


「だからってお前そこは流石に無理だって! ちょ、ほんと絶対壊れるから!!」


「大丈夫です! 俺を信じてください!」


「んっ……まぁ、お前がそこまで言うなら……」


「よしっ! じゃあ魔王様はちょっと……はい、そのままだとやりづらいんで!」


「そうだな……よし、これならいいか?」


「あ、それなら行けそうです! ……じゃあ行きますよ?」


「うん、いつでも」


「…………ソイヤッ!!」


「「――ッ!!」」


 グラグラと揺れるそれを前に魔王とバクは息をのみ目を見開き手を組み合わせ祈りを捧げる。


「耐えろ……お前ならいける……!!」


「もっと熱くなれよおおおおお!」


 それはそれは熱心に祈っている。

 魔王はまるで目の前につまれたジェンガを旧友のように献身的に励ます。

 そして、バクは軽く周囲の温度を上げながら励ます。


 そんな二人の願いが届いたのか……ジェンガは徐々にその揺れを弱くしていく。

 それが完全に収まっていくのをじっと無言で眺める魔王とバク。

 その目は希望に満ち溢れていた。


「魔王ッ!! 今日こそはあんたの最期よ!!」


 完全に成功した。

 そう思ったときだった。


 突然の来訪者。

 揺れるジェンガタワー。


 魔王とバクはその時をまるで時の流れが極端な程に遅くなったかのように感じたとのちに語った。


 すでに限界は来ていたのだろう。

 全てが全て来訪者のせいというわけではないのだろう。

 けれども結果として崩れた。


 魔王とバクが真昼間から仕事もせずに目を血走らせながら崩さないように続けてきたジェンガは崩れた。


「誰じゃコラァッ!! 絶対にお前の一族滅ぼす! 絶対根絶やしにしてやる!!」


「肉片の一片たりとも残せるなんて思うなよ!! 俺が持つ最大威力の炎魔法で消し炭にしてやるッ!!」


 ゆえに彼らは激怒する。

 それはそれは苛烈に怒る。

 二人の怒気に耐えることができなかったのか次第に床に、壁にひびが走っていった。


「…………あんた達……何してるの?」


 しかし、その気迫だけで人一人を殺しかねない圧倒的なまでの怒気をあっさりと受け流し来訪者は、魔王の宿敵であるユウキは冷めきった目をして二人に問う。

 

 勇者の宿敵であり生涯をかけて殺すべき忌まわしき魔族の長である魔王。

 それが真昼間から部下とジェンガで部屋壊すくらいに盛り上がっているのだ。


 端的に言ってなんかもう死ねよって感じである。


「い、いや、ちょっと暇だったから部下と親睦を深めようと思っただけだよ、ね?」


「そ、そうだ! 魔王様が暇そうにしていたから俺はそれに付き合ったに過ぎない。つまり……魔王様、なにこんな昼間から仕事もせずに遊んでるんですか! 働けこのニート魔王ッ!!」


「ちょ、お前ふざけんな! 先にセレンが働けって煩いからとか言って俺のとこに来たのはお前だろうが!」


 想い人にゴミでも見る様な目(わりといつもそんな感じなのだが)で見られさすがに思うところがあったのか反論しようとする魔王。  

 しかしながらその思惑はあっさりと信頼する部下によって裏切られた。


「俺はジェンガなんて持ち込んでませんよ! 俺が来た瞬間に嬉しそうに書類薙ぎ払ってジェンガ出したのは魔王様じゃないですか!!」


「ぐぬぬっ……!」


 バクの指さした先にあるのは床の上で散らばりに散らばった書類の束。

 それを見て魔王は思わず顔をしかめる。


 書類のあまりの多さに辟易しているなか友人と呼んでも差支えのない部下が来たことで振り切ってしまったハイテンションゆえの行いを魔王は悔いる。

 これあとで一枚ずつ書類拾うの結構めんどくさい奴じゃんとか今になって魔王は悔いる。

 ジェンガが崩れ、ゴミを見るような目で見られ、部下には裏切られ、魔王のテンションはそれはそれはここ近年まれに見るレベルの高低差で下がって行った。


「大丈夫ですよ魔王様……俺はいつでも魔王様の味方です。生きとし生けるものは常に間違え続けながら生きていくものです。それに人間や魔族という隔たりは存在しません。だから間違ったっていいんです。大事なのはそのあとその間違いを活かせるか活かせないか。違いますか?」


「……違わない」


 沈む魔王にバクは諭すような優しい声色で魔王の肩に手を置き言葉を紡ぎ出す。

 そして、それに対し魔王はほんの少し俯いていた顔を上げ肯定の意を示した。


「魔王様は確かに間違えました。やるべき仕事を放棄して部下を唆しジェンガの道に誘い込みあまつさえ全くの無実の部下を共犯に仕立て上げようとしました。しかし俺はその全てを許します。今回悪いのは全て魔王様ですが俺はそれを責めたりしません。……だって魔王様ならその失敗を必ず次に活かせると信じているから」 


「バク……!」


「悪いのは全て魔王様です。でも俺はそれを責めたりしません。分かりますね?」


「うん……俺が悪かったよ。ごめん……ごめんバク……」


「分かってくれればそれでいいんです」


 自らの愚かさを悔いるようにしゃがみ込んでしまう魔王。

 それに視線を合わせるようにバクはしゃがみ込み献身的に魔王の背中をさする。


 全くもって美しい友情である。


「ユウキ……ごめん。俺が全部悪かったみたい」


「あんたバカでしょ……いや、もうあんたがそれでいいなら私は何も言わないけど」


 どこか悟ったような顔で完全に罪を全て押し付けられて納得してしまっている魔王にユウキは呆れつつも正直これ以上この件には踏み入りたくないと思い話題を変える。

 そもそもの話ユウキがここに来たのは魔王が部下にいいように騙されるのを見るためでは決してない。

 そんなことには小指の先ほどの興味もない。


「とにかく……! 私と勝負しなさい魔王!!」


「……ちょっと待って。もうちょっといい部下を持ったっていう余韻に浸らせて」


「あんたそれ騙されてるからね」


「……え? そうなの?」


「魔王様、俺が貴方に嘘をつくとでも?」


「ごめん。俺がバカだった」


「…………」


 即堕ちである。

 たしかにバカ以外の何者でもないので魔王の言葉は間違ってはいない。

 もっともユウキの中での魔王の評価がより一層下がったことに変わりはないが。


「……いや、ほんとそんなことはどうでもいいのよ。私が今日ここに来たのは……あんたを倒す為なんだから!!」


 床を蹴り一瞬にして魔王たちと自分との距離を詰めるユウキ。

 以前のユウキとは比較にすらならない。

 足に纏った光が、勇者だけが使える特殊な属性である『光属性』の魔法がそんな超人的な速度を出すことをユウキに可能にさせていた。


 さしもの魔王とバクもこれには驚いた。

 そして、その驚愕に生まれた隙を見逃すほどユウキは甘くない。


「『神焔滅斬』!」


 繰り出されたのは勇者の才能が持つ第四スキル。

 全てを燃やし尽くす白い炎を纏った聖剣による絶対的な一撃。

 間合いこそ第三スキルの『神焔斬』に劣るもののその威力は比較対象にすらならずSSランクのモンスターですら一撃で葬ることができるほど。


「…………うん。強くなったね」


 しかし、それはやはり魔王には未だ届かない。

 片腕でそれを受けきった魔王はどこか自嘲的な笑みを浮かべユウキにそう声をかける。

 

 腕を除けばほとんど無傷。

 その事実は間違いなくユウキという少女を傷つけるだろう。


 彼女が第四スキルを開放するのに一体どれだけの努力をしたか、光属性の魔法を使いこなすのにどれだけの努力をしたか。

 その予想がつくだけに魔王はそんなことを考えるべきではないとは理解しつつもユウキに対してどうしようもないくらいに申し訳なく感じてしまう。


「ふ、ふふっ……」


「…………ユウキ?」


 肩を震わせるユウキを前に魔王は遠慮がちに声を掛ける。

 怒らせてしまうかもと思いつつもやはり放っておけずに声を掛けてしまう。


「あんたがこのくらいで死ぬなんてはじめから思ってなかったわよ! でも私の攻撃があんたの腕を斬り裂いた! それであんたは今腕から血を流してる! 上等じゃない! 次は必ずもっと痛めつけてやる!!」


 しかし、そんな魔王の心配をよそにユウキはこれ以上ないほど嬉しそうにそう言ってのけた。


「私がスキルを極めた時があんたの最期よ! 覚悟しときなさい!!」


 そしてテンションそのままに来た道をユウキは引き返していった。


「……えっと……バク?」


 状況が今一つつかめず部下に説明を求める魔王。


「ん、まぁ……あれじゃないですかね。……勇者もたぶん成長してるんですよ」


 そして、そんな魔王に対しどこか心配そうにバクはそう答えるのだった。

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