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勇者が好きすぎる魔王は最強なのにあまり勇者に慕われていないようです。  作者: 日暮キルハ
魔王と過去

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41/41

全て終わるようです

「……」


「……この世界に来て、初めて助けてくれたのは君だった」


「……そんなの……嘘でしょ……?」


 信じられない。

 そんな表情を浮かべてユウキは言葉をこぼす。


「信じてもらうのが難しいのは分かってる。けど、全部事実だよ。俺は、この世界で数えきれないほどのやり直しを経験してきた。経験してきたからこそ、今がある」


 以前の周回。

 どれくらい前だったかは忘れてしまったけれど、その周回で全てを打ち明けたときもユウキは似たような表情をしていた。

 だから、信じてもらうのに時間がかかることは覚悟していた。


 大丈夫。時間はまだそれなりにある。

 時間をかけて信じてもらえばいい。

 うまくいけばユウキが真っ当に死ぬことができるまでの時間稼ぎくらいはできるはずだ。


「……ねぇ」


「なに?」


「……もし。もし仮に、あんたが言うことがほんとだとして、私があんたを匿ったあと、あんたはどうしたの? あの時は……気づいたら居なくなってたよね?」


「俺のこと、覚えててくれたんだ?」


「ううん。思い出した。見た目、結構変わってるけど、言われてみればあの時私が助けた人」


「……そっか」


 やり直す度にほとんど同じ道を辿っても、少しずつ辿り着く結果は変わる。

 俺のことを思い出すなんてことは今回の周回がたぶん初めてだ。


「それで、あんたはあのあとどうしたの?」


「……ユウキに軽く治療してもらって、それからユウキからも逃げて。正直、そこからはよく覚えてないけど……逃げてるうちに外に出てた。で、気づいたら森にいて、川に落ちたんだ。結構な急な流れの川でね。流されて意識を失って、気づいたときには先代の魔王様に助けられてベッドの上にいた。そこからは……うん。そこからも色々あったね」


 そして、これも恐らく初めてのできごと。

 半信半疑ながらもユウキが初めから俺の話に耳を傾けてくれるということもこれまではなかった。

 ユウキの目の前で聖女、神の作った人形を殺したのは初めてのことだったからそれが影響してるのかな。


「……色々。…………死んだの?」


「うん。数えるのもバカらしくなるくらいね」


 最初、信頼がなくて魔族に殺された。

 やり直しのなかで少しずつそれぞれのことを知って、少しずつ信頼関係を築いていった。


 それからしばらくして、次は先代の魔王様の首を狙う人間達に殺された。

 その度に、やり直しを繰り返して対応策を見つけて、誰かが死んだらまたやり直して、誰一人死なせず人間を殺した。


 やり直し続けるうちに、死を続けるうちに俺の体は少しずつ変貌していった。早すぎる肉体の強化に体が追い付かなかったのか、それとも短い期間に死を繰り返し過ぎたのか、気づけば半身は赤黒いグロテスクなミミズのようなものに覆われていた。


 そこまでしても、それでも俺にできることなんてたかが知れていて、先代の魔王様を死なせないためにはその魔王という立場を奪わなくてはならなかった。


 そして、俺は魔王となった。

 ユウキとの再会はそれから。


「あ、ちなみにだけどさ。君の仲間が君を殺す時もあったんだよ」


「……っ」


「だから、そこから先では君の仲間と君は引き離した。色々とやってみたんだけどね、君を死なせないためにはそれが一番だった。俺が君と仲良くなろうとすればするほどに君の死が近づくから」


「……どうして、そんなことに……」


「その方が盛り上がるからだよ」


「……?」


 そうだよね。

 こんな説明じゃ分かるはずがない。


「……信じられないかもしれないけど」


「とっくに信じられないことだらけよ」


 言われてみればそうだった。


「……たしかに。なら、話すけどさ、この世界は一柱の神が作った箱庭みたいなものなんだよ」


「……? 神様……?」


「うん。そいつはほんと性格最悪でね。箱庭のなかでの出来事を『物語』として楽しんでるんだ」


「……物語。……たしか聖女様もそんなことを」


「あれは神が作った箱庭での物語を自分好みの面白いものにするための道具だから」


「自分好みの……」


「あいつは救いのない悲劇を好む。そして、君は不幸なことにあいつの作る物語の主人公だった。……君が勇者に選ばれたのも、君の村が魔物に教われたのも、全部あいつの差し金だ。本人がそう言ってたから間違いない」


「…………会ったことがあるの?」


 あったことがあるなんてもんじゃない。


「うん。何度も台無しにされて何度も殺されて何度も挑んで……やっと殺した」


「……」


「でも、ダメだった」


 ほんと、あいつは最悪だ。


「この世界はあいつが作った箱庭だから、創造主が死ねば崩壊する」


「……っ」


「色々試してみたけど、あいつの思い通りにいかないようにしながらこの世界を存続させるのは無理だった。だから、俺はもう諦めた」


「……」


 だから、俺は一つ決めた。


「たぶん、今の会話も覗き見されてる。それを前提に話すけど、もしユウキに余計なちょっかいを出そうとしたらその瞬間にお前を俺は殺す。そして、やり直す。何度でもやり直す。やり直し続ける。……だから、死にたくなったら来い」


 俺の存在が露呈するのはできる限り避けたかった。

 箱庭の、神の作る物語の登場人物の一人だと思わせておきたかった。

 でも、聖女を殺したからにはそうはいかない。

 遅かれ早かれ神は直接手を下しに来る。

 それを防げたら、防げずとも少しでも長く時間を稼げたら、そのための脅迫。最後の手段。


「……本気?」


「……信じられないとは思うけど、本気だよ。できれば信じてほしいけど、証拠を示すことはできない。だから、信じてとしか言えない。……信じて」


 手を握り、一言、目を見て囁く。

 最初からうまくいくなんて思ってない。神が力の差も理解できない無能ではない以上、ある程度の時間は稼げる。だから、今はダメでももっと長い時間話し合えばいつかはきっと理解してくれる。


「……なんだか、あの時みたい」


「……たしかに」


 ユウキの呟いた一言に笑みが漏れた。

 かなり強くなって、ユウキを守る側に回ったと思っていたけれど、どうやら俺はまだまだ守られる側だったらしい。


「……正直、信じられない。嘘であってほしい」


「……うん」


「でも、もう私、あんた以外に誰も居なくなっちゃった」


「……俺と神のせいだね。……ごめん」


「だから、もし本当にいつかこの世界が終わっちゃうなら、その時まで……私の側に居なさいよ」


 視線だけをこちらに向け少し恥ずかしそうにユウキはそう言った。

 終わるかもしれない世界で一緒にいる相手として選ばれるくらいにはユウキとの関係性を俺は築けていたらしい。


「……もちろん。……せっかくだし結婚でもしとく?」


「調子にのるなバカ。どうせ向こうに戻っても誰もいないし、しょうがないからあんたで我慢してあげるって言ってるだけだから。別に……あんたのことなんかなんとも思ってないし」


「おかしいな。俺とユウキが結婚した時もあったのに」


「嘘でしょ!?」


「うん」


「殺す……っ」


「あははっ。ごめんごめん」


 でもね、ユウキ。

 信じられないかもしれないけど、ユウキが俺のことを好きだって言ってくれた時もあったんだ。

 だから、きっと今回もそこまでの高望みはしないけど、もう少しだけ仲良く。

 いつか、君が幸せでその側に俺も居られるように。


 もう悲劇は終わり。

 この箱庭のなかで、せめて笑って死ねるようにだけはしてみせる。

完結です。

これまでありがとうございましたm(_ _)m

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