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魔王は壁を修理するようです

「いや、まぁ俺が悪いのは分かってるんだけどね」


「魔王様、口ではなく手を動かしてください」


「そうですよ魔王様。俺らなんて完全にとばっちりすからね」


「あはは……悪い」


 魔王は壁を直している。

 バクとバロンはそれに付き合わされている。


 なぜそんなことになったのか。

 魔王が寝ぼけたままドアと壁を間違え力ずくで開けたからである。

 その衝撃音を聞きバクとバロンが魔王の寝室を訪れるとセレンが鬼と化していた。


「つーか、魔王様は朝に弱すぎますよ。もうちょっとシャキッとしてください」


「いやぁ、どうにも朝はきつい」


「就寝が遅いのでは?」


「いや、八時には寝てる」


「どんだけ寝るんすか……」


「……まぁ寝る子は育つって言うし……」


「育ってるわりには月一くらいの頻度で同じことやりますね」


「…………」

 

 バクにジト目を向けられ気まずそうに魔王は黙々と作業に戻る。

 そして、そんな魔王に軽くため息をつきつつバクも自分の作業へと戻る。


「……魔王様。人間が魔王様を討伐しに来たようですがいかがいたしますか?」


 誰一人言葉を発することなく黙々と作業を続けること一時間。

 唐突に開けられたドアからセレンがそう告げた。

  

「ん~? ユウキ?」


「いえ、別の人間です」


「へぇ、珍しいな。通していいよ」


「えっ? ここにですか?」


「うん、今手離せないし」


「あの……それでしたら私が相手しましょうか?」


「いや、わざわざここまで来させといて俺が会わないのは悪いだろ」


「…………そうですか……?」


 首を傾げながらも魔王の命令を尊重し下がっていくセレン。


「けど、魔王様」


「ん?」


「誰が相手するんですか? 俺達も手離せないですよ?」


「あー、アイズとかいない?」


「あいつの放浪癖は魔王様も知ってるじゃないすか」


「テネブルは?」


「別件で城を一週間ほど前から開けていたかと」


「うぬ……人員不足だな。さすがにここに乗り込んでくる奴相手に四天王より弱い奴をあてるのはどうかと思うし……」


「魔王様が壁に穴開けなければこんなことになってないんすけどね」


「…………」


 バクの言葉に魔王は黙り込む。

 そもそも三人がかりで壁を直す必要があるのかどうかを考えるべきなのだが作業に没頭している三人がそれに気づくことは無い。

 ここに『壁修理>襲撃者』という訳の分からない関係図が完成した。


「大人しくセレンに任せましょう」


「いや、でもまた迷惑かけるし」


「今更感凄いっすよそれ」


「ほっとけ」


 バロンの提案に異を唱える魔王だったがバクにあっさりと論破される。


「魔王ッ! 今日でお前は終わりだ!」


 とかなんとかくだらないことをやっているうちにセレンが部屋に襲撃者を案内していた。

 

「……おう」


 魔王、相手の勢いに完全に呑まれている。


「えっと……どうしよ?」


「セレン、その人間の相手を頼む」


 バロンが困惑する魔王に代わりセレンにそう指示を出す。

 それに対しセレンはこくりと頷き襲撃者に向き合う。


「なっ!? 魔王! 俺と闘え! 部下に丸投げして逃げるつもりか!!」


「つけあがるなよ人間。貴様程度、魔王様がわざわざ手を下すまでもない」


「いや、別に俺でもいいよ。その代わり……」


 こほん、とわざとらしく魔王はひとつ咳払いをして壁を指差す。


「壁直すの手伝って」


「…………は?」


★★★★★


「……終わった」


「……なんで俺はこんなことをしているんだ?」


 修復された、むしろ以前より綺麗になった壁を見て魔王は感動したように一言そうこぼす。

 そして、襲撃者ことクラウドはどこか遠い目をしてそう呟いた。


「思ってたよりも早く終わりましたね」


「だな。よかったよかった」


「では、私は仕事がありますので」


「うん、助かったよ。ありがと」


 一礼して去っていくバクとバロンを手を振りながら見送る魔王。

 そして、二人が去ったのを確認すると後ろを振り向く。


「よし、じゃあ()ろうか。ここじゃ狭いし場所を――――ッ」


 爆音が響いた。


 音のした方に魔王達が目を向けるとそこには無惨にも崩れ去った壁。

 そしてそれを為した赤い鱗の強靭な皮膚をもった巨大な生き物がいた。


「ド、ドラゴン!? なんでこんなところに……!?」


 モンスターはその強さに応じてEランクからSSSランクまで階級分けされており、ドラゴンはその中でも上位の存在ある。

 その強さは子供のドラゴンですらSランクとされ羽ばたいただけで町一つを壊滅させるほど。

 そんなドラゴンが魔王の寝室の直したばかりの壁をぶち抜いて入ってきた。


「一番弱い赤色……しかも子供。……ギリギリSランクって所か」


「子供では食料にもなりませんね」


「もっとでかくなってからだな」


「……お前ら……何言って……」


 どこかがっかりした様子の魔王とセレン。

 それを見てクラウドは唖然とした様子でほぼ無意識のうちに唇を動かす。


 ドラゴンは言うまでもなく難敵である。

 もはや災厄と言った方が適しているクラスのモンスターだ。


 だからこそクラウドはこう教えられてきた。


 ドラゴンに遭遇することがもしもあったならばその時は祈れと。

 死後に地獄に落とされることが無いようにただただ祈れと。 


 ドラゴンに遭遇するということは人間にとってはほぼ『死』と同義なのだ。


 だというのに、目の前の魔王とその従者は何と言ってのけたか。

 一瞬でも気を抜けばその瞬間命を失いかねない相手に対して「一番弱い」「食料にもならない」なんてふざけたことを言ったのだ。


 クラウドは半ば呆れ、そしてもう半分で目の前の生物に得体のしれない恐怖を感じた。


 虚言や強がりの類ではない。

 彼らの言葉にもそれを言った表情にも一切その様子は見受けられない。

 だからこそクラウドは理解できず、また理解したくなかった。


「まぁ、あれだ。壁壊されたのはムカつくけど子供のやったことだからな。……火山の中にぶち込むくらいで許してやろう」


 まるでイタズラをした子供を叱るかのようにそんなことを言ってのける魔王の事などクラウドに理解できるはずもない。


「怒ってますよね?」


「いや、全然」


 とんっと軽く跳躍しドラゴンの真正面に魔王は立つ。

 

「次、俺の部屋の壁ぶち抜いたら溶岩の中にぶち込むからな? ……消えろ」


「――ッ!?」


 ドラゴンは消えた。

 忽然とその姿を消した。

 何の前触れもなくその巨体を瞬きの一瞬の間に消した。

  

「よし! 変な邪魔入ったけど気を取り直してかかってこい!」


「………………いや、今日のところは止めとくわ」


 その後クラウドの鍛錬が以前より激しさを増したのはもはや言うまでもない。

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