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勇者が好きすぎる魔王は最強なのにあまり勇者に慕われていないようです。  作者: 日暮キルハ
魔王と過去

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それしかないようです

「……」


 殺された。

 また、殺された。

 乗りきったと思った直後の出来ごと。

 幸いだったのはほとんど痛いと思う暇もなく死ねたこと。


「……これと同じで、聖女も心が読める……?」


 結果を省みて、マオの脳裏に真っ先に浮かんだ考えはそれだった。

 震えてはいなかったはずだ。少なくとも外的な要因で自分が支配下にないとバレたわけではない。

 であれば一体原因は何か。

 確たる証拠がない以上、推測に過ぎない話ではあるが、マオは聖女が自分の持つ指輪の能力と同じ心を読む能力を持っているのではないかと考えた。


「…………」


 そこまで考えて、マオは打開策がないことに気づいた。

 もし仮に本当に聖女が心を読むことができたとして、それを防ぐ方法はない。仮にあったとしても防いだ時点で支配下にないことがバレて殺されるのがオチだ。

 そもそも聖女が支配下にないことを認識したのが心を読むことができる能力によるものという考えすら推測に過ぎない。

 そこからズレていればまた何もできずに殺されて終わる。


 死にたくない。

 当たり前の話だが、マオはそう思っていた。

 ただ、それは先ほどまでの恐怖に支配されたものではなかった。

 だからこそ考える。どうすればこの局面を乗り切ることができるか。

 あの悪魔のような女から生き残ることができるか。


「…………仕方ないよね」


 一つ、考えがあった。

 それはあまりにも博打的な要素が強い方法で、ここを乗り切ることができたとしてもその先が保証されるものでは決してないお世辞にも良策とは呼べない代物だった。


 しかし、現状を乗り切るためにはそれしかない。

 マオはそう決断した。


「……よし」


 そうと決まれば話は早い。

 周りを見渡して、話が終わりステータスの確認に入った頃だと理解して、マオは一直線に扉に向かって歩いていく。


「戦士様、何かご用ですか?」


 呼び止められた。

 当然だろう。扉の前に立つ兵士はきっとマオ達を逃がさないためにいるのだから。


「いえ、実はトイレに行きたくて……ステータスの確認は済んだので皆が確認している間に済ませておきたいなと。……王様が呼び出したのにこんなことするのはマナー違反だとは思うんですよ? けど、ほら、尿意って生理現象でコントロールできるようなものじゃないですし」


「……」


「ダメ、ですかね?」


「……そうですね。謁見が終わるまでは誰一人出すなと言われていますので」


 やっぱりダメか。

 まぁそれならそれで。


「そうですか。でも、それでは困るんですよね。だから、少し脅迫をさせてもらいます」


「……? 脅迫?」


「はい、脅迫です。人間誰しも人に知られるわけにはいかないこと、ありますよね?」


「……生憎だが、私は人に恥じるような真似はこの国を守る者として一切していない」


 指輪が光る。

 あらあら、これは思った以上に黒いことしてるなこの人。


「例えば……賄賂を受け取って犯罪者を逃がしたり、とかね?」


「……っ。……貴様ッ」


「トイレに行きたいだけなんです。いいですよね?」


「……たとえ、私が見逃しても他が見逃すとは……」


「それは貴方がなんとかしてください。今は結構ガヤガヤしてますからね、皆が皆こちらを見てるわけでもないですし。一人くらい抜け出したところで気づかないでしょう?」


「……」


「……」


「…………分かった。だが、約束しろ。面倒事は起こさないと、そして万が一見つかっても才能を使って扉を使わずに逃げたと証言することを」


「ええもちろん。面倒はかけませんよ」


「……」


 すっと扉の前から兵士が退く。

 そして、ほんの少しだけ扉を開けて人一人通り抜けられるくらいの隙間が生れた。


「ありがとうございます」


 マオは笑顔を向けてそこをこっそりと通り抜ける。

 ほとんど同時に扉は閉じられ隙間は消えた。


「……逃げないと」


 マオの策、それはこの城から、ひいてはこの国から逃げることだった。

 それが危険を伴う無謀とも呼べる代物であったことはマオも重々承知していたが、それでもそれ以外にあの状況を打開する手段は見いだせなかった。


「窓から逃げるか……」


 とにかく逃げて、それから少しずつこの世界のことを知っていく。そして、平凡に生きていく。

 それがマオのたてたこの状況においては贅沢とも呼べる目標。

 その達成の為にもなりふり構ってはいられない。

 正しい出入り口の存在なんて知ったものか。


 そろりそろりと足音をたてないように気を付けながら視界に入った窓に近づきゆっくりと開けて枠に足をかける。


「あら、随分とお行儀が悪いですね」


 背後からかけられた言葉にマオの背筋は凍りついた。

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