四回目に入るようです
「……」
クラスメイト達が聖女に傅いている。
例に漏れずマオもまた傅いていた。
「……」
結局、何も思いつきはしなかった。
他人の考えを覗くことができるというのは、非情に強力な能力であると言わざるを得ないが、この状況でそれがあったところで何の役にも立たない。
せめて、自分の身を守れる能力でないのなら意味がない。
ただ、それでもマオはこの三回目の命を諦めたわけではない。
前回、自分が殺された原因は何にあったか。
マオは考えた。
そして、恐怖にあったと理解した。
死への恐怖。聖女への恐怖。
そこから生じた聖女の管理下にあるならば起こり得ない震え。
それのせいでマオは死んだ。
慣れてしまえれば恐怖を克服できるかもしれないが、そんな人間離れした感性など生憎マオは持ち合わせていないし、持ちたいとも思っていない。
では、どうするか。
震えてしまわないように、違和感を抱かれないように、耐えなければならない。
根性論に訴えようという話ではない。
死ぬことを怖いと思うのも、震えてしまうのも、そんなのは極々当たり前の生理現象に過ぎない。
それを気合でどうこうなんて考えなしな行動、生き返るとはいえ命のかかったこの状況でやろうとは思えなかった。
震えないためにはどうすればいいか。
物理的に体を抑え込んでしまうというのも一つの手だろう。
だが、クラウメイト全体が同じ体勢でいるのだからそこから逸脱した体勢は取れない。
そして、そもそも体を抑えるにしてもそれで隠すことができる震えいうのは限度がある。
確実とは言えないだろう。
では、どうするか。
震えの原因たる恐怖を消し去る。
震えを消したいのなら、そもそも震えなければいいのだ。
震えてしまう原因さえなければ、恐怖さえなければ、問題は解決する。
言うは易し行うは難しではあるが、結局考えに考えマオはその結論に至った。
人間ならば当たり前に持っている感情をどうにかしようというのだ。当然簡単な事ではない。
しかし、マオは今のところ震えることなく傅くことが出来ている。
その理由はいくつかあるが、その一つが同じ出来事を何度も体験したことに対しての慣れだ。
死への慣れではない。そんなのは一度や二度死んだくらいでどうこうなるものではない。死の寸前に感じた痛みも熱さもつい先ほどのことのように覚えている。慣れるなんて到底できない。
慣れたのは、その他のことだ。
どれか特定の事ではない。
王が話すこと。騎士が話すこと。ステータスの話。聖女が入って来ること。何かおかしなことが起こること。
繰り返し体験しているそれに多少なりとも慣れたのだ。
それこそ、どんな順番で誰がどんなことを喋るのか。一言一句間違えないで覚えるくらいには。
マオが何かしら関与しない限り、起こる事象は変わらない。
そんな慣れが多少はマオの感じる恐怖を緩めてた。
だが、一番の要因はそれではない。
心眼の指輪。それによって得た他者の心を覗く力。
それによってできることできないこと試してみたいこと。
迂闊に動けないからかなりの制限はかかるが、ただひたすら考え行動に移していた。
それこそ、死と聖女に対しての恐怖を一時的とはいえ薄めることができるくらいには。
ずっと考えていた。
心眼の指輪の持つ可能性を。
他者の心を覗く。たしかにこのスキルによって生み出された指輪の能力としてそれは間違いがない。
しかし、それは結局マオがそうだと考えたに過ぎず、もしかすれば心が読めるというのは本来の能力から派生した副次的なものに過ぎないのではないか。
顔を上げることもまともにできないこの状況では力を試すこともままならないため、ほとんど推測を立てることしかできないが、それでも自分の持つ力に対してまださほど深い知識を持っているわけではないマオにとってはそれだけでも十分意味のあることだった。
考えれば考えるほどに思考はより深い所へと潜っていく。
深い所へ潜っていけばいくほどに恐怖は薄れ、震えなどというものとは無縁になっていく。
「……では、世界を一緒に救いましょうね」
「……っ」
聖女の満足そうな声にマオの意識がこの場へと戻る。
扉へと向かって歩いて行く聖女の姿にマオは数条遅れて理解した。
あぁ乗り切ったのか、と。
「…………あぁ、そうだ。貴方、私の支配下にありませんね。死になさい」
「……ぇ……」
だから、突然ふりかえってぞんざいにそんな言葉を投げかけた聖女とその直後に放たれた光にマオの理解は追い付かなかった。
★★★★★
さて、どういうことだろうか。
ほんの一瞬の強烈な痛みと熱さ。
それが終わったと思えば繰り返し見た光景。
つまりはまたしても殺された。
「……」
マオは考える。
死なないために何をすればいいのかを。
四回目が始まった。




