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魔王は空気が読めないようです。

「よくぞ召喚に応じてくれた。異界の戦士たちよ」


 何を言ってるのだろうか。

 それは多少の差異はあれどクラスメイト全員の総意に違いなかった。


「……あの、ここは……」


 ほんの数秒前までたしかに教室に居たはずだった。

 昼食のあとの古典というまるで寝るために存在するかのような時間をうとうとと教師の授業を子守歌代わりに受けていたはずだった。


 それが気付けば椅子も机もない、少し見渡せば悪趣味にも思えるほどの煌びやかな装飾の施された建物の中に居た。

 意味が分からない。

 

 ザ・玉座といったような椅子に腰かけた、ザ・王冠といったような帽子を被った男が言ったことも含めて何も分からなかった。


 そんな状況の中、一人の少年が声をあげる。


「ここはどこですか? あなた達はいったい誰ですか?」


 少年は自分だってこの状況に混乱しているだろうに気丈にもそう問いかける。

 まるでそれが自分の役割だと言わんばかりに。


「そうだ! どこだよここ!」


「もしかしてこれって誘拐? 私達眠らされてここまで運ばれたんじゃ……?」


「は? そんなの犯罪でしょ?」


「いや、でもさっきあの人召喚に応じてくれたとか言ってなかった?」


 少年の問いかけ。

 それを皮切りにクラスメイトの間にざわめきが広がる。


 ついさっきまでの静けさがまるで嘘のようだ。

 どうにも人間分からないことが多すぎると逆に静かになるらしい。


「これは失礼した。混乱するのも無理はない。……なにしろここはお前たちが居た世界とは別の世界なのだからな」


 まるで物語の中で登場する王様のような恰好をした男は全く申し訳ないなんて思って無さそうにまたしても理解の及ばないことを口にする。

 

「あの……別の世界、ですか?」


 静まり返った空間。 

 それを壊すように少年は口を開いた。

 

「あぁ、そうだ。フレイ、戦士たちに説明を」


「はっ。かしこまりました」


 その場の誰も未だ何が起きているのかを理解できていない。

 ただ、それでも状況は刻一刻と変わり続ける。


 フレイと呼ばれたまるで物語で見る様な騎士の恰好をした男は前に立つとつらつらと説明を始めた。


 その内容はにわかには信じられないものであった。


 この世界は元居た世界とは別の座標軸に存在する世界。

 この世界には魔法という概念が存在しており、その魔法の中の一つ、召喚魔法によって自分たちは召喚された。


 なぜ、そんなことをするのか。

 異界から召喚した戦士はこの世界の住人よりも優れた能力を持っているため戦闘員としてとても貴重だから。

 

 なぜ、戦闘員が必要なのか。

 人類の天敵である魔族は種族としての能力が人類よりも優れており、それに打ち勝つためには異界の戦士の力が必要だと判断が下されたから。 


 能力とは何か。

 この世界には『才能』と呼ばれる力が存在しており、それによって人々は身体能力に補正が与えられたり、才能に応じたスキルを習得することができる。


 才能はだれでも持っているというわけではない。

 むしろ持っていない人間の方が多い。

 だからこそ、才能を持つということはこの世界での勝ち組であることを意味する。


 そして、異界から召喚された人間は絶対に何らかの才能を所持している。

 才能の強さにも差はあるがそれでも才能を所持しているだけでそうでない人間とは比較にもならない力を持つことになるのだからその強さには疑いようがない。


 フレイと呼ばれた男の説明は分かりやすかった。

 だからこそ、その説明を理解できない者はその場に誰一人いなかった。

 しかし、状況を理解できた者は同時に誰一人いなかった。


「……あの……フレイ、さん……?」


「ふむ……君はたしか、コウキといったかな? どうかしたのかい?」


「……お話は分かりました。魔族との闘いには力が必要で、俺達ならその力になり得るということは。でも……それは俺達が手を貸す理由にはなりません。闘いということは危険があるという事ですよね? そんなものに付き合う道理はないはずです」


 コウキ、篠原(しのはら)光喜(こうき)は少し迷いながらもそう言い切る。

 

「……いや、そうでもないさ。闘わない戦士に価値はないからね」


 そして、フレイは体の芯が震えるほどに冷たい声でそう返した。


「……あの、才能ってどうすりゃ分かるんですか?」


 魔王は当時の事を思い返すといつも思うことがある。


 俺、ほんと場の空気読めてないなぁ。

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