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勇者が好きすぎる魔王は最強なのにあまり勇者に慕われていないようです。  作者: 日暮キルハ
勇者と正義

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29/41

魔王にとってそれはもう飽きるほど繰り返されたことのようです

 体が吹き飛ばされた。

 聖女の華奢で繊細な体が面白いくらい綺麗に吹き飛ばされた。


「……お、前は……」


「…………魔王……?」


 よろよろと、明らかに曲がってはいけない方向に曲がった左腕を右腕で抱きながら聖女は立ち上がる。

 そして、彼女がそんな状態になる要因を作った男を見て整った眉をひそめ言葉を紡ぐ。


 それはユウキにとってはよく慣れ親しんだ男。

 なぜ彼がそこに居るのか。

 彼が聖女に何をしたのか。


 何もユウキには理解できない。

 しかし、それでもユウキの前に立つ男は、その背中はこれまで何度も見せられた無防備なそれだった。

 それだけは理解できた。


「ユウキ、怪我はない?」


「……うん」


「そっか。良かった」


 聖女は魔王に警戒心をあらわにした目を向ける。

 ユウキは魔王に疑問のこもった視線を向ける。


 しかし、魔王がそれらに気を配ることなど微塵もない。

 相変わらずの彼のペースでそれらの一切を無視してユウキを気遣う声を掛けた。


「……ふふ、そうですか。あなたが魔王ですか」


「……」


 そんな魔王の様子に聖女は何を思ったのかいつも通りの笑みを浮かべそう語り掛けた。

 それに対し、魔王は聖女に視線こそ向けるものの何も言うことは無い。


「歴代でも最強の魔王。ドラゴンですら片手で制圧する、なんて話を聞いた時は尾ひれがつ付きすぎだと思いましたが。なるほど、たしかになかなかにお強いようですね」


「…………」


 気にせず言葉を続ける聖女。

 魔王はただそれを黙って聞いていた。

 冷めた目をして。


「……どうしました? 言いたいことがあるなら言ってもいいのですよ」


「…………」


 魔王は心底うんざりするような表情でただ見ていた。


「……あぁ、そういうことですか」


 一言も口を開かない魔王。 

 それを見て何かに納得したらしく聖女はまたしても一人呟いた。


「一定以上の力を持った者は人間や魔族という種族に関わらず、相手の力を覗くことができますからね。かく言う私にもそれはできるのですが、たしかにあなたほどの力があればそれも可能でしょう。そして、怯えてしまってるのですね? 私とあなたの力には――百倍以上の差がありますから」


「――ッ!?」


 聖女の言葉にユウキは息を呑んだ。

 二人の会話、というよりも聖女の一方的な語り掛け。

 そのほとんどを理解することはできなかったが、それでもその一言に関してはユウキにも理解できた。


 ユウキは魔王の強さを知っている。

 その強さを身をもって知っている。

 しかし、聖女は言った。

 聖女はその百倍の力を持っていると。


 その意味が分からないユウキではない。

 

 なぜ、聖女が魔王を倒さないのか。

 どうやってそれだけの力を手にいれたのか。

 

 それらの疑問は置き去りに絶望的な事実を突きつけられたであろう魔王に視線を向ける。














 ――ゴミを見る様な目をしていた。



「…………はぁぁ」


 これまで黙って聖女の言葉を聞いていた魔王。

 ようやく口を開いた彼の最初の言葉は言葉ですらない重いため息だった。


「……なんですか? その態度は」


「……いや、なんというかほんと……毎度毎度飽きもせずに同じような事しか言わないなって思ってさ」


「……?」


「あー、いいよ。どうせお前には分かんないだろうし」


 がっかりしたような、すでに興味を無くしたような、そんな雰囲気を感じさせる魔王の話し方。


「……随分と、知ったような口を利くのですね。図に乗るなよ、たかだか魔王風情が」


 そんな魔王の態度に小さくはない怒りを感じたようで聖女はこれまでにないほど冷たい声でそう言った。


「おーおー、化けの皮が剥がれそうになってるぜ。大体、図に乗ってるのはどっちだよ。……たかだか神が作った(・・・・・)人形(・・)の分際でさ」


「……っ。……どういう意味ですか? 皮肉のつもりなら――」


「そのまんまの意味だよ。この不良品が。まぁ、作った奴も出来損ないだから仕方ないか」


「――ッ!! ……貴様……たかだか魔王の分際で……箱庭のパーツに過ぎない存在で!!」


「……ほんと変わらないな」


 魔王の言葉にみるみるうちに顔を赤い憤怒の色に染めた聖女はこれまでの彼女からは想像もできないような怒りの形相のままに魔王へと襲い掛かる。

 それを見て魔王は呆れたように静かに一言そうこぼした。


「お前を殺すのもいい加減飽きた。もう二度と出てくるな。『消えろ』」


 そして、魔王は変わらぬ調子でそう続けると手を前にかざす。

 次の瞬間――聖女はその体を一欠片も残すことなく消えていた。


「…………え?」


 それは明らかに異常な光景。

 地面や壁に残った損傷は間違いなくそこで何かしらの戦闘があったことを示している。

 にもかかわらず、それに関わったはずの女の体は一切存在しない。

 ユウキの意思とは関係なく口から言葉が漏れ出た。


「……ユウキ」


「……何、したの?」


「……本当は、もっと段階を踏んだり、色んな説明をしたり、納得できるような言葉とかがあったり、他にもいっぱいの事があってそれでやっと少しはうまくいくんだ。でも、もう俺は闘うつもりはなかったから。俺が順序よくやっていかなかったのが悪いっていうのは分かってるんだ。……でも、ごめん。時間がないんだ」


「何、言ってるの? 全然分からない」


 会話がかみ合わない。

 それはいつもとそう変わらないこと。

 しかし、魔王の様子はいつもとは違いすぎた。

 

「だから……俺は君を攫う」


 そしてそのまま何も分からないままに、言葉の直後、ユウキの意識は暗転した。


ここでひとまず二章は終わりです!

ここまでお付き合いいただいた皆様、ありがとうございます!

次章更新再開は7月5日を予定しております。

かなり遅くなってしまいますが、何卒よろしくお願いします。

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