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勇者が好きすぎる魔王は最強なのにあまり勇者に慕われていないようです。  作者: 日暮キルハ
勇者と正義

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26/41

魔王は後悔はしないようです

「…………ミスった、な」


 ユウキに軽蔑の目を向けられ、弁解することも叶わず、最悪の状況のまま自身を除き誰も居なくなったその場所で、魔王は変わらず装飾の施された人一人が座るには大きすぎる椅子に腰かけたままそう呟いた。


 その声に感情は宿らず、一見すれば状況を客観視、達観視しているようにも見えないことは無いが、その実それは全くの見当違いで、魔王の精神状態は極めて不安定なところにあった。


 それこそ今すぐ椅子から立ち上がって、瞬間移動に超加速に空間に穴を開けるなんてことを組み合わせてユウキを追いかけたいくらいだった。


 しかし、それでも魔王が動かないのは、規則的にコツコツと自らの頭を突きながら足を組んだまま椅子に座り続けているのは、ひとえにそれをすることの無意味さを知っていたからだ。

 数多の経験が、数多の失敗が、魔王にそれを嫌というほどに思い知らせ感情による衝動的な行動を封じる。


「……どうしようか」


 だから、魔王は考えるのだ。

 状況を覆すための策を。


「……にしても、嘘つき、か……」


 そして、一言寂しそうにそう呟いた。


★★★★★


 ユウキは知っていた。

 魔王は魔族の長であり、自分の敵であると。

 だから、魔王が勇者である自分に不都合なことを企てるのは至極当然のこと。


 理解できない点はあったものの、それを尋ねたからといって魔王に答える義理はなく、魔王の真意を知ることができないのも納得はできずとも仕方のないことだと理解はできる。


 しかしそれでも、それをふまえても、ユウキは許容できなかった。

 魔王が自分に嘘を吐いたことを許すことができなかった。


 勿論、それが許す許さないの関係にないことはユウキもよく理解している。

 それでも、頭でそれを理解していても心がそれを受け流そうとしなかったのだ。


 魔王は敵で、しかしユウキを認める数少ない存在で。

 だからこそ、ユウキは魔王の嘘を許すことができなかった。


 心のどこかで思ってしまっていたのだ。

 魔王は自分に嘘を吐かないと。

 期待していたと言ってもいい。


 勇者という才能に恵まれた、もしくは憑りつかれてしまったユウキの人生はその多くが嘘と責任と嘲笑と共にあった。


 勇者様は世界を救う御方だと誉めそやす従者は裏で生まれ故郷すら守れない愚鈍な勇者と嘲笑い。

 勇者様ならばいずれは魔王を倒せると励ました司祭は歴代でも最弱の勇者とバカにした。


 相対した多くがユウキを嘲笑う。

 彼女が勇者という才能を持ちながら、成すべきことを成せていないから。

 生まれ故郷を守ることすらできなかったから。

 両親をむざむざ殺されてしまったから。

 歴代の勇者と比べても弱すぎるほどに弱かったから。


 違いはそれを表立って口にするか、隠れてこそこそ嘲笑うかの違いだけ。

 結果は同じだ。

 しかし、それでもその違いはユウキにとっては大きすぎる違いだった。


 だから、ユウキは嘘を嫌う。


 だから、ユウキはその発言も挙動も多くが理解できずとも、真正面からユウキと向き合い、ユウキの成長を認める魔王に敵でありながらもある種の信頼を持っていた。


 そして、魔王はそれを裏切った。


「嫌いだ、あんな奴……」


 魔王と勇者という関係上、いつも小競り合いはするし喧嘩だって当たり前にあるのだが、今回のそれは今までのものとは違った。

 瞬間的な怒りは、瞬間的に冷める。

 今回はその反対だった。


 それを証明するかのように、いつもなら怒ってはいても魔王城から戻るころには冷めているはずの熱が一切冷めることなくユウキに言葉を紡がせる。


「……そこにいるのはユウキですか?」


「……聖女、様」


 その怒りには行き場がない。

 勝手に期待して勝手に失望するなんてそんなのは自分勝手な我儘に過ぎない。

 魔王という諸悪の根源に勝手に期待した自分が悪い。

 

 そうやって自分の中で結論が出てしまってはいても、それでもやり場のない怒りをうまく消化できないユウキに背後から声が掛けられる。

 それに振り返ったユウキが見たのは、ユウキを勇者にした女だった。

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