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勇者が好きすぎる魔王は最強なのにあまり勇者に慕われていないようです。  作者: 日暮キルハ
勇者と正義

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魔王の弁解は届かないようです

「何のためにそんなことをしたの? どういうつもりでそんなことをしたの? あんたに何か得があった? ないよね? こんなこと言いたくないけど、あの頃の私達とあんたの差はあんたがわざわざ僧侶を私達から引き離さないといけないようなものじゃなかった。なのに、どうして裏から手を回すような汚いことをしたの?」


 トリナという少女の話。

 魔王がそれを受けて最初に思ったのは、どうやってごまかすかということだった。


 誰がどう見ても不誠実なその考えだが、魔王にとっては正直に全てを白状するほうがよほどユウキに対して不誠実であり、同時に言ったところで仕方がないことだった。

 ゆえに魔王は思考を張り巡らせる。

 いかにしてこの最悪な偶然を切り抜けるかを。


「……まず一つ。あの僧侶ちゃんが言ったことが本当に真実だと思う根拠は何かある?」


 魔王は人差し指を立て、そう切り出す。

 動作に深い意味はない。

 深い意味はないが、魔王の精神状態的に何らかの無駄とも取れる行動を交えていなければ、思っていることがボディランゲージに現れそうだった。


 それくらいには魔王も追い込まれていたのだ。

 もっとも、表面上はいつもと変わらず涼しい顔をしているのだけど。


「トリナが言ったことを疑う必要があると思う?」


「ユウキが僧侶ちゃんを疑わない事を知っているからこそ、適当な事を言ったという可能性は考えないの?」


「そんな嘘を吐く必要がどこにあるの?」


「そりゃあ、ユウキ達の前から姿を消した理由が他にあって、尚且つその内容を絶対にユウキに話したくない場合とかさ」


 ユウキは素直な子だ。

 かつての仲間の言うことを疑う事なんて決してなかっただろう。

 だから、そもそも本当に僧侶の言ったことが本当だったのかという疑念を持たせる。


 魔王はそんな考えの下、一切の迷いも動揺も見せずに言葉を紡いだ。

 もっと直接的に、僧侶の行動のおかしな点を挙げていくことで疑念を持たせるという手も考えはしたが、それはほとんど意見の押し付けになってしまうのでやめた。

 魔王はあくまでもユウキ自身がトリナへの疑念を抱くように話を持って行きたかったのだ。 


「……仮に、もし仮にそうだったとして。もし仮にトリナが私に嘘を吐いていたとして、それならそれでもっと良い嘘があるはずでしょ? わざわざ私を困惑させるような、筋が通らないような嘘を吐く必要がどこにあるの?」


「…………っ」


 そして、魔王のそんな浅はかな考えはユウキの返答によっていとも容易く打ち砕かれ、微かに表情を歪ませるという失態を魔王に犯させた。


 魔王は、考えていなかった。

 ユウキが魔王の言葉を受けてそれをはねのけずにそれをふまえた上で話を進めるなどということを微塵も考えていなかった。

 どこまでも魔王はユウキを甘く見ていたのだ。

 何度もユウキの成長を目の当たりにしてなお、魔王は成長せず、ユウキの事を測り損ねた。


 きっと、ユウキは自分の言ったことを即座に否定するだろうと。

 そんなことがあるわけない。適当な事を言うな。と怒るだろうと。

 それを言うだけの根拠も何もないままに感情のまま怒るのだろうと。


 そんな風にユウキをまるで自らの感情にひたすら忠実な幼い子供のように考えていた魔王がユウキに返すことのできる言葉(ウソ)など持ち合わせているはずもなかった。


「……それは……」


「ごまかしなんていらない。……本当の事を教えて。あんたは何のために私からトリナを、ううん、皆を引き離したの?」


 そして、それに続いたユウキの言葉にも、返せるウソ(言葉)なんて持ち合わせてはいなかった。


「それ、は……」


 ありとあらゆる予定の話は崩れ、魔王に残ったのは困惑と背筋を流れる嫌な汗だけ。

 問われた質問一つ、今の魔王は答え(ごまかし)を持たない。


「俺は……その……」


 それでも魔王は頭を回す。 

 ありとあらゆる経験によって使う必要が消えかけていた、そんな頭を必死になって回した。

 

「あの時……あの時、俺は思ったんだ」


 そして、一つの答え(ウソ)を思いついた。


「……たしかにユウキ達一人一人は大したことなかったけど、ユウキが勇者として育った時に優秀な回復役がいるのはマズいって。……だから、悪いけどユウキ達から離れてもらった」


「……本当にそんなことを考えてたなら、あの時私達を殺せばよかったんじゃないの?」


「あのな……何回でも言うけど、俺はユウキが好きなんだって。好きな子殺すバカがどこにいるのさ」


「……だったら、トリナを殺せば」


「そんなことすれば絶対にユウキは俺を許してくれなくなるだろ。論外だよ」


 ――うまい嘘はそのほとんどが真実で出来ている。

 

 魔王の持論であり、これまでの経験に裏付けられた魔王にとっての正論。

 真実と異なるのは一つだけでいい。

 嘘が増えれば増えるほどに、嘘を嘘と気づかせないがために嘘を吐くことになる。

 そして、最終的には一つの嘘がバレると同時に全てがバレる。


 だから、魔王は僧侶をユウキから引き離した理由の一点を除いてその嘘のほとんどを真実で構成する。

 

「……そう」


 ユウキに本当の事を話さなくても済むように。

 言うだけ無駄な、誰一人信じることができないであろうことを話すことを避けるために。


「嘘つき」


 そして、魔王はその代償に愛する少女の信頼を無くした。

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