勇者と過去の仲間は仲違いしていたようです
「……どういう意味か、聞いてもいいかな?」
「そのままの意味よ。あんた、私の仲間に何かした?」
一直線に、射抜くように、ユウキは魔王を見つめそう言った。
「そりゃあ、勇者の仲間なんだからボコボコにはしたよね」
「そういう事じゃない。……意味、分かってるんでしょ?」
「…………」
ユウキのいつにもなくまじめなその姿にようやく魔王は今の状況はいつもの魔王と勇者の関係性のそれではないということに気付く。
これは、魔王にとってもあまり望ましい展開ではないということにも。
「私が言ってるのは……あんたが何の目的があって、私の仲間を私から引き離したのかってことよ!!」
「……っ」
そして、ユウキの言葉に、ほんの少し表情を歪め、魔王は下を向き黙り込んだ。
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「…………はぁ……絶対に言いすぎた……次に行く時ほんとにどうしよう……」
呼ばれなければ二度と行きたくはない。
しかし、ユウキが勇者であり、魔王が、魔族がこの世界に存在する限りはきっといつかはまた呼ばれる。
そうなった時の事を考え、もう少し王に対しての言い方を考えるべきだったとユウキは遅すぎる後悔をしながら、城から彼女の住む家へと戻る道を歩いていた。
「…………ユウキ……?」
そんな時だった。
トボトボと憂鬱な気持ちを表現するように歩いていたユウキに声が掛けられたのは。
「……トリナ……?」
かけられた声の方に視線を向け、その存在を視界にいれ、ユウキは息をのんだ。
その少女は、白い髪をしたその少女は、かつて頼れる僧侶としてユウキと旅を共にした少女だったから。
一度目の魔王討伐。
そこでこっぴどくユウキを含めた面々は魔王にやられてしまった。
トリナはそこで魔王討伐を諦めた少女だった。
その後、トリナはユウキ達の前から姿を消した。
まともに連絡を取ることすらなかった。
国を出たのかもしれないとすら思っていた。
そんな少女が今ユウキの目の前にいるのだ。
驚かないなんてできるはずもなかった。
「トリナ! 今までどこに――」
「――ごめん」
聞きたいことは山ほどあった。
なぜ、自分たちの前から何も言わず姿を消したのか。
なぜ、これまでただの一度も連絡を取ろうとすらしなかったのか。
今までどこで何をしていたのか。
しかし、そんなユウキの気持ちを置き去りに、トリナはユウキに背を向け駆けた。
「――ッ!? ま、待って!! トリナ!!」
ユウキには何も分からない。
なぜ、これまで一度も姿を見せることのなかったトリナが今このタイミングで現れたのか。
なぜ、自分を見て逃げるように走り出したのか。
ユウキには何も分からない。
分からないけれど、追わないわけにはいかなかった。
「待ってって、言ってるでしょ!!」
トリナは極めて優秀な僧侶だった。
しかし、その身体能力は並の人間とそう多くは変わらない。
そもそも僧侶という役割は肉弾戦を想定したものではない。
魔法による肉体強化もあるにはあるが、それもたかが知れている。
未だ発展途上とはいえ、勇者であるユウキから逃げるなんてことができるはずもなかった。
走り出してからほんの数秒後、ろくに距離を取ることもできず、トリナはユウキに捕まえられた。
こうなってしまえば、非力なトリナではユウキから逃げることなどできはしない。
「……はぁ、はぁ……」
「……なんで、逃げるの?」
まずは、それだった。
聞きたいことは山ほどあったけれど、まず聞くべきことはそれだった。
「…………」
「……答えて」
顔を逸らせ視線を合わせまいとするトリナにユウキは詰め寄る。
「なんで、今日まで連絡も取ってくれなかったの? 今までどこにいたの? 今まで何をしてたの? なんで……なんで、私と一緒に闘ってくれなかったの? 何も言わずに居なくなったの?」
トリナの肩を両手でがっしりと掴み、トリナの目を見据えてユウキは尋ねる。
声は震えた。
それだけユウキのなかでトリナとの再会は大きな意味を持っていた。
突然自分の前から姿を消したかつての仲間はそれだけユウキの中で大きな割合を占めていた。
どうして?という疑問があった。
自分の弱さが原因かもしれないという不安があった。
知らなければならない責任があった。
だから、声を震わせユウキは尋ねる。
過去を清算するために。
「…………私、は……」
トリナはそんなユウキを見て、ユウキと同じく震えながら、その口を弱弱しくも微かに動かす。
「私、は……」
そして、語った。
「魔王に脅されたの」
姿を消すに至った要因を。




