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勇者は残念な子だったようです

「…………」


 当時、勇者ことユウキは結構、というよりかはかなり図に乗っていた。

 しかし、彼女の過去の為にこれを弁解するならばこれは仕方のないことでもあったのだ。


 彼女には人間の間でも極めて優秀な三人の仲間がいた。


 魔法使いの使う攻撃魔法はその絶大な威力ゆえに使えば必ずと言ってもいいほど周囲一帯が更地となった。


 戦士の振るう剣はどれほどの硬度を誇るものであっても、例えば巨大な岩であったとしても、まるで豆腐でも斬り裂くかのようにいともたやすく斬り伏せた。


 僧侶の祈りの奇跡はまともな治療法ではとても間に合わないような怪我であっても瞬時に癒し、一部では死者すらをも蘇らせるなどという噂すらもがあった。


 勇者たるユウキには、それこそ下手をすれば彼女をも凌ぐ優秀な仲間たちが居た。

 

 そんな訳なので彼女の勇者としての旅は何の危険も何の困難もないままにここまで来てしまった。

 現れるモンスターは素材でしかなく、過酷な環境は魔法使いの前には無意味でしかなく、道を塞ぐ障害物は戦士の前には紙切れのように脆く意味を持たないものでしかなく、どれだけ恐ろしい毒や病も僧侶の前には風邪以下の存在でしかなかった。


 そんなぬるい旅を送ってきたのだ。

 だから仕方がない。

 そう、仕方がないのだ。


 敵対する魔族の長たる魔王に対して「あんたが魔王? 泣いて命乞いするなら奴隷として命くらいは助けてあげるかもしれないわよ?」なんて舐めた態度をとってしまったのも仕方のないことなのだ。


★★★★★


 当時、魔王は己の強さを人間に見せつけその恐怖を刻み込むことを当面の目標としていた。

 何の目的もなくそんなことをしていた訳ではない。

 当然人間を支配しようとしていたわけでもない。


 もっと単純な話。

 彼は人間に魔族達の事を放っておいてほしかったのだ。

 

 魔族と人間の間には致命的なまでの誤解や認識の違いが存在している。

 しかし、それを修正することはもはやまともなやりかたでは不可能な段階にまで来ていることを魔王は知っていた。

 それこそそんなことになった元凶を潰しでもしない限りはどうにもならないと魔王はよくよく理解していた。


 だからこその妥協に限りなく近い魔王にとっての間違いなく最善の策。

 人間に魔族を襲わせないための策の一つだった。


 人間は適当な理由をつけて魔族を襲うから魔王はその理由を奪うことにした。

 それが魔王城までの道。


 そして、魔族を襲うことに対してのメリットをデメリットで消し去り魔族を襲うことをやめさせようとした。

 それが魔王の力を見せつけることの目的。


 つまるところ、魔王は舐められるわけにはいかなかったのだ。


「えっと……とりあえず泣いて命乞いでもしてみる?」


 その結果、勇者一行は始まるまでもなく、それ以前に何が起きたのか理解する事すらできず、無様に魔王城の床の冷たさを全身で味わうことになった。


 ――と、まぁここまではよかったのだ。


 勇者一行からしてみればたまったものではないのかもしれないが、言ってしまえばこれは所詮魔王が調子に乗った身の程知らずの愚か者を叩きのめしたというだけの話に過ぎず、魔王と勇者という敵対する関係上あったところで何らおかしな話ではない。


 問題なのはそこからだった。


「……ところで、ユウキ」


「……?」


「俺のお嫁さんになる気はない?」


 魔王が血迷ったこと言い出したのだ。


★★★★★


「いや、まぁあれはさすがに結果を焦りすぎたと反省してるよ」


「反省するところそこじゃねえよ」


「部下が辛辣すぎる……」


 過去を振り返り過ちを認めた魔王だったが、どうにもそれはバクにとっては納得のいくものではなかったようで吐き捨てられた言葉に魔王はうわ言のようにそうこぼす。


「どう考えたって焦りすぎたとか以前のところにでかすぎる問題があるでしょうが……」


 そして、そんな傷心の魔王に対し呆れたような視線を向けてバクはそう言葉を返した。

 

「……問題?」


「いや、あんた……そもそも相手の事ほとんど知らなかったでしょうが」


「ユウキの事なら何でも知ってるまであるけどな」


「気持ち悪い……」


「ねぇ、本気で引いてるみたいな感じにするのやめて」


「感じじゃなくてマジなんですけど」


「心なしか死にたくなってきた」


 ゴミでも見る様な目で自身に視線を向けるバクに対し魔王は反論を展開するが、ものの見事に更にテンションを下げることとなった。


「……そもそも、これは何度も言ってることですけど……あの女はどこまでいっても勇者で貴方の、俺達の敵ですよ?」


 ガクリと頭を垂れる魔王。

 そんな状態の彼にふざけた様子の一切を捨て重々しい口調でバクはそう切り出す。


 当然と言ってしまえばそれまでの事ではあるものの、やはりバクには魔王と勇者の関係が良いものには到底思えなかった。

 初対面から今までずっとだ。


 だから、バクは自分が本気だと分かるように、適当にごまかさせないために極めて重苦しい口調でそう告げた。


「……バク、恋の前には身分なんて関係ないぜ!」


「お前はもうちょっと自分の立場を理解して自重しろ」


「それ絶対ブーメラン……」


 もっとも、そんなバクの考えなど知ったことかとでもいうような風に魔王は相も変わらずへらへらとしているのだが。


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