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だからと言って何かが劇的に変わるわけでもないようです

「……魔王は?」


「顔パスで城まで入ってくるのやめてくれる?」


 自室で横になって日頃の疲れを癒していたバク。

 そんな彼の休息は突然自室の扉が鍵を壊されながら開けられたことによって終わりを告げた。


「だって誰も私が城に入るの止めないし……」


「あと、俺の部屋の鍵壊すのもやめてくれる? というか人の部屋の扉ノックも無しで開けるのやめてくれる?」


「魔族ごときが常識を語らないで」


「その魔族ごときに常識語られる時点で――」


「そんなことより魔王はどこ?」


「そんなことよりって……はぁ。まぁいいけど……魔王様なら今城を空けてるぞ? なんかゴミ掃除がどうのこうの言ってたと思う」


 プライベート?そんなもの知ったことかとでも言うかのようにバクの極々当たり前の権利の要求をはねのけるとユウキはもう一度バクに魔王の事を尋ねた。

 それに対し何も感じないわけではないものの言ったところで目の前の人間がそれを素直に聞くとは思えず、時間の無駄になることが嫌というほどに理解できてしまったために呆れたようにため息を一つ吐くとバクは自分の知り得る限りの情報をユウキに与える。


「……つーか、魔王様と揉めてたんじゃ? てっきりあと一月は気まずくて顔出せないかと思ってた」


「なっ、あ、あいつと揉めるのなんて当たり前でしょ! 大体この間のは全部魔王が悪い! ずっと私のことバカにしてたんだよ!? 信じられる!?」


「いや、知らんけど……。……まぁ、どのみち魔王様が本気なんかだしたらお前たぶん一瞬で肉片になるぞ?」

 

「……っ」


 バクが何気なく放った一言。

 それはいつもならばきっとユウキを多少怒らせる程度の物でしかなかった。

 けれども今回に限って言えば、魔王の力の一端を見てしまった今のユウキにとっては、それは冗談などというもので済まされてしまうほど簡単なものではなかった。


 ゆえにその表情には陰りが生じる。

 そしてバクという男はそれを見過ごしてしまえるほど鈍い魔族ではなかった。

 気づかないふりという手がないわけではない。

 しかし明らかな地雷を踏んでおいて都合が悪くなったら知らんふりができるような器用な魔族ではバクはなかった。  


「……いや、まぁ……その……」


 ゆえになんとか一気に冷え切った空気をなんとかしようと画策する。


「ほら、どうせお前じゃ俺にも勝てないんだから魔王様に肉片にされるのは至極当然のことなんだからへこむことはないだろ」


 もっともそれが結果につながるかはまた別の話なのだが。

 

「…………」


「…………」


「…………ふふっ」


 完全な静寂が二人を包んだ。

 そしてそれはユウキの乾いた笑い声によって破られる。

 

 バクとてバカではない。

 乾いた笑みを顔に貼りつけたユウキを見れば自分の発言がどういう結果をもたらすに至ったかなど分からないはずもない。


「『神焔滅斬』!!」


 何かが爆発する音と微かな悲鳴が場内に響いた。


★★★★★


 帰ってきて家が壊れていたと仮定しよう。

 一体どんなリアクションになるだろうか?


「えぇ……」


 魔王は色々と崩れかけている城を見て声にすらなっていない声をあげた。

 一切ネタにならない最低のリアクションだ。


「……なんかめちゃくちゃ失礼なこと言われたような……いや、今はそれよりもこっちが先か。おーい、怪我人とかいるー?」


 この際城が崩れるなんてのはよくあることなので後回しにすることを魔王は決めた。

 となれば真っ先にすべきなのは城にいた、もしくは今も城の中にいる魔族達の救出と治療。

 

 魔王とて万能ではない。

 壊すことに関してはともかく治すということに関して魔王はかなり無能だ。


 ゆえにその表情には多少なりとも焦りの色がにじんでいた。

 信頼できる四天王という部下がいる。

 なんならその信頼できる部下によって城が壊された可能性が無きにしもあらずといった風なことはあるものの、それでも彼らが居ればそうそうマズイことにはならないだろうとは魔王とて理解している。


 しかし、だからと言って心配しないということにはならないのだ。


 ――~~~ッ!!


 何かが壊れる音がした。

 壊れていく城とは別のたった今衝撃を受けて何かが壊れた音が。


「いや! だからほんと悪かったって!」


「あんた達のそういうデリカシーに欠けたところが一番ムカつくのよ! 魔王もあんたもほんと最ッ低!」


「ちょっと待て! さすがにあの人に比べたら俺はまだデリカシーに満ち溢れてるだろ!? つーかあの人と比べられること自体心外だわ!」


 次に魔王の耳に届いたのは男女の言い争う声だった。

 聞き覚えのある声に滅多打ちにされていた。


「デリカシーに溢れてる!? そもそも比べる基準がどうかしてると思わないの!? あんな何も考えずに生きてるような奴と比べて満足!?」


「だから! 俺だってあんなフィーリングとノリだけで生きてるような人と比べたくなんてないっての! けど先にお前が俺とあの人をひとくくりにするから!」


 散々な言われようである。

 そして、城が破壊されていく原因もおおよその予想はついた。

 とはいえ早速どうこうしようという気にはなれないのだが。


 たしかに城はすでにボロボロで修理とかもはやそういう次元ですらなくなっている。

 建て直しの請求書をユウキあてに送りつけたら下手をすればユウキが買えてしまうだろう。

 とはいえ壊し方がうまいので魔王が恐れているような被害は絶対に出ない。


 もっともそれが分かっているからこそ魔王は他に気を回すことがなく結果的に信頼を置く部下と想い人からの容赦のない罵倒をもろに受ける羽目になっているのだが。


「ってかなんで俺が罵られてるのさ……揉めてるの二人じゃん……」


 出ていくべきか、出て行かざるべきか。


 仮に今出て行けばそれは二人の言い争いを見ていたと白状することに他ならずどう考えても気まずい、もしくはなぜか責められることになる未来しか魔王には見えなかった。


 では、出ていかなければどうなるだろうか。

 考えるまでもなくこのままサンドバッグ同然に言葉の暴力で精神面をボロボロにされることになる。


 ならば、第三の選択肢としてここはひとまず離れるのはどうだろうか。

 魔王みたいな小心者がそんなことをしたものなら「もしかしてあんなことやこんなことを言われてるんじゃ……」なんて勝手な被害妄想抱いてもっとろくでもない結果になるのが目に見えている。


「……こ、こほんこほん! あ、あー、疲れたなぁー。ゆっくり休もうかなぁ!」


 ゆえに魔王はその全てを避け新たな選択肢『今来たんだよアピール』をすることにした。

 これならば話を聞いていたとは二人に思われないので気まずいことにはならず、盗み聞きの疑いをかけられることもない。

 そして、魔王が来たことによってさらさらと吐き出される罵倒の数々もその勢いを止めるだろう。


 魔王にしてはよく考えたことである。


「あ、魔王。あんたもっと色々考えて生きなさいよ!」


「魔王様! 魔王様がそんな適当だから俺まで言われるんですよ!」


「……えぇ」


 もっとも二人が魔王の思った通りに動くとは限らないのだが。

これにてひとまず一章は終わりとさせていただきます。

二章の開始はかなり遅くなるのですが来年の1月1日からとさせていただきます。

これからもよろしくお願いします。

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