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勇者が好きすぎる魔王は最強なのにあまり勇者に慕われていないようです。  作者: 日暮キルハ
魔王と日常

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魔王は実力の出し惜しみをしていたようです

「今日こそあんたの最期よ!」


 そんな魔王にとってはもう何度聞いたかも分からないほどに何度も聞いた言葉と共にユウキは魔王に斬りかかる。


「なんか今日は気合い入ってるねー」


 そんなユウキの剣を全て紙一重でかわしながら魔王はいつもと変わらず軽口を叩く。


「はぁあああっ!!」


 ならばと更に一歩踏み込みユウキは剣を振るう。


「ふむ……前に来たときよりも腕上げたね」


 しかし、それでも魔王には届かない。

 まるでユウキの振るう聖剣が魔王の体をすり抜けているかのように残像だけを斬り裂いていく。


「そうやっていつもバカにして! 『神焔滅斬』!!」


 しかし、そんなことはユウキにとっても日常でしかないのだ。

 だからこそ止まることなく更にその速度を増し攻撃を繰り出していく。

 

「――ッ! これは……!」


 いくら速さを増そうとも、いくら圧倒的な攻撃力を持った一撃であろうとも、魔王には当たらない。

 だからこそ魔王は「まだまだだなぁ……」なんて甘いことを考えつつ身を捻りユウキのスキルを纏った一撃をかわす。


 しかし、それこそがユウキの狙いだった。


 魔王の体をぐるりと囲うように存在する光の巨大な手。

 それは魔王の常識を逸脱した力をもってしてもほどけはしない。

 

 否。それは魔王だからこそほどけないのだ。

 勇者の光魔法はとりわけ魔族に対しては強力な効果を持つ。

 その力が魔王の持つ力すら上回り魔王を縛る。


 本来ならば魔王とて自分の力すら上回る拘束などかわしていたに違いない。

 しかし魔王自身の油断、そしてユウキの狙いだった「『神焔滅斬』によって巻き上がる砂ぼこりの煙幕」が身動きを封じられるという無様な結果を招いた。


「敵意がないとやっぱり気づきづらいな……これはやられた」


 光の手はあくまで拘束を目的としたもの。

 ゆえにそこに殺意はなく、微かに存在したはずの敵意もユウキから魔王に発せられる敵意によって上塗りされていた。

 

 それもまたユウキの狙いの一つで自分が捕まってしまった要因なのだろう、と魔王は眼前に迫ったユウキの聖剣を前に考察する。

 もっとも全ては手遅れだ。


 この状況からではとてもじゃないがユウキの剣をかわすことは不可能だろう。

 動くことすらまともにできやしないのだ。

 それは仕方のないこと。


「『神焔滅斬』!」


 そしてそれがわかっているからこそユウキも最大火力で魔王に斬りかかる。

 以前、不意打ちでこのスキルを当てたときは魔王の体に傷をつけた。


 今はその時よりも確実に強くなっている自負がユウキにはあった。

 そしてそれはただの思い上がりなどではなく魔王自身も感じたたしかな事実。


 なにより、今のユウキにはこれまでの努力をともすれば否定しかねないほどの『力』があった。


――~~~~~ッ!!


 爆音が、音すら消えるほどの爆音が響いた。

 言うまでもなくユウキの『神焔滅斬』が魔王に対して降り下ろされた結果である。


 その威力によって直接攻撃があたった訳ではない周辺の床ですら余波で捲れ上がり魔王がいるはずの箇所からはもうもうと土煙が上がる。


「――ッ!?」


 人間の間では死と同義とされるドラゴンですらこの一撃を受ければ抗うことすら許されずただ終わりを迎えるだろう。

 たとえ全種族で最強の力を持つ魔族であろうともその未来にドラゴンとそう差異はないだろう。


 疑う余地など一切ありはしない全てを破壊し尽くす現状の勇者最強のスキル。

 

 ――しかし、それは魔王には当たらない。


「この間とは比べ物にもならないほど威力上がってるね。……あんまり無茶な鍛練は体に毒だよ?」


 そんないつもと変わらない、しかしどこか心配そうな様子で魔王はユウキにそう声をかける。

 細い首筋にその到底男のものとは思えないほどに白く綺麗な指を這わせながら。


「…………どういう、こと? 今のは絶対に避けられなかったはず……」


 しかし、そんな魔王の気遣いなどお構いなしで油の切れた機械のようにギギギと首を捻りその目に困惑の色を宿しながらユウキはそう尋ねた。


「別に教えてあげても良いけど……そういうのを考えるのも闘いの醍醐味って奴なんじゃないの?」


「……拘束を解いた?」


 ユウキの疑問にほんの一瞬迷うような様子を見せ、そう返す魔王。

 そんな魔王にユウキは少し考えるような素振りを見せたあとそう首を傾げながら尋ねる。


「……残念、はずれ」


 尋ねるユウキに魔王は思う。

 それを一応は敵である俺に聞いてしまうのかこの子は、と。


 それが単純にユウキが残念な子だから出てくる言葉なのか。

 それとも少しは彼女の信頼を得られたのか。

 魔王には判断がつかないがそれでもユウキに問われたのなら魔王に答えない理由はない。


「じゃあ……なに?」


「もうギブアップ? 早くない?」


「わ、私だってできることならあんたになんか頼りたくないわよ! けど……こういうときに意地張ったって良くならないことは知ってるし……」


「……そっか」


 以前の彼女ならきっとそうは考えなかった。

 ただがむしゃらに後先のことなんてなにも考えずに突っ込んできていた。

 

 それが予想できるからこそ魔王はユウキの言葉に笑みを浮かべる。

 いつの間にか自分が想定していた以上にユウキは成長しているのだと。


「な、なによ!? 何かおかしいこと言った!?」


「ううん。でもそれならあれだね……敵の俺に聞くのはあんまり良い考えとは言えないんじゃない?」


「それは……いつも何だかんだで聞いたことには答えてくれるし……」


「なるほど。そこまで俺のことを信頼してくれてるとは思ってなかったな。感動で泣いちゃいそう」


「誰もそんなこと言ってない!」


 ユウキの言葉に感慨深そうな表情を一瞬見せたのち、わざとらしく涙をぬぐうような様を見せる魔王にユウキは泳がせていた視線を戻し叫ぶ。


「……それで……どうやって避けたのよ……?」


「…………もうちょっと上目遣いで屈辱に悶える感じでもう一回お願いしま……ん?」


 頬を軽く朱に染め視線を逸らしながら再度尋ねるユウキ。

 そんな彼女の様子に煩悩丸出しの魔王だったが、彼の超人的な感覚をもって微かに掴んだ違和感に言葉を続けることも忘れて首を傾げる。


 その次の瞬間、『ピキッ』という明らかにマズイ音と共に辺りの床や壁一面に亀裂がはしった。

 考えるまでもなく原因はユウキの攻撃だろう。

 いくら城の作りが頑丈とはいえドラゴンすら一撃で殺す攻撃を何度も受ければ到底耐えきることなどできはしない。


「……やっべ……またセレンがブチギレるぞこれ……」


 そんな魔王の若干生気の抜けたような声など知ったことかとでもいうように広がっていく亀裂。

 そして、それが部屋全体に広がった瞬間。


 ――城が崩れた。


 それはまるで積み木で作った城が一つのパーツが欠けたことによって崩壊していくように。

 視界を遮るほどの土煙と耳を塞ぎたくなるほどの音を立てながら崩れていく。 


「ね、ねぇ、魔王……」


 足場を無くしほんの一瞬空中へと投げ出される魔王とユウキ。 

 そんな状態のなかどこか焦りを声に乗せユウキは魔王に呼びかける。


「ん、どしたのユウキ。……なんか顔色悪い?」


「なんか……体に、力入んない……」


「……は?」


 消えそうなほどか細い声でそう告げると一切重力に抗う様子なくユウキは地面へと落ちていく。

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