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勇者が好きすぎる魔王は最強なのにあまり勇者に慕われていないようです。  作者: 日暮キルハ
魔王と日常

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13/41

曰く、俺の方がうまくやれるようです

 勇者が魔王を殺す。

 ならば自分は一体何のためにこの世界に召喚されたのか。


 王は言った。

 お前は戦士だと。


 魔術師は言った。

 貴方は救世主だと。


 平民共は言った。

 貴方様は英雄になる存在だと。


 ならば。

 そう言うのならば。


 俺が魔王を殺してしまっても構わないだろう。


 異世界から召喚された少年は両隣に元の世界ではとても手が届かなかったクラスのマドンナ的存在の少女を二人侍らせそう考えた。


 彼に魔族の魔の手から全種族を守るだとかそんな崇高な意思は微塵もありはしない。


 あるのはただ一つ。

 永遠に満たされることのない支配欲だけ。


 少年はこの世界に来るまでいじめにあっていた。

 

 きっかけはなんだったか。

 見た目が悪い。

 性格が悪い。

 態度が悪い。

 オタクなのが悪い。

 根暗なのが悪い。

 

 挙げだせばキリがなく結局そのどれもが都合よく適当に作られた建前に過ぎない。


 簡単な話。

 少年は『何となく』いじめられたのだ。

 もっと言えばつまらない日常の中を自分たちにとって少しでも『面白い』ものにするための『贄』に少年はされたのだ。


 階級制度というのは何も昔の話ではない。

 形を変えスクールカーストとしてたしかに存在するのだ。


 カースト上位のそいつはカースト下位の少年を選んだのだ。

 自分たちの暇つぶしの遊び道具に。


 教科書がゴミ箱に捨てられた。

 筆箱がゴミ箱に捨てられた。

 上履きがゴミ箱に捨てられた。

 弁当がゴミ箱に捨てられた。

 かばんがゴミ箱に捨てられた。

 スマホをゴミ箱に捨てられた。

  

 お金を失った。

 友人だと思っていた人を失った。

 

 頭を殴られた。

 顔を殴られた。

 胸を殴られた。

 腹を殴られた。

 背中を蹴られた。

 太腿を蹴られた。

 全身徹底的に痛めつけられた。


 頭を殴られた時はグラグラして吐いた。

 顔は殴られた時は頬が赤く腫れあがった。

 胸を殴られた時は苦しくて息ができなくなった。

 腹を殴られた時は気持ち悪くてやっぱり吐いた。

 背中を蹴られた時は痛くて苦しくて立てなかった。

 太腿を蹴られた時は痛すぎて虫みたいに這いずり回った。

 全身、怪我がない所なんてなかった。


 それでも彼らは言うのだ。

 

 ただじゃれ(・・・・・)てるだけだろ?(・・・・・・・)、と。


 そして教師は言うのだ。

 

 やりすぎない(・・・・・・)ようにしなさい(・・・・・・・)、と。


 誰も少年を助けてはくれなかった。

 少年は学校に行きたくないと両親に告げた。


 すると両親は言った。


 私達に恥をかか(・・・・・・・)せるつもりか(・・・・・・)、と。


 少年に逃げ場なんてものはなかった。

 では、いっそのこと死ぬか?

 

 それを少年は望まなかった。

 痛いのも苦しいのも嫌だった。

 何よりも自分をここまで苦しめた奴がこれから先のうのうと笑顔で暮らしていくのが許せなかった。


 だから少年は決めたのだ。

 どうせなら殺してやろうと。

 せめて自分をここまで追い詰めた奴らに報いを受けさせてやろう、と。


 しかし、それが達成されることはなかった。

 なぜならその日、教室に入った少年は光に包まれ気付けばこの世界へと転移していたから。


 初めこそ事態が把握できなかった少年だったが元々アニメやラノベに親しみがあったこともありすぐに状況に順応した。

 そして、自身がこの世界に召喚された魔王を殺すための戦士であり自分のような異世界人には『才能』と呼ばれる力が備わっていることを知った。


 そこからの少年の行動は早かった。

 自分よりも弱い相手と服従した相手の全てを意のままに操ることのできる『支配者』の才能を用いてまず少年は自分を苛めていた生徒たちの恋人を支配下においた。


 当然、これまで自分たちの玩具に過ぎなかった奴がそんなことをすれば激怒するに決まっている。


 そんな彼らの怒りを心地よさそうに受けながら少年はこう続けた。

 恋人が死ぬところを見たくなかったらお前らも俺の支配下に入れ、と。


 それに対する答えはもはや聞き取ることすらできないほどに怒りに乱れた罵倒の言葉。

 誰かを虐げ自分はその上に君臨するのが当たり前になっていたプライドの塊の彼らがたかが(・・・)女一人のために自分を犠牲にできるはずもなかった。


 そしてそんなことは少年もよく理解していた。

 だから奇声をあげて襲い掛かるクラスメイトを何の躊躇もなく取り出したサバイバルナイフで貫きその場にいた全ての人間を黙らせた。


 そうして少年の復讐は始まった。


 毎日のようにやられたことをやり返した。

 毎日死ぬ寸前まで暴力を与え続けた。

 毎日目の前で自分の恋人だったはずの女と行為に及ぶところを見せつけた。

 毎日自分を慕っていたはずの人間に暴力をふるわせた。

 毎日体と心を殺していった。


 それらの一つ一つが少年の枯れた心を満たしていくようだった。


 少年は思った。

 これまで自分は奪われ続けた。

 なら、この世界で他人から奪って何が悪いのか、と。


 道行く幸せそうな恋人たちの仲を裂いた。

 子供連れの幸せに満ちた若夫婦を殺して子供を孤独に叩きおといた。

 余生を好きな人と暮らしたいと望んでいただけの老夫婦を達観してるみたいでなんかムカつくからと男だけ殺した。

 

 欲しいものは簡単に手に入る。

 望めば簡単に手に入る。

 きっとそれは幸せなことだ。

 少年はそれはこれまで虐げれてきた自分の『権利』だとそれを認識してきた。


 だからおかしいと。 

 自分以外が幸せになるなどおかしいと。


 欲しいものを全て奪い、説教を垂れてくる王に自分を敵に回したいのかと脅しをかけ、全てを自分の思うままに少年はしてきたしこれからもするつもりだった。


 そんな次の少年の獲物は魔王……ではない。

 当然魔族という特別な種族も少年がいつかは支配下におこうとしているものに他ならずすでに支配下においたモンスターを用いて少々手出しはしている。

 しかし、今はそれ以上に支配下におきたい者がいるのだ。


「ああいう信念に満ちてますって女を堕とすのは最高なんだよなぁ……!!」


 醜悪な笑みを浮かべそれに対して向けられた左右の女の視線が気に入らなかったので殺したあと、神代仁(かみしろじん)はその目に狂気の色を宿しながら今しがた自分が殺した女を抱いた。

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