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魔王は勇者にそろそろ振り向いて欲しいようです

 その日、魔王は四天王を招集した。

 それはかなり珍しいことだ。


 基本、魔王は放任主義(てきとー)なので優秀な周りが何か問題が起きると各自の判断で勝手に解決してしまう。

 そのためわざわざ四天王が集められるような事案が起きることなど滅多になく、今回の召集も魔王が魔王になってからまだ二度目のことであった。


 ちなみに一度目の招集は魔王が道を作り全種族に宣戦布告をかまして一万にも及ぶ軍勢が魔王の首を狙って進軍してきたときのことである。

 そういった前例があったために普段はわりとのほほんとしている四天王たちの間に流れる空気にはどことなくピリついたものがあった。

 また自分たちの主はとんでもないことをしでかしてくれたのではないかと。


「なぁ。一つ聞いていいか……?」


「私達にお答えできることでしたらなんなりと」


 玉座に腰掛ける魔王の様子も普段のやる気も覇気もないふざけたそれではなく何か重大な問題を抱え、思い悩む男のそれであった。  

 ゆえにそんな魔王の重苦しい一言に最大限の敬意を払いその口からたとえどんな言葉が飛び出そうとも動揺しないことを心に決めテネブルはそう返した。


「いや、そのな……俺どう考えてもユウキからの好感度低くね?」


「…………」


 そして、閉口した。

 しかしそれも仕方のないことだろう。

 これ以上にないくらいに深刻な顔をしておいて吐いたセリフはまるで緊張感に欠けたものだったのだから。

 顔つきだけで言えば一度目の招集をかけた時よりもよほど深刻な顔つきをしていたのだ。

 とんだ詐欺である。


 とはいえテネブルも伊達に魔王に仕えてはいない。

 ゆえにほんの一時思考回路が誤作動を起こしたもののすぐに正気に戻り主の問いに答えを出そうと身を乗り出す。


「…………申し訳ございません。聞き取れなかったのでもう一度お願いします」


 残念ながらテネブルは心底魔王を敬愛していた。


「……はぁ。魔王様、もしかして俺達今日そんなしょうもないことの為に呼ばれたんですか?」


「おまっ、しょうもないってお前な! 俺にとっては大概の事より重要な……こと……だぞ?」


 そんなテネブルの様子を見て「あ、これほっといたら話進まねえや」といち早く察したバクがため息をこぼしながら魔王に呆れたような視線と言葉を向ける。


 そして、それに対して魔王はムッとした様子で玉座から立ち上がり異を唱えようとしたが途中から自信が無くなってきたのかだんだん言葉は尻つぼみに小さくなっていく。

 

「つーか……俺は正直あんまりよくは思ってないですからね。あの勇者本人はともかく人間はいつも勝手な理屈押し付けて自分達の非道な行いを正当化しますし……」


 そんな魔王にバクは少し迷うような様子を見せたのち、そう言葉を続けた。

 生粋の魔族である彼からしてみればそれは当たり前のことである。


 彼とて好き好んで人間を殺してやりたいとは思っていない。

 しかし、バクという魔族からしてみればどこまでいっても人間という種族は愚かしいことこの上ない種族なのだ。


 あらゆる種族に劣る力。

 そして、短い寿命。


 そんなことに対してバクは人間を愚かしいと表しているわけではない。


 バクは人間のどうしようもないほどにずる賢く薄汚い思考と果てのない欲望を愚かしいと表しているのだ。


 なぜあらゆる自分達にとって都合の悪いことの責任を魔族に押し付けるのか。

 なぜなんの罪もない魔族の民達を殺しておいてそれがまるで正しいことのように振る舞うことができるのか。

 なぜ……こんな無意味な戦争を終わらせることができないのか。


 バクには理解できず、また理解したいとすら思うことができない。


 もちろんバクも人間の全てが今あげたような愚かしい者ばかりだとは思っていない。

 なかには良い人間も悪い人間もいてそこに魔族との違いはないのだろうと理解している。

 でなければ『魔王』という魔族の王という立場に人間がつくことを許せるはずもない。


 理解しているのだ。

 大事なのは種族全体としてではなく魔王や勇者といった目の前の人間が信じるに値するのかということだと。

 

 けれども……それを考慮にいれてもやはり魔王が勇者に抱く感情をよく思うことはできない。

 今はまだいい。

 魔王と勇者にはとてもじゃないが埋まりきらない差がある。

 今の勇者では四天王にすら勝てはしない。


 けれども勇者の成長速度は明らかに常識を逸脱しているのだ。

 それがやがて魔王を追い抜けば一体どうなってしまうのか。


 魔王の強さは重々理解している、というよりは理解すら及ばないほどに魔王が強いということを理解している。

 勇者がどれほど成長したところで到底追い付けるビジョンが見えないくらいには強いと理解している。


 それでもバクが魔王と勇者の関係をよく思えないのはひとえに万が一にも魔王に死んでほしくないと心から願っているからだろう。


「……たしかによくよく考えてみたら人間マジろくでもないな。滅べばいいのに」


「人間のあんたがそれを言ったらダメでしょ……」


 もっとも件の男はそんなバクの複雑な感情に気づいた様子もなくいつものように適当なことをのたまっているのだが。


「ま、あれだよあれ。……俺が人間風情に殺されることなんて絶対にありえないからそんな心配しなくていいよ」


「――ッ」


 そして、そのままふざけた様子を保ったままそう続けた魔王にバクは動揺を隠しきれず目を見開く。


 そういうところなのだ。

 道化のような普段の有様からは想像すらできない全てを見透かし遥か高みから嘲笑うかのように見下ろされる錯覚を覚えるようなそれなのだ。

 バクにとっては恐ろしく、そしてこれ以上ないほどに敬愛の念を抱かさせられるのは。


「そんなことよりどうすればユウキを惚れさせられるか案をくれ!」


 もっとも残念なことにそれが長時間続くことなどありはしないのだが。


「いや……そんなの自分で考えてくださいよ」


「それができないから苦労してるんだろ! というか逆にできると思ってんのか!? なんかくれよ! これ言えば女の子は絶対堕ちるみたいな魔法の言葉!」


「あんた恋愛舐めてんだろ?」


 他力本願全開の主に思わず叫ぶバク。

 やはり魔王は所詮魔王であった。


「魔王様、僭越ながら私が妻に送った『私が追い付けないのは君だけだ。なぜなら追い抜いてしまえば君を見ることができないだろ?』という言葉を」


「なんか黒歴史抉ったみたいでごめんな……」


「あんれぇ!? そんなにダメですか!?」


「いや、ダメっていうか死ねっていうか……」


「そこまで!?」


 四天王唯一の既婚者であるバロン。 

 口を開いたと思えば散々な言われようである。


「……分かりましたよ魔王様! つまり魔王様は勇者を魔王様の手中に収めたいという事ですね!?」


「今更……?」


 思案顔で唸っていたテネブルだったがハッと顔を上げそう言った。

 当然のことながらテネブル以外はそんなこととっくに分かっていたためにバクの呆れたような一言が流れる。


「でしたらおススメの言葉がありますよ! 『レイ・ブウォンッシュ』というまじないなのですが」


「洗脳の魔法じゃねえか……」


 まるで名案だとでもいうように闇属性の最上級魔法の一種を口にする部下にさしもの魔王を呆れた視線を向ける。


「はぁ……まぁお前らに期待した俺がバカだったか」


「殴りますよ?」


「アイズ、あとはお前だけが頼りなんだ! なんか名案ないか? こう……一発で惚れるようなの!」


「あんたほんと……」


 魔王の失礼かつ残念な発言に呆れた視線を向けるバク。


「……魔王様……魔王様を……殺して……私も……死ぬ……?」


「なんで!?」


 その後も作戦会議(茶番)は続いた。

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